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閑話 ご令嬢方の胸のうち

「朝から皆様に集まっていただいたのは他でもありません。私達の友人、リナ様についてお話したいことがあったからですわ」


 私の部屋に集まっていただくのはこれで二回目になります。はじめてお会いした時は、こうしてテーブルを囲むことになるとは夢にも思っておりませんでした。


「メルリア様、リナ様のこととは先日の夜会のことですか?」


 アリサ様、お話が早いですわ。


「そうです。皆様もご覧になりましたでしょう?」


 私の言葉に皆様そろって頷かれます。


「私は二人を応援したいと思っておりますが、皆様の意見をお聞きしたくて……」


「賛成です!」


 まぁ! 人の話を遮るなんてはしたない方ね。しかもそんなに大きな音をたてて立ち上がるなんて!


「マリーベル様、そのような無作法をされるから侮られるのです。落ち着かれたらいかがですか」


 私は眉を顰めただけでしたが、ライラ様が諌めてくださいました。


「す、すみません。ですが! 殿下とリナ様を応援するなんて素敵だと思って、つい気持ちが高ぶってしまって!」


 胸の前で手を組み、頬を上気させて瞳を潤ませるマリーベル様は夢見る乙女そのものです。


「お気持ちはわかりますわ。夜会でのお二人の様子は、思い会う恋人同士そのものでしたもの」


 アリサ様にもそのように見えたのですね。

 とくに踊っている時など、完全にお二人の世界に入ってしまわれて……。

 幼少時よりたびたびジルベルト様とお会いする機会はありましたが、あのように嬉しそうなお顔は拝見したことがございませんでした。


「ですが、メルリア様はそれでよろしいのですか? 最初の茶会で随分と牽制されていたではありませんか」


 ライラ様はうかがうように藤色の瞳を細めて私を見ています。


「そうですわね。ジルベルト様はご幼少時より容姿は優れていらっしゃいましたが、ご成長されてからは輝くばかりで……。その上微笑みをたやさず紳士的な殿方に、心ときめかない女がいるでしょうか?」


 私の発言に皆様はそろって頷かれます。


「それにご幼少時から今日に至るまで、ジルベルト様の複雑なお立場を知っておりましたので、後ろ盾になって御守りするには我がオルディス家が最適だと思っておりましたの」


 そうです。ジルベルト様には私しかいないと思っておりましたのよ。父からもその可能性を示唆されておりましたから。


「ですが、リナ様にお会いしてからのジルベルト様を見て考えがかわりましたの。皆様もそうではなくて?」


 私はずっとジルベルト様のうわべだけを見ていたのだと思い知らされたのです。

 それはジルベルト様がリナ様に向ける一瞬の表情だったり、私との会話でリナ様の話題になった時の声色だったり、端々にほんのわずかに見えるものでしたが……。

 リナ様がジルベルト様に向ける視線や感情が、私や他のお妃候補とは違っていたのと同じように、ジルベルト様もまたリナ様にだけは違うのだと。


「私もそう思っておりました」


 あら、アリサ様とめずらしく意見があいましたわね。


「私の父は……ユーセラ家はオルディス家と違って王太子殿下を推しております。父は強硬派ではございませんが、殿下のお目にとまればと私のお妃候補入りに期待されておりました」


 そうですね。私もその部分はずっと気になっておりましたの。

 王妃派としてお妃候補入りしたアリサ様が、ジルベルト様に何らかの不利益になるようなことを起こすのではないかと。


「私自身も貴族令嬢として思惑のある結婚を強いられるとしても、殿下のような素敵な方の妻になれるのならば願ってもないことだと思っておりました。ですが先程のメルリア様のお言葉通りですわ。私ではとてもリナ様に敵いませんし、殿下のお心もまたリナ様のものですものね」


 ここでもしご実家のお立場から強硬な姿勢をとられたらと思っておりましたが、どうやら杞憂のようですわね。

 これまでの交流を通して、なんとなく最初の印象よりは話の通じる方なのではないかと思っておりましたのよ。良かったですわ。


「ライラ様の意見も聞かせていただきたいわ」


 皆様の視線がライラ様に集まります。


「私は殿下を崇拝する気持ちはあります。お顔を見ればお声を聞けばときめきますが、それは思うに恋心とは違うのです。なにより根底に、殿下と結婚となり今より高い地位が手に入れば、女が学問や政治に興味を示しても、冷たい視線をうけないような風潮を作れるのではないかとの打算がありました。そんなものより、リナ様との友情の方が今の私には大切ですから」


 確かに以前、女性のそうした立場についてお話しになっていたことがありましたわね。

 後半におっしゃったことがライラ様の望みなら、リナ様なら叶えてくださるのではないでしょうか。ライラ様がリナ様に思いを寄せる分だけ、彼女ならしっかりと返してくれることでしょう。


