カシマシ女子トーク
カシマシすぎて長くなってしまいました……。
二話に分けて連続投稿しましたので、こちらからお願いします!
「リナ様、お帰りなさいませ!」
部屋に着くと、ハディさんがいつもの笑顔で迎えてくれました。すぐに楽になれる簡素な服を用意してくれます。
手早く身支度を調えて居間に戻ると、皆様はお茶の用意がされたテーブルに着かれて、私を待っていてくださいました。
「少し顔色は戻られたわね、良かったですわ」
「ですが目の下の隈がひどいです。お可哀想に」
「少しでもお腹に何か入れて、体を温めた方がよろしいですわ」
「お休みになるのはそれからですね」
優しい。皆様が果てしなく優しい。私は幸せ者です……。
席に着くとすぐに、紅茶や軽くつまめるサンドイッチやスコーンをハディさんが並べてくれます。私は手を着ける前に姿勢を正して、ぐるりと皆様を見回してから頭を下げました。
「皆様、本当にありがとうございました」
そして顔を上げます。いつもの部屋のいつもの席で皆様に囲まれ、ホッとして気が抜けます。
「私達がそうしたかっただけですもの。お気になさらないで」
「私が父からアルトー家の当主と長男に不穏な動きがあると聞いた時は、肝を潰しましたのよ」
「リナ様がこちらにいらっしゃるのなら、気を付けようももっとあったのですけど」
「とにかく間に合って本当に良かったです。皆様で駆け回った甲斐もあったというものです」
私を見つめる目のなんと優しいことか。
「リナ様のお着替え中に報告が来ましたの。オーバンはあの後すぐ捕まって投獄されたそうですけど、当主のブノワがまだ捕まってないのですって」
「なにをグズグスなさってるのか……。リナ様は絶対にお一人になってはいけませんわよ?」
「そのお二人は言うに有らずなのですけど、私、グレン・アルトーも許せませんわ。何か仕返しをしないと気が収まりません」
「……あ、あの、皆様……」
詰まった言葉を発したマリーベル様に視線が集まります。
「私、お恥ずかしながら状況をよく理解していないのです。その、説明してくださいませんか?」
恥ずかしそうに肩をすくめていらっしゃいますが、大丈夫です。当事者の私も全然わかってませんから。
「実は私もよく分かっていなくて。グレン様は何か計画があって、私を敵中に放り込んだとしか……」
マリーベル様が肩の力をぬきました。素知らぬ振りをして、自分だけ無知を隠す真似も、マリーベル様を一人にするようなこともしませんからご安心ください。
『お任せしますわ』というメルリア様の視線と言葉を受けて、ライラ様が頷かれます。
「私の主観も混ざりますので、もし違うと思われたり疑問が生じましたらご指摘くださいませ」
ライラ様が言ったことを鵜呑みにしてしまう自信があるので、疑問がわくかどうか不明ですが、一生懸命真面目に聞こうと姿勢を正します。
「ブノワは王妃陛下の、オーバンは王太子殿下の侍従です。そして二人は言うまでもなく揃って王妃派です。今回の事態を引き起こす切っ掛けとなったのは、第三王子殿下の妃選定と国王陛下の体調不良で従来のパワーバランスが崩れ、王妃陛下の権力地盤が不安定になるのを危惧したことだと考えられます。一番の不安材料であるリナ様の存在を、排除しにかかったということですね。王宮内でリナ様の命をとるようなことは手間になりますので、手っ取り早く体を汚して醜聞を広め、王族の妃としての資格を失わせるのが目的だった、と。ここまでは宜しいですか?」
私とマリーベル様はコクコクと頷きます。
「この状況だけ見れば悪いのはこの二人ですが、問題はグレン・アルトーです。先程の本人とリナ様の発言を鑑みるに、全て承知の上でリナ様を餌になさったのでしょう。では、なぜそのようなことをしたか。あの方はアルトー家を我が物にするために、父と兄を失脚させたかったのですわ。今回はその絶好の機会であったので、リナ様の安全より自身の利益を優先させたのでしょう」
あの腹黒めー! 人を自分の欲望の糧にするなんて!
「ですが、お咎めはアルトー家全体に及ぶのでは?」
マリーベル様、確かに!
