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発光ブツは生身の人間

 ダメだ。もうダメだ。なんという疲労感でしょうか。男性との、というか殿下との二人の時間が、これ程までに精神と体力を削るなんて……。

 例えるなら、逃げ出した狂暴な鶏を追いかけ回して格闘したあげく、小屋に入れる間際にまた逃げられてもう一度同じことをする、くらい疲れています。


 勘違いのないように言っておきますが、殿下はキラキラな素敵物語の登場人物も真っ青と思われるほど、とても紳士でした。

 綻びはじめたばかりの薔薇を見て『貴女のようですね』と言ったり。揺れる私の黒髪を見て『まるで星屑を閉じ込めた夜空のようですね』と言ったり。段差があれば『気を付けてください』、風がふけば『寒くないですか』、少し歩けば『疲れていませんか』。

 それに対する私の返事といえば『はぁ』『まぁ』『いえ』ばかり。なんか、もう、申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 男性に対して苦手意識があるとか、殿下自身が受け付けない人種だとかではありません。理解の範疇を越える王子様っぷりに、ついていけないだけです。未知との遭遇! 的な。


 そもそも初対面の人と円滑にコミュニケーションをとるには、表情や目線に仕草、私にはオーラもありますが、それら視覚から得る情報が必要不可欠だと思うんです。殿下にはそれがナイナイづくし。

 お互いによそよそしければ、それ相応の関係で落ち着けると思うのですが、殿下がはじめから極めて好意的且つ紳士的すぎて、距離を掴みあぐねているのです。


 まず存在自体が遠いのですよ。王子様という身分もありますが、なんと言っても発光ブツなのがちょっと。確かに隣にいるのに、どこか現実味がないというか。

 とは言え、ちゃんと生きてる人間だってことは理解してますよ。エスコートしていただいた時の腕の感触は大人の男性らしくしっかりしていて、弟のアルとは全然違いましたし。あとは上品で爽やかな香りが……。おっと! 痴女のようにサワサワクンクンはしていませんからね。そこのところお間違いのないように。


 とにかく、これからも暫くはこれが続くのかと思うと重い体がより重くなります。私は豪華なソファに、座ってるのかずり落ちているのかわからない格好のまま深く息をつきました。

 どう考えても、一刻も早く帰りたい。疲れた。つかれたー。ツカレター。


 起きてはいますが全ての思考を手放して、ひたすらボンヤリとしていた私ですが、ドアがノックされたので慌てて居ずまいを正しました。どうぞ、と促せばここに来てからお世話になっている侍女さん、ハディさんが夕御飯のワゴンを引いて入ってきました。


 テーブルに並べられていく豪華な食事にヨダレが湧きます。当初はさらに豪華な食事だったのですが、日頃の粗食になれた私の胃には重すぎて、幾分量も品数も減らしてもらいました。それでも我が家の誰かの誕生日より、というか比べるのもおかしいだろうという程、ずっとずっと豪華ですけどね。

 出されたものは全て残さず食べましょうの精神で、私は食事をはじめます。一人での晩餐は寂しいですが、今日も本当に美味しいです。あぁ、実家のみんなにも食べさせてあげたい……。


「お嬢様、本日、殿下とお過ごしになっていかがでしたか?」


「ぶほっ!? ……ごほっ、ごほっ!」


 食事を吹き出すことはなんとか耐えましたが、むせるのはとまりません。とくに慌てることなく、ハディさんが背中をさすってくれました。


「なぜ、急にそんな話を……」


 涙目で訴えます。ハディさんはとても世話好きな侍女さんで、もの慣れない私をさりげなくフォローしてくれたり、何より話し相手になってくれる優しい人です。オーラも水色から緑のグラデーションで、それを如実に物語っています。しかし、今の話題はいただけません。


「いけませんでしたか? 他の候補者の方々は殿下の気を引きたくて仕方がないご様子ですのに、お嬢様は失礼ながら無関心に見えて……。王子様って憧れではありませんか? つくづく不思議に思ったものですから」


 ごもっともです。ですが……。


「分別はわきまえているつもりです。私では殿下の隣になんて立てるはずがありません」


 ハディさんはなおも不思議そうにしています。


「さらに失礼を承知でうかがいますが……、殿下とご結婚となれば、ご実家の窮地も救えるのではないでしょうか?」


 はい、正論きました。他のお嬢様方の情報をくれたのもハディさんです。私の情報だって握っていて当然でしょう。

 私も五人の候補に残った時点で考えましたよ。ですが、どうしても越えられない壁があるのです。


「殿下は眩しすぎて、私には無理です」


 もう、本当、終始これに尽きます。

 まず先程も述べた通りコミュニケーション、いえ最早日常生活です、それに支障をきたすほどの懸案があるのに、どうやって夫婦になれというのでしょう。あの発光ブツを視界に入れないように気をつかいながら、ずっと一緒にいるのは無理です。疲れます。


「左様でございますか。ですが、ここに残っておられるのですから、その意味をもう少しお考えになって頑張ってみてはいかがでしょう?」


 ハディさんの気遣いが切ないです。それは、あれですよね。他の四人に並び立つ魅力が私にもあって、少なくともその点において殿下が私に好意を持っていると、そういうことですか?


 自分事ながら本当に不思議ですよねー。一体全体、私にどんな魅力があるというのでしょう。

 卑下するわけではありません。私は自分が大好きですし、清く正しく胸を張って生きています。人として劣っているとも思っていません。

 しかし、事、王宮にいらっしゃるような方々と私が肩を並べるとなれば、いやいや並んではいけません! 悪目立ちしますよ! となるのが分かりきっているではありませんか。


「生産性のない努力はしません」


 私はきっぱりと首を振りました。

 王宮にいる間に、殿下以外の素敵な殿方を捕まえるという手も実は考えました。ですが、殿下のお妃候補として滞在しているのに、ホイホイと違う方に色目を使うなんて器用なことを、私ができるはずもなく。


 なにより、領地に帰り家族の側にいてこそ、私の真価が発揮されるというもの。私が私らしく輝くために必要なのは、緑の農地ととぼけた家族なのです!


 大体結婚するなら普通の人がいいです。が、しかし、その結婚もアルがお父様の後を継げるまで成長したら、一考の価値があるかな程度。そもそも、実家に財力もない、女としても魅力にかける私をもらいたいと言う方なんて絶対変態の変人です。そんな結婚断固拒否です。それに例え結婚せずに実家に居座っても、でしゃばらずに弟夫妻を立て、尚且つこの能力があれば穀潰しとは言われないでしょう。


 少し思考に耽ってる間に、食事が冷めてしまいました。でも、もちろん残さず食べますよ。おなかを満たすことが、明日への活力を生むのです。


「お嬢様は無欲すぎます」


 そんな言葉に、私は肩をすくめるだけの反応を返します。無欲な訳ではないですが、事情を知らない人からすればそう見えてしまうのでしょう。

 ハディさんがため息にのせて『しかもお嬢様は磨けば光るのに』と呟いたのも、食事を再開した私には聞こえませんでした。



本日もありがとうございました!


今回の出だし、恋愛小説なのにデートシーンをとばす荒業で…甘め期待してた方すみませんm(__)m

ジルベルト様がこの調子の間はリナちゃんとの距離は縮みません~

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