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大好きな壁は近くて遠い

「ジルベルト、随分と楽しそうに踊ってたこと」


「これは王妃陛下」


 ダンスが終わった途端に声をかけてきたのは、まさかの王妃トリアンナ様ですか!

 ジルベルト様は胸に手をあてて、優雅に礼をとっています。

 ま、まずい! 私もか! と慌ててドレスを摘まんでジルベルト様に(なら)います。


 それにしても眼鏡をとるタイミングを逃してしまい、オーラの確認ができません。ですがそのかわりお顔ははっきり見えました。

 すごい美女ですよ。深紅の髪に琥珀の瞳、確か御歳五十才でしたか? とてもとてもそんなお年には見えません。

 ドレスはしっとりとした光沢のある紺色のものをおめしになっています。似合いすぎます。迫力が違います。


「わたくしとも一曲お願いできるかしら?」


「……喜んで」


 おおお。大丈夫ですか!? ダンスでなくバトルになりませんかね!

 私の心配を他所にジルベルト様はなんの躊躇いもなく、颯爽とトリアンナ様を連れてホール中央へ向かいます。


 チラリと振り返って目線で何かを指示されたような……。

 ですがアイコンタクトって! ジルベルト様とグレン様じゃないんです。私とでそんなものが通じるわけないじゃないですか!

 どうしようとまごついていると、トリアンナ様も振り向きました。目があってドッキリです。


「そこの貴女、ダンスが終わったらお話しましょう」


「っ! は、はい!」


 さらにどうしましょうですよ。と、とりあえずお父様のところへ……。

 もしくはメルリア様か、アリサ様、ライラ様、マリーベル様なんて一緒に楽しもうって言ったのにどこにいるのでしょう。

 こういう時って眼鏡は便利です。色酔いなく、視界良好です。


 一番落ち着ける壁際に向かいつつキョロキョロとしていた私でしたが、不測の事態に陥りました。

 目の前に立ちはだかる、三人の男性。固まる私に、それぞれ流れるように自己紹介をされましたが、一文字たりとも頭に入ってきません。その上……。


「お嬢さん、私と踊っていただけませんか?」

「美しい人、ぜひ私に貴女をエスコートする栄誉を」

「可愛い方、どうぞ私の手をお取りください」


 なんだってー!? ど、ど、ど、どうしましょう!


 これ私に言ってるんですよね? 一応後ろを振り返りましたが誰もいません。こんな時ってどうやって断ればいいんですか!

 え? 誰かと踊る? いえいえ、お断りの一択です!


「あ、あの、わ、私はですね……」


 お三方とも私が続きを言うのをじっと待っています。


「つ、疲れてしまいましたので、また今度お願いします~」


 相手の返事は聞かすに、言い捨ててフェードアウトです。

 おかしいです。こういう時ってタイミングよく誰かが助けてくれるものでは……。


 とりあえず、馴れない視覚に頼らず、色酔い上等オーラでお目当ての方々を探しましょう!

 そう言えば、ジルベルト様からはグレン様と一緒に帰れとの指示されましたが、まだトリアンナ様とのご挨拶がおわっていませんし……。

 眼鏡をとると、そっと握りしめ再びキョロキョロします。


 ま、眩しいー!!


 学ばない女ではないですよ! 色々と馴れないことの連発で気が動転していたんです。

 ……嘘です、すっかり忘れてました。駄目ですね。ここで人を探すにはやはり眼鏡着用でないと。


 それにしてもジルベルト様とトリアンナ様のダンスは優雅ですね。格の違いというか、住む世界の違いを見せつけられた感じです。


「ランドール嬢、はじめまして」


 まずい。

 ジルベルト様とトリアンナ様に見とれて味方の探索を忘れていました。壁に辿り着く前に、また敵(?)とエンカウントしまうなんて。

 なぜか私の名前を知っている殿方を見上げます。


「王太子殿下……」


「おや、私がおわかりでしたか。先程の無作法者達と同類になるのは嫌だったのですが、貴女に声をかけたくてうずうずしてる方々が沢山いらしたので、先じてお声をかけさせてもらったのですよ」


