武器の使用はご遠慮ください
グレン様は悪趣味です。毎日日替りでジルベルト様と各令嬢のデートをこっそりのぞくなんて!
サリタとして執務のお手伝いをした後はデート観察という流れがすっかり出来上がってしまっています。マリーベル様からはじまり、メルリア様、アリサ様、ライラ様と続き……、今日は私の番なのですが。
今週の皆様はそろってまったりお庭デートされていましたが、私はスパルタダンスレッスンですよ。なんですか、この差別。だからって、別にジルベルト様にあっまーい笑顔であっまーく囁いてほしい訳では全くありませんけどね。
「リナ、はじめよう」
私はジルベルト様の希望で本日は眼鏡を着用してますので、キラキラスマイルがよく見えます。タラシ王子め。
執務中は軟派な気配が全くないですし、私もできる範囲内で一生懸命やってますから雑念にとらわれることもないのですが、こうして二人の時間になるとそうはいきません。
私のこの一週間で溜まったモヤモヤした心など関係なしに、ジルベルト様はホールドの姿勢をとると軽やかにステップを踏みはじめます。心も重いと足も重いです。
「へたくそ。この間できてたことができなくなってるぞ」
「……今日はちょっと調子が悪いんですよ」
「具合悪いのか? 変なもの食ったんじゃないか?」
「……」
そんな犬っコロのような真似はいたしません。思わず眉間にシワがよってしまいましたが、私のその表情を見てジルベルト様が心配そうな顔になります。
「!!」
ひょいっとお姫様抱っこをしたかと思うと、隅にある長椅子にそっと下ろされました。
所作が手慣れすぎてます!
慌てる私を他所にジルベルト様はおでこに手をあてると、うかがうように私の顔を見つめました。
「熱はなさそうだな。疲れがたまったか?」
そうして長椅子の空いているスペースに腰をおろすと、サイドテーブルの水差しからグラスに水を注いで手渡してくれます。
せっかくなので一口だけいただきましょう。
飲み終わったのを見てすぐにグラスを私から取ると、サイドテーブルに戻してくれました。ずいぶんと甲斐甲斐しいですね。
そんなジルベルト様の一連の動作を、私は腹筋を使って中途半端に上体を起こした状態で見ていたのですが……。
その無理のある格好に気がついたジルベルト様は、少し笑うと、おでこを人差し指でツンっと押してきました。無駄に少しこらえてみましたが、あえなく肘掛け部分を枕にする体勢になってしまいます。
「王宮での生活は窮屈か?」
穏やかな笑顔が素敵です。敗北感が漂いますが、間違いなく素敵です。
「……いえ、そんなことは。それよりジルベルト様。そのうち刺されますよ?」
「は?」
ほんの少し呆けた顔も絵になるなんて、イケメンってすごいです。
「女性を大事に扱うのも程々にしないと」
そして今度はぐっと眉を寄せたお顔です。ジルベルト様って結構表情豊かですよね。
「お前なぁ、誰でも彼でもこんなことするわけないだろう。なんでそうひねくれてるんだ……可愛くないぞ」
色んな方に甘いセリフと笑顔をタレ流してるくせに自覚なしですか? この一週間でネタはあがっているのですよ。
「……そうですね。愛玩には向かない珍獣なので野に返してください」
「俺は手放す気はないと言ったはずだ」
ジルベルト様はちょっとムッとしていますが、ムッとしたいのは私ですよ。唇がへの字になるのが止められません。
そんな私のブーたれた表情を見たジルベルト様は、今度はニヤリと意地悪に笑って、片手で私の頬をつかんで潰しました。唇が閉じていられず無様に開いてしまいます。屈辱的です。強制的に変顔をさせられました。
「くくっ……!」
楽しそうですね。腹立たしいのですが、やっぱりイケメンはずるいです。私を見つめるジルベルト様の顔を見て、その瞳がとても優しいのを感じてしまったら、顔に熱が集中するのを止められません。本当に反則です!
