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キラキラエフェクトの真骨頂

「おい、サリタ。眼鏡はどうした?」


 そうですよね。やっぱりそこ、ツッコミますよね。


「な、なんだか見えすぎてしまって頭が痛くなるんですよ。あの、外で遠くとか見てる間はすごくいいのですけど、こうして事務仕事をしてるとチカチカしてきて、それで……えー。あ! そもそも部屋に置いてきちゃいましたし」


「随分と饒舌ですね」


 グレン様、容赦ないです。本性がばれているからか、私には緑のオーラ部分でおおわずに、濃い青を全面に押し出してくるの止めてほしいです。偽りの優しさでもいいので、ぜひ少しでも分けてください。


 それに、どうせグレン様は、私が眼鏡をかけたくない理由などお見通しなのでしょう。

 そうですよ。私はジルベルト様のご尊顔を拝したくないのです。発光ブツは真の姿も発光ブツなんですから。


 顔が見えなかったためにどこか遠かった人が、急に現実味をおびて実体化する事態になり、調子が狂ってしまいました。

 とにかく今まで平気だったり忘れてたりしたことが、ジルベルト様の顔付きで生々しく脳裏にリフレインされるのですよ。あんなこと、こんなこと、あったでしょう、と……。

 うー、デリート!! ですよ! 今すぐ!


 ですが、やっと理解できた部分もあります。あの顔で甘いセリフを言う上に紳士対応をされれば、ご令嬢方が悩ましげなため息をつくのも頷けるというもの。私に対しての扱いは基本雑ですが、真の姿の方の発光が、目ではなく心臓に多大な負荷をかけてくるのは事実です。


「まぁ、いい。リナとサリタで同じ眼鏡というのも問題があるだろうから、もう一つ用意しておいた」


 ジルベルト様……、用意周到すぎます。というか、お金使いすぎですよ。


「あれ? 二つありますよ?」


 机に出されたビロード張りのケースは二つ。開けてみると二つとも同じデザインのようです。


「一つは伊達眼鏡だ。お前、かつら被っててもあんまり変わらないから、眼鏡も常時かけておけ。伊達と度入りは使い分けるのに便利だろう?」


 サリタ用の眼鏡はシルバーのシンプルなデザインで、男性用ですからややカッチリした印象の作りです。度入りにはツルに羽の型押しが、伊達には馬蹄の型押しがワンポイントであしらわれています。

 前回頂いたリナ用はゴールドの華奢なデザインで、ツルの部分は花のように細工され、小さな宝石が嵌め込まれていました。


 先日ははじめて眼鏡を手にした喜びで興奮状態に陥り、こんなこと思う余裕ありませんでしたが、よくよく考えれば私にこんな贅沢なものを受け取る権利はないです。その思考を経て導きだした答えは一つ。


「では、ありがたく使わせていただきます。ですが契約満了の暁にはキッチリ返品しますから!」


 眼鏡を三つも、一つは伊達だとしても、私には分不相応です。


「何言ってんだ、俺がお前にやったもんなんだから、返品の必要はない」


「国民の血税から、こんな高価なもの頂けません!」


 そう! これですよ!

 いくら第三王子の『お妃候補』と『珍獣兼警報器』という立場であっても、こんなにお金を使っていいはずがありません。

 お妃候補として貢がせるなんてどこの悪女だという感じですし、警報器としてのお給料だったら実家への援助で事足りています。


「馬鹿正直な人ですね。貰えるものは何でも貰っておきなさい。そもそも契約書にも『出来うる万全の状態』と書いてあるではありませんか。要するに必要経費ですよ。そもそも貴女が心配している国庫には触れず、殿下個人の財布からでてますしね」


 個人の財布って……。


「俺は偽名を使って商売してるから、国庫から独立した個人で自由に動かせる資金を持ってる。もちろんちゃんと納税の義務も果たした上で商ってるから心配するな」


 王子様が偽名で商売って、しかもポロっと何本も眼鏡を買えるほどに儲けてるんですか……?

 大体、ずっと王宮にいるくせに商売が成り立つのでしょうか。あやしすぎます。


「税金の無駄遣いでないのは安心しましたけど……。やっぱり私ごときにここまでお金をかけていただくのが心苦しいというか、居心地が悪いというか……」


 尚も渋る私に、グレン様がこれ見よがしにため息をつかれます。感じ悪いですね。


「はぁ、殿下の気持ちを汲めと言うのは貴女には無理としても……。ご結婚されたらもっと贅沢な暮らしが待っているのですよ。今のうちから慣れていけばいいではありませんか」


「!!」


 何言っちゃってるんでしょう!?

