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おてて繋いで仲直り

 いつもの庭まで来て、私はジルベルト様と座ったことがあるベンチを一つずつ見て回りました。ここまで全部空振りで、最後の一ヶ所に向かいます。

 そこは一番隠れた場所にあって、一人になりたいなら最適です。いるならここかなとは思っていたのですが……いなかったらどうしましょう。


 目的の場所は、生け垣の先にあるアーチ状に仕立てられた薔薇の下です。ひっそりと隠れるように置かれているベンチをそっと覗くと、随分見慣れた綺麗な横顔がありました。ハズレなくて良かったです。


 私が覗いた途端にジルベルト様はチラリと視線を向けましたが、すぐに外してしまいました。そうですよね、そう簡単に機嫌が直ってるはずないですよね。一人でいる間に冷静になられてるかな、なんて私の希望的観測でした。


「ジルベルト様……」


 ピクリともしてくれません。もう一度。


「ジルベルト様、あの……」


 完全なる無視です。どうしろと言うのでしょうか。


「ジルベルト様……、えー、……ジル?」


「……なんだ」


 反応ありました!


「隣に座ってもいいですか?」


 ジルベルト様は少し横にずれると、無言でハンカチを隣りに広げてくれます。律儀なフェミニストですね。


「……ありがとうございます」


 えー、まず『サリタですぐ来い』という指示に従えなかったことと、昨晩寝てしまったことについて謝罪するところからはじめましょう。よ、よしっ。


「先程は、すぐにお部屋の方に伺えずお待たせしてしまってすみませんでした。それに昨晩も寝てしまって……ごめんなさい」


「……」


 沈黙を続けるということは、お許しいただけないということですか。困りました。


「本当にすみません。どうしたら許してくださいますか?」


「……」


 ジルベルト様は私を許す気がないのでしょうか。沈黙がいつもより頑なです。


「ジルのお怒りもごもっともです。簡単な命令さえ聞けない女で本当にすみません」


「……」


「今後はこのようなことがないよう気を付けますから」


「……」


「あの、本当にすみません。お許しいただけませんか?」


「……」


「「……」」


 続く沈黙。鳥の(さえず)りと木々の葉がたてる囁きだけが辺りに響きます。風が薔薇の香りを強くしながら、私とジルベルト様の髪を揺らしました。葉陰から注ぐ光の粒は、風に合わせるように足元で踊っています。


「「……」」


 もー!! とんだへそ曲げ君ですね! 命に関わるような失敗をしたわけではないではありませんか! 男がいつまでもいつまでもネチッこく(だんま)りなんて、もう我慢できません!


「ジル! 女々しいです!」

「なんだと!!」


 今まで視線を合わせてくれなかったジルベルト様が、キッと顔を上げます。あんなに無反応だったくせに切り返しが早すぎます。ですがここで負けているわけにはいきません。


「だってそうではありませんか! こんな小さなことでいつまでも!」

「小さなことでも数が重なれば腹は立つだろう!」

「数なんてたった二個でしょう!?」

「二個だと! 馬鹿がっ! 俺が昨日からいくらほど我慢していると思ってるんだ!」

「馬鹿って言った方が馬鹿なんですよ! そんなの言ってくれなきゃわからないに決まってるじゃないですか!!」


 売り言葉に買い言葉とはこのことです。最後など私は拳を握り立ち上がってしまいました。上からジルベルト様を睨みます。


 そうなのです! ジルベルト様に関してはちゃんと言葉にしてもらわないとわからないのです。オーラが見えれば会話中の心の変化にも敏感でいられますが、ジルベルト様相手にはそうはいきません。


「なぜそんなに怒っているのか訳を教えてください」


 怒鳴ったことで少し気持ちが落ち着きを取り戻した私は、ストンと座ると幾分普通な声音で聞くことができました。

 ジルベルト様はどうでしょうか。また黙る? まだ怒鳴る?


「……まず、昨日の夜会で着飾って男の目を引いていたのが気に食わない」


 それは、ジルベルト様の勘違いもいいところですね。

 ですがここで反論すると良くないのは分かりますので、とりあえず最後まで黙って聞きましょう。せっかく黙りを止めて話しはじめてくれたことですし。


「しかも目でグレンの所へ行けと合図したにもかかわらず、無視して何人かの男に声をかけられていた」


 あの目の合図にはそんな意味が! 気付けなかったのですからしょうがないではありませんか。


「その後は兄上と楽しそうに会話して……さらに、泣いてるくせに王妃相手にやり合って心配させた」


 イェリク様は楽しそうにしてましたが、私は普通でしたよ? 泣いたのとやり合ったのはまだ説明していませんから、ご理解いただけないのは仕方ありません。心配は……あの時は守ってくれようとする男気に感謝しました!