「はぁ……」


 王太子殿下は朱金の髪に琥珀の瞳の美丈夫です。なんとなくジルベルト様に似ている気もしますが、ややトリアンナ様よりでしょうか。

 ジルベルト様より五つ上だからか、大人の落ち着きある雰囲気が素敵で、深みのある青いお衣装がよりその様子を引き立てています。

 今は眼鏡をかけているのでオーラは見えませんが、確か青みのある緑だったはず。


「先程、ジルと随分と楽しそうに踊っていましたね」


 あー。ジルベルト様、はしゃいでましたものね。


 ……すみません。認めるのは悔しいですが、私も本当はふわふわっとして楽しかったです。

 でもこの場合どうやって答えればいいのやら。


「ありがとう……ございます……?」


 あまり沈黙が続くのも気まずいので、とりあえずお礼を言ってしまいましたが、なんか違いましたかね。

 王太子殿下は優しげに微笑んでいらっしゃるので、そこまで変な返事ではなかったでしょうか?

 本当はすぐにでも誰かを探しに行きたかったのですが、『少しお話をしてもいいでしょうか』と言われて断れる人はいないと思います。もちろん私だってそうですよ。


「ジルはずいぶんと貴女と打ち解けているようですが、ちゃんと優しくしていますか?」


 飲み物のある方に行きましょうと手で示しつつ、王太子殿下は質問してきました。行く手の人混みが左右に割れます。

 す、すごい。

 私なんかが通ってすみませんという感じです。状況に狼狽えつつも、返答を怠ってはいけません。


「そ、そうですね。優しい……と思います」


 そうなんですよ。

 ジルベルト様っていじめっ子ですけど、優しいですよね。いつだって、先程のように機嫌が悪い時ですら根底にある優しさは崩れません。


「では、ジルは貴女に意地悪ではありませんか?」


 私、ジュースの方がいいのですけど……。

 渡されたのはワインです。口を付けなきゃ失礼でしょうか。お酒、弱いんですよ。

 あ、グラスを見つめて固まってました。お返事しないと。


「そうですね。あ、いえ、そうでもないです」


 ん? あれ? 質問をよく聞いてなかったので、肯定すれぱ良かったのか否定しなきゃいけなかったのかわかりません。

 チラリと王太子殿下を見ると、微笑みが崩れていないので大丈夫だったのかしら。違うことを考えながらはダメですね。


 でも言わせていただけるなら、基本、意地悪ですよ。私が反応に困ることをわざとしてくるのは考えもの。最近一番まいっているのは距離が近いことです。


「貴女から見ると、ジルはどんな男ですか?」


 王太子殿下、そんなにジルベルト様のことが気になるのでしょうか。

 私は頑張ってワインを一口飲みます。

 うぉー、喉が、鎖骨が、やけるー。


「ど、どんなといわれましても……。いじめっ……、む、無邪気で自分に正直な方ですわ!」


 あぶないー。

 オブラートに包んで表現するのって難しいですね。ですが、私にしては上出来です。

 上手く乗りきって……ないですね。王太子殿下、すごい笑っています。


「ランドール嬢、私のことは『イェリク』とお呼びください。私も『リナ』と呼びたい。お近づきの印に」


「……はい、光栄です」


 エルヴァスティ王家の方々は皆様フレンドリー気質なのでしょうか。

 王太子殿下にそう言われてしまえば、拒否することなどできようはずもございません。

 それにしてもイェリク様、なにがそれほどツボなのでしょうか。

 笑い上戸なんですか? あぁ、私と会う前からお酒をめしていらっしゃるのかな?


「リナ!」


 噂をすれば『いじめっ子』で『俺様』な『発光王子様』のご登場です。どんどん呼び名がながくなってますよ。


 イェリク様の視線がジルベルト様に移った隙に、私は急いでグラスをテーブルに置きます。お子様な私にはまだ早い味でした。

 次いで、私もジルベルト様に向き直ります。


 あ、あれ?

 なんだか……、ジルベルト様また不機嫌になってませんか?



本日もありがとうございます!


ジルベルト様、リナに振り回されっぱなしです。

きっと見てて気が気じゃないんでしょう。

ガ、ガンバレー(;・∀・) シ

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