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来たら帰れないはお約束

 煌めくシャンデリア、大きな磨きぬかれた硝子窓に、美しい庭園に面す広々としたバルコニー。夜で暗いはずの庭にも篝火がたかれ、ぼんやりと照らし出された大輪の薔薇たちがとても幻想的です。見たこともない豪華な食事が、真っ白なテーブルクロスの上に鎮座する銀食器に美しく盛られています。招待された方々は皆着飾り、お喋りしたりダンスをしたりとても楽しそう。


 しかし。私は酔っていてそれどころではありません。壁の花というのも烏滸がましい、蔦くらいでしょうか。この豪華な会場に入ってから、壁に寄りかかりきりです。

 沢山の香水の匂いもすごいのですが、私の場合は色酔いです。目がチカチカします。

 こんなに沢山の人が一処(ひとところ)に集まった場面に、はじめて遭遇しました。オーラのせめぎあいが酷すぎます。

 加えて女性の衣装も、ド近眼の私にはボヤけてぐちゃぐちゃと混ざった絵具状態です。

 濃ゆい緑のドレスに赤いオーラ。オレンジのドレスに紫のオーラ。ピンクのドレスに黄色いオーラ。

 押し合いへし合い混ざりあい。綺麗な溌剌としたオーラの方ももちろんいますが、淀んだオーラのなんと多いことか。もう……耐えられません。


 なぜこんな事になっているかと言いますと、全てはあの一通の封書です。

 内容を美辞麗句をとばして簡潔に説明しますと、『第三王子のお嫁さんを爵位持ちの家から大々的に募集するから、年頃の娘さんは王宮に来てね』というものでした。大迷惑です。

 旅費や滞在費は王宮負担でお財布には優しいですが、衣装やおつきの侍女などは自前です。私は衣装はお母様が若い頃に来ていたものをリメイクして、さらにここには一人身で乗り込んできました。


 腐っても伯爵令嬢が一人旅なんて、と眉をひそめないでください。道中は危険、なんてことは全くなく。支給されたお金で一般の方に埋もれながら、浮かない心をお供に、ごくごく普通に一週間の旅程をこなしてまいりました。


 正直はじめて見るものも多く、ワクワクドキドキの『ワク』くらいはしましたよ。でも、私のいない間にお父様が何かしでかすのではないか、なんて考えが頭をよぎるのです。それだけで気分の高揚が、一時の気の迷いとして処理されてしまいます。アルに弱味をチラつかせてお父様のお目付け役を言い渡してきましたが、万全とは言えませんし。


 もう無理です。与えられた部屋に下がりましょう。もとより、私のような蔦が王子様の目に留まるはずもなし、ヤル気と気合に満ちた他令嬢にお任せした方がいいというものです。そう思い体を壁から浮かせた時でした。

 喧騒が一際大きくなり、人の波が一ヵ所に向かったのがわかりました。どうやら今日の主役の第三王子殿下が登場したようです。

 この距離では、私の近眼で顔の判別などできないでしょう。ですが話の種にオーラだけでも見ておこうと、人の波をかき分けて壇上に現れたその人に視線を向け…そして最大限に顔をしかめました。こんなに眉毛と口が近くなったのは、はじめてかもしれません。

 ま、眩しすぎる!!

 そしてすぐに顔を逸らして退出しました。目が潰れるかと思いましたよ。心臓がドキドキします。

 真夏の太陽も凌駕するほどの眩いオーラがこの世に存在するとは……。あれが王者の風格なのでしょうか。あれ? でも、第三王子ですよね? まさか王族の皆様は、そろってあれほど強いオーラを持っているのでしょうか。


 とにかく、私とは次元の違うお方。言いつけ通りパーティーに出席して、ついでに色々手順もマナーもすっ飛ばしましたが、社交会デビューも済ませられましたし、お勤めは終わりです。

 さぁ、部屋に戻って寝て、明日にはさっさと帰ることといたしましょう。


◇◆◇



 どうしてこうなった。

 昨晩の第三王子殿下とのファーストコンタクトを経て、本日ほとんどのご令嬢は帰宅の途につく手筈となっていました。言わずもがな、お声のかからなかった方はご退場~というやつです。


 王宮滞在延長の栄誉を賜ったご令嬢は全部で五人。現在そろって午後のお茶会中です。

 そうです。予想がついている方もいらっしゃるでしょう。その五人の令嬢の中に……私が含まれているのですよ! なぜー?