「部屋まで送って……会話の時間が欲しかったのに、先に寝た」


 それはすみません。でも慣れないことをしたので疲れてしまったのですよ。


「今朝一番で会えると思っていたのに、王妃に呼ばれたあげくまた兄上と会って、さらには側妃だと?」


 朝一番にトリアンナ様に呼ばれてしまったら、とりあえず行くしかないですよね? 側妃の件はお断りしましたよ。


「それでも我慢して部屋で待っていたのに、お前はなかなか来ないじゃないか」


 ご令嬢方に捕まってましたからねー。って、これって……。


「ジル、ヤキモチですか?」


 膝に組んだ手を乗せて淡々と話していたジルベルト様が、柔らかい金髪の隙間から私を見ます。


「……そうだ。お前は俺の妃……候補だろう?」


 体ごと私に向き直ったジルベルト様の紺碧の瞳が、私をまっすぐとらえます。

 これはあれですよ。要するにかまって病が(こじ)れてヘソを曲てるってことですね。


「……配慮と自覚が足りませんでした。すみません」


 私は年齢ではジルベルト様より下ですけど、精神的には大人であると自分を持ち上げました。でなければ謝罪の言葉なんて言えません! 私には私の主張がありますしね! なので心では上から目線で、行動は下手に。これで、仲直りでしょう。


「つまり、俺を蔑ろにしたと認めたんだな?」


「え? ……えぇ。すみませんでした」


 私の返事にニヤリと笑うジルベルト様。あれ、なんだか選択肢を間違えたのでしょうか。


「目、つぶれ」


「は?」


「そういう約束だろう?」


 目が点になっている私を他所に、ジルベルト様は体をよせると間近から見つめてきます。

 色気を放つ超絶美麗顔を直視できずにうつむきます。が、すかさず顎に手を添えられ上を向かされました。


 ち、ち、ち、近いー!!


 迫ってくるジルベルト様の顔に耐えられず、私は焦りと戸惑いでじわりと涙がわきはじめた目をぎゅっと閉じます。鼻が! 鼻があたるー!


「……、……、……」


「……ひでぇ顔」


「にゃにしゅるんでしゅか!」


 ジルベルト様は満面の笑みで私の頬を引っ張ってます。

 失礼ですよ! 乙女の純情を踏みにじられました!! ……キスされるかと思ったのに!


 私は自分の頬によりダメージを受けるのを(いと)わず、顔をひねってジルベルト様の手を振り切ると、そのままそっぽを向きました。


「リナ、こっち向け」


「嫌ですよ! ……、……っ!?」


 ぎゃーっ!! 耳に息を吹きかけられました!

 慌てて耳を押さえようと手を持ち上げましたが、その手まで取られてしまいます。そして指先にかんじる柔らかさ……。

 硬直している私に、ジルベルト様は指先に口づけたまま上目使いでこちらを見てきます。

 ヤバイ。不整脈が……!

 浅く息をしながら尚も金縛りが解けない私に、ジルベルト様はいつもの意地悪な笑顔を見せると、唇を離して立ち上がります。そしてそのまま手を引っ張って、私をベンチから引き上げました。


「さて、戻るか。グレンが煩いしな」


 ジルベルト様が私の手を握ったまま歩きはじめます。手を繋ぐなんて気分ではありません! 私はハンドシェイクの百倍の勢いをもって激しく振りますが、ジルベルト様はそれをものともせず楽しそうにしているだけです。


 もー! おてて繋いでルンルンしてるんじゃないんですよー!


 私は諦めることなく、しつこく振り続けます。だってどうしても離したいんですよ。不毛な努力を続ける私に、とうとうジルベルト様は声を立てて笑いはじめてしまいました。いいように遊ばれて悔しすぎる!

 意地になった私は、部屋まで戻る間に振っては様子を見てまた振ってを繰り返します。ですがジルベルト様には敵わず……繋いだ手はやっぱり離れてはくれないのでした。



本日もありがとうございます!


手をつないでルンルン~((o(^-^o)(o^-^)o))♪

私もしたい(笑)

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