カシマシ女子トーク2
二話連続投稿しています。
こちらから来た方は一話前からお願いします!
説明しようとしたところで、皆様がそろって身を乗り出してきたので、言葉を飲み込んでしまいました。眼光が鋭くなってます。なにやら怒らせてしまいましたか? そ、そうですよね。あの時はいっぱいいっぱいで思いもよりませんでしたが、考えてみれば抜け駆けもいいところですものね。でも、これには事情が……。
「だ、大丈夫ですよ! ジルも了承済なので、皆様がアピールされれば……」
慌てて言葉を重ねますが、すぐにメルリア様とアリサ様に遮られてしまいました。
「ちょっと、お待ちになって!! 共同戦線って何なのです!?」
「リナ様は殿下がお好きですわよね!? 思いが通じあって恋人同士なのでしょう!?」
は? 恋人?
「い、いえ! 違います!!」
「「「「……」」」」
『頭が痛いですわ』とのメルリア様のつぶやきを合図に、それぞれ頭を抱えたり眉間を押さえたりなさっています。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「呆れてものも言えませんわ……」
「違うって、では何なのですか………」
「あれだけ見せつけておいて……」
「か、考えられません……」
口々に呟くものの、唖然としているのは皆様同じです。
「あ、あの……」
うなだれる格好に合わせて、オーラまでもが萎れたようになっています。不安になって声をかけようとしましたが、その途端一転してオーラが噴出し、同時にカッと目を見開いて顔を上げられました。なんでしょう、このシンクロ率は! 皆様、私が知らない間にどれだけ仲良しになったんですか!? いや、今はそれどころではありません。集中砲火の予感に、私は体に力を入れます。
「ジルベルト様のあの分かりやすい態度に気が付かないなんて、どうなっているのです!!」
「あんなに甘く見つめあっておいて、無自覚ってどういうことですの!?」
「私達の心の機微にはあれほど敏感なリナ様が、よもやそんな事を仰るなんて!!」
「そんなに大きなダイヤを、たかだかお妃候補にあげるはずないではありませんか!!」
目を爛々(らんらん)とさせた上に、予想以上に大きな声で責められ、どうしていいか分かりません。最初にあった労りに満ちた空気はどこに行ってしまったのでしょうか。圧倒されてしまった私の半開きの口からは、言葉どころか息さえもうまく出ません。
「……皆様、一度落ち着きましょう」
固まってしまった私を思ってか、メルリア様が一時の猶予を与えてくれます。そろってカップを手にとり、音をたてないように美しく紅茶を含む様は、一見落ち着きを取り戻したように見えます。ですが、依然としてオーラはゴーゴーと燃えています。成す術のない私は、その様子を黙って見つめながら息を調えるしかありません。
カチャっとカップをソーサーに置く小さな音が、尋問開始の合図に等しく聞こえたのは私だけでしょうか。そして口火を切ったのは、やはりメルリア様です。
「リナ様。まず、リナ様はジルベルト様をどう思ってますの? 私達を友人と思うのなら、正直にお答えくださいませ」
漂う空気が真剣です。友人と思う気持ちにかけてって、すごい本気度です。嘘も偽りもなくお答えしなければなりません。
「素敵な人だと思います。少し意地悪ですけど、いつだって優しくて。ときどき子供のように拗ねたりするのも、少し面倒ですけど、しょうがないなぁという気持ちになるというか」
「ドキドキされたりします?」
アリサ様、その答えは決まっていますよ。
「それは勿論。あの麗しいお顔で微笑まれてドキドキしない方っていないのではないですか? 皆様もそうおっしゃってましたし」
「「「「……」」」」
私の返答に皆様考えこんでしまわれました。そんな変なことを言ったでしょうか。何かに気が付いたように顔を上げたライラ様が質問を続けます。
「では、リナ様、王太子殿下は? 王太子殿下のお顔を見たり微笑まれたりしてもドキドキします?」
「えっ、いいえ」
「王太子殿下も相当な美丈夫でしょう? お話して側にいる機会もあったではありませんか。少しも何も感じませんでしたか?」
マリーベル様からも続けて質問され、頭にイェリク様と庭を散歩した時のことを思い浮かべます。朱金の髪に木漏れ日がキラキラしていたこと。穏やかな琥珀の瞳の奥が憂いに揺れていたこと。思い出してみても気持ちは凪ぐ一方で、そこにドキドキはありません。
「はい。特には」
よく考えるために数呼吸分遅れてした私の返事に、皆様は深いため息をついて怒らせていた肩から力を抜きました。
「私はお顔で言えば、ジルベルト様でもイェリク様でも変わりません」
「お二人とも美丈夫で、微笑まれれば同じように胸が高鳴りますものね」
「王太子殿下には大人の余裕がおありで、それがまた素敵ですのよね」
「本当に眼福で、それだけでもここに来た甲斐があったというものです」
皆様の脳裏にはジルとイェリク様が等しく浮かんでいるのでしょうか。そのうっとりとした表情は以前も見たことがあります。皆様の中ではジルもイェリク様も同格ということですか? でも私は……。
メルリア様が優しくニッコリと微笑まれます。
「まだお分かりになりませんの? リナ様、ジルベルト様に恋してますのよ」
こ、恋……!?