怒りと恥ずかしさで恥ずかしさが勝つってそうそうないですよね。要するに私も、所詮どこにでもいる普通の女ということですよ。なんだか悲しいです。
「……ずるいですよ、ジルベルト様は。その麗しいお顔を武器にして」
「なんだ。お前、俺の顔、好みなのか? いいこと聞いた」
何を今更おっしゃるのやら。どう考えても、わかっていて計算でやっているんじゃないですか? そして早速そのいい笑顔のまま、これまた甘い声で続けてきます。
「リナ、次の夜会用にドレスを贈ろう。俺のために着てくれるよな?」
「はぁ!? む、無理です! メルリア様が用意してくれる気満々ですので!」
ジルベルト様の顔が途端に不機嫌になりました。そんな顔をされても私も困ります。
「……どんなの着てくる気だ?」
「そんなのわかりませんよ。メルリア様に聞いてください」
この眉間の皺具合、良くない兆候ですね。ですが考えても見てください。お妃候補ではありますが、婚約者でもないのにドレスを贈っていただくわけにはまいりません。
メルリア様から頂くドレスはお下がりですし『リナ様が着ないなら捨てますわ!』と言われれば、勿体ない気持ちが先んじてしまいます。
他の皆様からのご厚意も同じような気持ちで甘えさせていただいてますが、ジルベルト様にはその理由がありません。
「……じゃあ、髪は下ろしてこい。化粧もなるべく薄くしろ」
「はぁ」
その辺りはこだわりもありませんので、ジルベルト様がそうしろと言うのであれば従ってもかまいません。相変わらず偉そうなのが気になりますが、さらに機嫌が悪くなられるよりはいいですしね。
「……それで、お前は何なら受け取ってくれるんだ?」
それは難しいです。比較的、貰えるものは何でももらいますけど…。
「うーん。そうですね。私の身の丈にあったものでしたら頂きます」
要するに値の張らないヤツです。
「抽象的すぎる。もっとピンポイントで言ってくれ」
「嫌ですよ! そんなのなんだかおねだりしたみたいじゃないですか!」
「むしろねだれ。何か贈りたいんだ。どうせならお前が喜ぶものにしたい。だが今回は本と実家関係を除くものがいい」
それを除くと欲しいモノってそんなそんなないのですが。
大体ジルベルト様はなぜそんなに私にモノを与えたがるのでしょうか。餌付けしたのいのであれば、スタンダードに食べ物で全然かまわないのですけど、そんなことを言えば馬鹿にされそうですし。だからってやたら高価なモノを寄越してこられても、受け取るのを躊躇してしまいますから。
私もともと物欲ってないんですよね、困りました。
ジルベルト様は黙って私が話しだすのを待ってらっしゃいます。
「……わ、私を喜ばせたいならご自分で考えたものにしてください! ジルベルト様が一生懸命考えてくれるその過程が、その、嬉しいですから……」
答えに困ったからって、私ってば何を言っているのでしょう。
人から何かを贈られた時はその過程も含めて贈り物であるとはよく言いますが、これではジルベルト様に思ってもらうのが嬉しいと言っているように聞こえるではありませんか!
キラキラエフェクトにあてられて脳ミソ沸騰してしまったのでしょうか。自分で自分がわかりません。
「なるほど。じゃあ、俺がちゃんとお前を喜ばせられたら褒美をくれ。キスがいい。約束な?」
「!?」
それならいりません! と返事をしようとすると、急にイケメンのドアップに視界をいっぱいにされてしまいました。
「楽しみだな」
さらに接近したジルベルト様は耳元で囁きます。サワサワゾワゾワした感覚が耳から首筋をたどり私は目をギュッとつぶりました。
そんなことを言われたら、ちっとも楽しみじゃありませんし、何を持ってこられようとも喜べないではありませんか!
体はどこも触れていませんが、長椅子に仰向けに転がっている私の上に、覆い被さるような体勢をされているので圧迫感がすごいです。胸が苦しいですし何より息が……。
いつまでもその体勢を変えてくれないことに痺れを切らして、思い余った私はジルベルト様の胸に両手をあてて思いっきり押し返しました。
「早く離れてください!」
「お、元気出たか?」
かなり思い切り押したと言うのに、ジルベルト様の体は僅かに起き上がったのみ。ジルベルト様って細身に見えるのに、手を付いた胸の感触は服の上からでもわかる程、堅くしっかりしています。
こんな場面で男らしさを生々しい程に実感してしまうなんて、とにかく絶対ヤバイです。
私はすぐに手を引こうとしましたが、逆に両手を取られて引き起こされ、再び距離が近くなります。
や、やめてください! 今はいつにも増して側にいたくありません!
拒否の言葉を発する余裕もなく、碧色の瞳に囚われたまま、私はただ小刻みに首を振ることしかできません。ジルベルト様の笑みは深まるばかりです。
「続きできそうだな?」
この反応を見てその答えが出る意味がわかりません。
無理ですよ! で、ですから至近距離でそんなに嬉しそうに微笑まないでください!
「俺はお前といると楽しい。その顔をもっと見せてくれ」
いやーっ!!
大混乱でひどい状況と思われる私の顔を、もっと見せてくれだなんてひどすぎます。ジルベルト様が何と言おうと、声を大にして言わせていただきます!
「ダンスはもう十分、スキンシップとキラキラスマイルは十二分なんですよーっ!!」
本日もありがとうございます!
ジルベルト様頑張ってるんですけどねぇ。
でもリナもそろそろ…(゜▽゜*)