「マリーベル様は最初から賛成とおっしゃっていましたけど、いかが?」


 話しかける前から随分と笑顔ですから、答えを聞かなくてもわかりますわね。


「私も殿下は目の保養というか、万が一選ばれたらラッキーといいますか。皆様のように深く考えておりませんでしたので……。ただ人生においてこんな素敵な経験をできる人も少ないだろうと、毎日を謳歌させていただきました。それで充分です! こんなに素敵な方々とお知り合いになれて大満足です!」


 マリーベル様……毒気が抜かれますわ。リナ様とは違った無邪気さというか、能天気な方ですわね。


「では今後、私達はリナ様とジルベルト様の応援にまわることにいたしましょう」


「リナ様と殿下を『応援し隊』ですね!」


 マリーベル様の恥ずかしい命名に、いち早く反応を返されたのはライラ様です。


「い、いやです! そんな恥ずかしい名前は!」


 ですわよね。激しく同意いたしますわ。


「……名前などどうでもいいではありませんか」

「そ、そうね。やることはかわりませんし」


 アリサ様も追従なさいますし、変な命名は……。


「では『応援し隊』で決定ですね!」


「「「……」」」


 私とアリサ様はマリーベル様を肯定したのではありませんのよ。勘違いですわ。

 ですがいちいち反論していても仕方ありませんし、話を進めてしまいましょう。私は場の空気を変えるために咳払いをしました。


「大事な話がまだ残っておりますのよ。今回の夜会で、リナ様がジルベルト様の大事な方だと気づいた者達が他にもいると思いますの」


 あのように仲睦まじくしている様子を見せつけられれば、あの場にいた殆どがそのように思ったはずです。

 リナ様をお部屋に下がらせた後、私達四人とも踊られましたが違いは明らかでしたし。


「私も思いました。これを受けてリナ様のお立場が苦しくなるのではないかと心配です」


 私の発言を受けてライラ様が続けます。話の先を見通してくださるので、説明が省けて助かりますわ。

 お妃候補がバランスよく募られていたことで保たれていた各派閥の思惑が、これを期に崩れると考えて間違いありません。後ろ盾のないリナ様では身を守る術がございませんから……。

 私はチラリとアリサ様に視線を送ります。


「えぇ、わかっておりますわ。王妃派、それも強硬派の動向が問題なのですわね? お任せくださいませ」


 アリサ様は心得ていますとばかりに、きっぱりと頷かれました。

 しかし、それにライラ様が疑問を投げかけます。

本当にお話が早くて助かりますわ。


「そのような裏切り行為は許されないのではありませんか?」


 うかがうような視線を向けられたアリサ様は、一瞬お顔を下げたもののすぐにしっかりと目線をあわせて言い切ります。


「先程申しました通り、ユーセラ家は強硬派ではございません。どちらかと言うと国内での揉め事を避ける意味合いで現在王太子に立たれているイェリク様を推しているだけです。ですので問題はありません。父は私からここでの情報を得るために、私自身がその場その場で対応できるよう情勢を教えてくださいますから」


 理論的なお答えをいただけたので胸を撫で下ろします。リナ様を助けるためとはいえ、他の方の立場が悪くなるのは本意ではございませんもの。


「わ、私は何をすれば……」


 『応援し隊』発言以降、大人しかったマリーベル様が胸の前で手を組んで他のメンバーを見渡します。


「貴女は今まで通りでいればよろしいわ」


 それ以外に仕事はございませんでしょう。

 特にマイナス感情をもって言ったわけではなかったのですけど、少し言い方がきつかったかしら。目に見えてマリーベル様がしょんぼりされてしまいましたわ。


「マリーベル様、それが一番大事なのですよ。リナ様と睦まじく見えたとしても、殿下がまだ一人に絞ったわけではないとアピールするのは有効な手段ですから」


 えぇ、その通りですのよ。

 いっさい表情を変えずに言うライラ様に、私とアリサ様は頷いて肯定いたします。目を輝かすマリーベル様に、ほんのりと微笑むライラ様。私達も随分と仲良くなったものですわ。


「はい! 頑張ります!」


 元気いっぱいに気合いを入れたマリーベル様に、一同思いを揃えてしっかりと視線をからませました。


「メルリアお嬢様! 大変です!」


 同志となった皆様と心地よい緊張感に満たされていたというのに、侍女の声が響いて気が削がれてしまいましたわ。

 日頃からの教育で、こうした無作法をすることなどないはずですのに、いったいどうしたというのでしょう。


「そんなに慌ててどうしたのです。はしたない」


「も、申し訳ありません。ですが、今朝早くにランドール家のお嬢様が、王妃様の私室に呼び出されたと他の侍女が噂しているのを聞いてしまいまして!」


「「「「なんですって!」」」」


 せっかく皆様と今後のことについて話し合ったというのに、先を越されてしまったのでしょうか。私達は顔を見合わせて言葉をなくします。

 昨晩、リナ様は王妃様と対峙なさっていましたから、その余波でしょうか。頭の中で色々な考えがめぐりますが、大事なことは一つです。


 どうかリナ様に何事もありませんように。無事にお戻りくださいませ。



本日もありがとうございます!


私、このご令嬢方がかなり好きです(*´ω`*)

書いてて楽しいです~。

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