「いいえ。アルトー家の不仲は有名ですし、当主と長男は王妃派、末子は第三王子派と公言して憚りませんでした。きっとグレン・アルトーのことです。殿下と主従契約した時にその辺りのことを明確にして、自分に累が及ばないようにしているのではと推測します」
それが本当なら、抜かりがなさすぎます。
「……グレン・アルトーに制裁を加えましょう」
ボソリとこぼしたアリサ様、笑顔がヤバイです。そしてその表情のまま語気を強めて続けます。
「危険な思想を持つ人物を排除するのは大切ですが、そこに自己の利益と他人の危険が折り込み済だなんて間違ってますでしょう!?」
お、おっしゃることは尤もです。
「同じ目にあわせましょう」
アリサ様、同じ目にって……。
「そうですわね……手練れの未亡人に、いえ手緩いですわ。若い男が好きな爺のところに、服を剥いて放り込みましょう」
ライラ様!? か、過激すぎませんか!?
「私、取引先に伝がございますので、爺の件はお任せください」
マリーベル様、さすが商人としての顔が広い……じゃなくてー!!
「ふふふっ、いいですわね」
メルリア様まで……。
「あ、あの、確かにグレン様は許せないですけど! アレでも仕事面では有能で、いないとジルが困る……かな、と……再起不能になったら……ちょっと……」
決してグレン様を庇いたいとかではないのですが、ほの暗い笑みを浮かべる皆様の異様な気配に耐えられずに止めに入ります。
「……リナ様はジルベルト様が大事なのですわねぇ」
しみじみとメルリア様に言われてしまいましたが、いえ、今の発言はどちらかと言うとジルをだしに皆様を止めたかったというか。しかし、メルリア様は、すぐに眉毛をキッと上げました。
「ですが! それとこれとは話が別ですのよ! リナ様はどうも事の重大さが分かってらっしゃらないのではありませんか? そもそも危機管理が足りませんのよ!」
吊り上げた眉毛の矛先は私でしたか! メルリア様の言葉にアリサ様とライラ様が深く頷かれています。
「勿論、悪事を企てた者が一番責められるべきなのですけど、メルリア様の言い分は尤もですわ。未婚の女性が男性と二人きりで部屋になど言語道断です。一番乗りが私達でしたから良かったものの」
「同意致しますわ。あのような姿が他人の目に触れたら終わりでしたもの。いくら時間がなかったとはいえ、私達だけで乗り込むことに不安がありましたけど、今となっては正解でしたわね」
そ、そうですよね。怪しさ満載で分かってはいたんですよ。オーバンが少し抜けているように見えてしまったことと、囮として捕まらなくてはいけないという妙な義務感が、危機管理を怠らせたというか……。
「貴族令嬢って大変ですのね。私も気を付けます」
マリーベル様のポツリとこぼした発言に、一瞬で私を突き刺していた視線が外れます。そしてつかれる三つのため息。
「お二人とも、肝に銘じてくださいな」
「「はい」」
沈痛な面持ちのメルリア様に、マリーベル様と共に間髪をいれず真剣にお返事をさせていただきました。
「はぁ、もうこれ以上ピリピリしても仕方ありませんわね。つまらない話は止めにしましょうか」
頬に手をあてたメルリアは疲れたように肩を落とします。ダ、ダメな子で本当にすみません……。
「何か違うお話をいたしましょう」
「大きな話題の転換が必要ですわね」
「では、殿下とリナ様のことをお聞かせいただきたいです!」
マリーベル様の最後の発言を受けて、一瞬にして皆様の期待に満ちた目がむけられます。
「私と……? えー、それはつまり……?」
「「「「決まっているではありませんか!」」」」
ご令嬢方の剣幕に、私は体を引きます。しかし椅子の背もたれがあってこれ以上は下がれません。
「リナ様はジルベルト様のどこがお好きですの?」
「リナ様の前だと殿下はどんな感じなのでしょう?」
「そのネックレスも殿下からですよね?」
「プロポーズはもうされたのですか?」
おおおぉ。こ、これは、一体……。どこが好き? ジルの様子? ネックレス? それにプロポーズって……、皆様はなぜご存じなのでしょうか。
「もう! リナ様ってば慌てたりして可愛いですわね! 恥ずかしがらずに教えてくださいませ!」
メルリア様にキラッキラと期待に目を輝かせて見つめられ、さらに言葉につまります。
「あ、あの、私が逆プロポーズをしまして……」
「まぁ! リナ様ってば案外情熱的ですのね! それで? それで?」
アリサ様、食い付きがすごい。
「情熱的というか、イェリク様の側妃になるくらいならジルと共同戦線を張ろうかと……」
「「「「はぁ?」」」」
変な切り方ですみません。
余力のある方は次話ありますので、続きをどうぞ!