「殿下のことを思い浮かべてごらんなさいませ」
アリサ様の言葉に、苦もなく頭に紺碧の瞳が思い浮かびます。それに柔らかく癖のある金の髪も、少し意地悪に、でも優しく弧を描く薄い唇も。抱き締めてくれるしっかりした腕と胸も、髪を撫でる大きな手も……。思い出しただけで、ジルの匂いがした気がしました。キュッと息が詰まって、自然と手を胸にあてます。
「殿下を思って胸が苦しいのでしょう?」
「恋の病ですわね」
胸が苦しいのは恋の病? 恋? 私がジルに恋……。
釈然としなかった思いが、形をもってストンと私に落ちてきた気がしました。ピタリと心にはまった答えに目が覚めます。そっか、私、ジルのことが好きなんだ。好き、なんだ……。
顔が素敵だからではなくて、距離が近いからではなくて、ジルだからドキドキしてたんだ……。
「……わ、わた、私……。ごめんなさいっ!!」
「ちょ、ちょっと、リナ様! ごめんなさいってどういうことですの!? ま、まさかこの期に及んで……」
慌てたように両手をわたわたさせるメルリア様に、私は勢いよく首を振りました。込み上げてくるものを堪えるために、おなかに力を入れて声を張ります。
「わ、私、ジルのことが好きみたい、ではなく、好きです!! 最初は興味なかったくせに、こんなの最悪ですよね!? わかってます、わかってますけどジルのことを好きなのは変わらないです、変えられそうもないです……。でも、でも! ごめんなさい! 私は皆様に嫌われたくないんですよー!!」
決壊しそうな涙腺を根性でせき止めます。美人の涙は美しいですが、私のは違う! 自分の欲求を叩きつけるように叫んだ挙げ句に泣くなど、私は三歳児ですか! せめて泣くのだけは堪えきります。ですのでどうか、どうか、私を嫌わないでください!!
「……もう、なんですか、慌てさせないでくださいませ。気付いた恋心より、私達との友情が気になるなんて嬉しいですわね」
「私達、とっくにそのつもりでしたのよ。それに、こちらこそ末永く宜しくお願いしますわ」
「知らぬはリナ様だけですわね。リナ様に……皆様にお会いできて本当に良かったと思ってますの」
「この顔合わせに私は運命を感じています。これ以上ってなかったと思いますよ」
知らずに力いっぱい握りしめていた拳を広げると、わずかな間にすごく汗ばんでいました。穏やかな皆様の言葉に、私は詰まってきた鼻をグズつかせます。言葉が嘘ではない証拠に、オーラもとっても満足そうに揺れています。
「こ、これからも仲良くしてくださるんですか?」
「「「「もちろんです」」」」
だばーっと、涙があふれます。限界点を突破してしまいました。なんて素敵な方々なのでしょうか。
「あ、ありがとう、ござい、ます、うぅ~」
結局汚い顔を晒してすみません。ですが自分を擁護する涙ではなく、嬉し泣きなのでどうかご勘弁ください。
さらには皆様そろって側にきて、それぞれ背中や頭を撫でてくれます。こんな私には本当にもったいない方々です。優しい、優しすぎます。
「そうですわね、一つ、課題をだしますわ」
メルリア様の言葉に、私は涙で霞んだ視界をあげました。
「ジルベルト様にちゃんと告白なさいませ。共同戦線としてのプロポーズではなく、ご自分の気持ちを伝えるのです」
「先程は意地悪をしてしまいましたからね」
「確かに、少し殿下が不憫ですわ」
「えぇ、あんなお顔をなさって……ふふっ」
悪戯を思い付いたように首を傾げるメルリア様に、残りの皆様も口々に賛同されます。
「ね? リナ様、宜しいわね? お約束よ?」
「は、はい。頑張ります。もしダメだっ……」
「「「「もしの話はいりません」」」」
皆様の剣幕に涙が引っ込みます。再び体を引いたところで、扉のノック音が響きました。
「少し、いいだろうか」
かなり緊張したジルの声に、皆様と顔を見合せます。
「ほら、噂をすればなんとやら、ですわ」
本日もありがとうございます!
次話はジルのターンになる予定ですが……。
うーん、君がヒーローなのよー、頑張ってくれー。




