王子様はご機嫌ナナメ
短めです(´▽`;)ゞ
イェリク様と別れて薔薇の生け垣を抜けた時のことです。急に腕をとられた私は、慌てて振り向こうとしてその肩をがしっと止められました。
「俺だ」
すみません。目へのお気遣い感謝致します。
「ジルベルト様、どうしてこんなところに……」
あ、いつもながら力加減を誤ってますよ。とっても痛いです。そしてすごい怒ってますよね?
「下を向いてろ」
ジルベルト様はそう言うと、私の手を引いてズンズンと進んでいきます。気まずいです。とりあえず、ジルベルト様の私室に向かっているのでしょうか? 早くつかないかな。
きっと部屋にはグレン様がいると思われます。いつもは余計なことを言うのでいなくてもいいのですが、怒りモードのジルベルト様と二人きりよりはマシかもしれません。
庭園を抜け廊下を渡り、ひたすら無言で進みます。そんなにギュッと手を握っていなくても、ちゃんとついて行きますよ。ですがそんなこと、ご機嫌の悪いジルベルト様に言えるはずもありません。言えるはずもないのですが、この沈黙を何とかできませんか。いたたまれなさすぎる。
見慣れた廊下に出た頃には緊張で手汗が気になりだし、いつ離していただけるのかと落ち着かず……。やっと手が解放されたのは、ジルベルト様の私室ではなく私の部屋の前に着いたところでした。
「サリタで俺の私室に来い」
「はい」
「いいか、すぐ来いよ」
「……はい」
『寝ないで待つ』という簡単な命令も聞けない子ですからね、念を押されても大人しくお返事しますよ。
ジルベルト様が去っていく足音を確認してから、顔を上げて部屋の扉に向き直ります。俺様王子様のこれ以上の機嫌の下降は私の心臓に負担がかかるので、自分のためにもできるかぎり急ぎましょう。
しかし、やはりこういう時に限って……。
「ランドール伯爵家のお嬢様! メルリア様がお呼びですので、こちらへいらしてくださいませんか!?」
メルリア様の侍女さんが血相を変えて私に寄って来ます。ただ事ではない様子に、腰を引きつつ一応私の意見も言わせてください。
「私、実は急いでまして。後でうかがうとメルリア様に……」
「メルリア様が今すぐにとおっしゃってますから!」
そうなる予感はあったんですけど、やはり問答無用ですか! こうなったら早く行って要件聞いて、さっさと帰ってくるしかありませんね。
気持ちを切り替えて小走りになる私に、侍女さんはびっくりしてますが、遅れをとらずに先導してくれます。メルリア様のお部屋は行き慣れているので案内なんていらないのですけどね。
ドアの前に着くと、髪を撫で服を整え佇まいを正します。乱れているとお叱りを受けますから。
「メルリア様、ランドール伯爵家のお嬢様をお連れしました」
「お入りなさい」
侍女さんが扉を開けてくれたので一歩踏み入れた私は、ご挨拶をしようとして固まりました。
ご令嬢方が揃い踏みです! メルリア様のお部屋にですよ? 皆様で揃ってなになさっていたのでしょうか……。自分で言うのもなんですが、私という緩衝材がなくてまとまっていたのでしょうか……。
そして私の姿を認めたご令嬢方はいっせいに立ち上がります。な、なんだか、気迫が……。
「リナ様、無事でしたのね! それで、何がありましたの!? 私達、リナ様の友人として聞く権利があると思いますの!」
「な、何がと申されましても……」
これは尋問なのですか。一歩後ずさった私ですが、扉は閉められ退路は断たれています。
「リナ様、今朝早く王妃陛下にお呼びだしされたとか。何のお話をなさったのですか?」
そのお話ですか! 耳が早くないですか? 今朝のというか、たった今のことですよ! しかし内容って口外しない方がいいはずです。ここは黙って……。
「「「「リナ様!!」」」」
決して私の口が軽いわけではありません! この場、この雰囲気で口をつぐみ続けられる方がいるとすれば、その方の口は貝ですよー。
「お、王妃陛下に王太子殿下の側妃にあがるよ……」
「「「「なんですってー!!」」」」
いえいえ、最後まで聞いてください!
「落ち着いてください! ちゃんと! ちゃんとお断りして参りましたから!」
色めき立つ皆様の剣幕に負けないように、私も声を張ります。オーラが! すっごくメラメラしてますよ!
「そんなことは当たり前です!!」
「リナ様はもうお決まりの方がいるのですよ!!」
「しっかり意思表示をされたのですか!?」
「私はリナ様の味方ですから負けないでください!!」
気圧されてコクコクと頷く私です。
「それで、今日はもうジルベルト様にはお会いしましたの?」
「いえ、この後……」
「どうして先にそれを言わないのです!?」
いやいやいや、言う暇を与えていただけなかったのですよ!
今度はグイグイと部屋から閉め出されます。
「グスグズなさらないで! 早くお行きなさい!」
「リナ様、殿下をお待たせさせてはいけませんわ!」
「小さなすれ違いが大きな溝になってしまうのです!」
「リナ様、頑張って!」
怒りモード一転、今度は大きな声援を受けて私は自分の部屋に急ぎます。皆様なんであんなに燃えていたのでしょうか。
走る一歩手前の速度で進んでいたからか、そうこうしているうちに自室の前まで来ました。ですが今度はグレン様が、なぜか扉の前で仁王立ちなさってます。
「全く貴女という人は。どこで油を売っていたのですか。殿下の機嫌が最低最悪ですよ」
「あの、メルリア様の……」
「ご託は結構。きっと殿下はいつもの庭にいらっしゃるでしょうから、早く行って連れて帰ってきてください。着替える必要はありません。そのまま、今すぐ」
そ、そんな殺生な! 最低最悪に機嫌の悪いジルベルト様に一人で立ち向かえと言うのですか!
「わ、私一人では……」
「何を寝ぼけたことを……。貴女以外に誰がいると言うのですか? 四の五の言わずさっさと行きなさい」
なぜ私ばかりがこんな目に……。すごすごと向かおうとする私の背中に、グレン様の追加指示がかけられます。
「お待ちなさい。眼鏡をして、しっかり殿下のお顔を見て話をされた方がいい」
さらにハードル上がりましたよ。あー、もー、行けばいいんでしょ、行けば!
本日もありがとうございます!
次話はリナVSジルです。頑張れリナ~ヾ(´▽`*)