 居たたまれなさすぎて紅茶をチビチビとすすることしかできません。ですが流石最高級のお茶! 口に含む量が少なくてもとても良い香りが鼻にぬけます。あぁ、美味しい。

 ちなみにここに来る前に、侍女さんから残ったご令嬢方の情報を一応収集してきました。王子様の趣味が気になったものですから。


 メルリア・オルディス公爵令嬢。二十歳。

 王弟殿下の御息女で流石王族の血を引いてらっしゃるためか堂々としてます。赤いドレスに赤いオーラでド迫力ですが、第三王子殿下のような眼球に突き刺さるほどの発光はなく一安心です。金髪碧眼です。

 アリサ・ユーセラ侯爵令嬢。十八歳。

 ユーセラ家の長女であるアリサ様は、緑のドレスにこれまた赤いオーラを纏われた、濃い茶色の髪と目をお持ちのお嬢様です。幼少時より第三王子のお相手として呼び声高い方だとか。

 ライラ・バシュレ伯爵令嬢。十六歳。

 代々文官としてお仕えする家系で、ライラ様自身も理知的な方のようです。水色のドレスに青いオーラが、冴々とした銀髪に藤色の目をより凛としたものにしています。

 マリーベル・リッチモンド男爵令嬢。二十一歳。

 お父様が豪商として名を馳せ、近頃貴族にお取り立てとなった家で、唯一家格で私より下の方です。と言っても裕福なのは勿論こちらの方で、いえ、別に羨ましいわけではありませんよ、えぇ。黄色いドレスに淡いオレンジ色のオーラで、薄い茶色の髪に薄い緑の目がほんわか可憐な方です。

 そして、私、リナ・ランドール伯爵令嬢。十七歳。

 ご存知の通り斜陽貴族の長女です。ベージュの地味なドレスにオーラは……実は自分のって見えないのですよね。

 オーラって正面からですと、上半身を中心に後光のように見えるのですが……自分のオーラが見えない理由についてはわかりません。そう言う仕様なのでしょうか。個人的な想像と希望では、薄いオレンジ辺りかな、なんて思っています。


 私はオーラの色、濃淡、明暗、発光具合で相手の人柄を把握することができます。大体、一色か二色際立った色があって、チラチラと他の色が入り交じる感じです。人間、この人は根っからの楽天家だ! と言ってもそれだけなほど単純ではないですし、複雑な色味もそれを表してのことなのでしょう。良からぬことを考えている方はドロドロと濁っており、出来た方は澄んだ色をしてます。


 話しを戻して。プロフィールを並べてみても、このそうそうたるメンバーに、拙い私が加入するという驚きの采配。

 今朝早く仕度を終えて帰ろうとしたところに、侍女さんが来て、滞在の延長を言い渡された時の私の驚きがおわかりになるでしょうか? 全く、王子様の趣味はどうなっているのでしょう。


「はっきりさせておきたいのですが。皆さん、よろしいかしら?」


 さえずる鳥の声と風が木々をゆらす音がこれほど虚しいと感じる瞬間があることを、私ははじめて知りました。メルリア様の発言が危うい均衡を保っていた空気に、ピシリと音をたててヒビを入れた気さえします。どうやら穏便に紅茶だけすすって帰るわけにはいかないようです。


「私、ジルベルト様のことを幼少よりお慕いしてますの。さらに言わせていただくと、私以上にジルベルト様にお似合いになる方は、ここにはいないと思いますわ。ですので皆様、辞退してお家にお帰りになって?」


 空気どころか並びいる皆さんのオーラまでピシリと固まりました。普段はユラユラと揺れてるものなのですけどね。

 ちなみには初出となりましたが、ジルベルト様というのが第三王子のお名前です。ジルベルト・トレイス・エルヴァスティ様。


「おかしなことをおっしゃいますね。お帰りになるのは貴方様ではなくて?」


 この売れ残りが。とボソッと最大規模の爆弾を落としたのはアリサ様です。その発言に、さらにこの場の空気が冷たく圧縮された気がしました。

 確かに女性は十六歳で社交会デビューして、二十代にのるまでが結婚適齢期と言われていますが……。


「言いたいことがおありなら、はっきりおっしゃったらいかがです?」


 ライラ様!? その言い方、ボソッといった内容をしっかりと聞き取れた上で言ってますよね? というか、ライラ様まで参戦しないでください!

 本当にそれ以上は、傍観者に徹している私の呼吸が止まりかねません。と言う私の声なき悲鳴が神に届いたのかどうなのか。


「お嬢さん方。私も参加していいですか?」


 聞いたことのない殿方の声がして、助かった! と思った私ですが……それは一瞬のことでした。

 ま、眩しい!!

 たとえ神様がいらしても、私ごとき矮小な者の声なき悲鳴などとるにたらないのでしょう。一番お会いしたくない方の登場に、私は人生二度目となる最大限のしかめっ面をした後、すばやく顔を伏せたのでした。



お話しの切りどころが難しいです(;´∀`)

本日も読んでくださってありがとうございました!

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