 私は度つき眼鏡を素早く装着すると、ジルベルト様に顔を向けます。よくわかりませんが、軽く馬鹿にされた部分は流せても、下らないことをさも当然とばかりに言った後半は見過ごせません。

 ここはジルベルト様からしっかり諌めてもらわなければ。


「ジルベルト様もなんか言ってください! グレン様の冗談が……」


 視線を向けてはみたものの、ジルベルト様は残念ながらとても共にグレン様を責めてくれるような表情をしていません。机に肘をつけたまま片手で口元を隠し、ニヤリと歪めて私を見ています。これはむしろ私がいじめられるパターンです。


 しかし悔しいかな、そんなお顔も麗しいのですよね。

 うっかり見いってしまった私は、そこでジルベルト様が笑いながらも、その碧色(へきしょく)の瞳は射ぬくようにこちらを見ていることに気付きました。足のつかない深い海に似たその色に、息がつまります。


「俺はそれで構わないぞ」


「ほら、見なさい」


 『ほら、見なさい』じゃないですよ! いたたまれないです。何ですか、この激しく居心地の悪い空気は!

空気が薄いですよー。だ、誰か助けてー。


「殿下、宜しいでしょうか?」


おぉ! 神です!! ノックと共に聞こえたのは私の知らない声ですが、なんというナイスタイミング!


「どうぞ」


 返事をしたのはグレン様。至って平常運転です。憎い。


「リッチモンド嬢との歓談のお時間ですが、いかがいたしましょうか?」


「あぁ、すぐに行こう」


 その言葉を受けて侍女さんはすぐに退出します。ジルベルト様も席を立ってすぐに向かう構えです。

 ふー、息がラクになりました。私の今日のお勤めは終わりですね。


「あぁ。サリタ、そう言えば、今日もダンスの練習するからな」


 扉に向かったジルベルト様を見てホッと一息ついたのに、なんたることでしょう。言い置いてさっさと出ていく姿を恨めしく見つめてしまいます。聞こえなかったことにしていいでしょうか?


「サリタ、少し付き合ってください」


「はい?」


 なんのお誘いでしょうか。嫌な予感しかしません。


「いじめませんから、安心していいですよ」


その笑顔! 全然安心なんてできませんよ!


◇◆◇


「グレン様、私、こんなの嫌ですってば!」


「何を言っているのです。これも立派な仕事でしょう」


 どの口がぬけぬけとそのようなことを言うのでしょうか! こんな出歯亀耐えられません!

 生け垣を挟んですぐそこでジルベルト様とマリーベル様がベンチに座ってお話しされています。生け垣の隙間から二人のお姿も見えますし、もちろん会話も丸聞こえです。


「リッチモンド嬢、ここでの生活も一ヶ月を過ぎましたがいかがでしょうか?」


「はい。とても充実してます。なにより、こうして殿下とお会いできるのが……」


 言葉尻を濁らせてはにかむマリーベル様は、ふわふわとしてとてもお可愛いらしいです。


「貴女のような可憐な人にそう思っていただけて、とても嬉しいです」


 あー……。あまーい笑顔のジルベルト様に、マリーベル様が明らかにポーっとされていますよ。


 ジルベルト様ってばご自分にかかっているキラキラの特殊効果を、最大限に有効活用してます。

 ちなみに現在発動中の効果は『青空から降る柔らかい午後の日差しが金の髪をさらに輝かせる』というものと、『今が盛りと咲き誇る薔薇を背景として背負う』というもの。世界の全てはジルベルト様を彩るためにあるのか! とツッコミたいです。

 さらには、緩やかに弧を描く唇は甘さだだ漏れで、胸を焼ききる凄まじい破壊力。女性はコレにやられちゃうのでしょうね。茶会の時の皆様の反応が思い起こされます。


 ですが皆様、騙されてますよ。猫が逃走すればただのいじめっ子ですからね。すっごく我儘で偉そうなんですよ。俺様王子様なんですよー!


「ほら、殿下とお会いしてる時のリッチモンド嬢のオーラに、不審がないか見てください。この角度なら殿下は視界にはいらないでしょう」


 あるわけないじゃないですか! マリーベル様メロメロですし、おめめがハートですよ。


 じと目でグレン様を見ますが、顎をしゃくって『早くやれ』とのご命令です。

 全くもう、やりますよ! やればいいんでしょう!

 私は眼鏡をとると生け垣の隙間からマリーベル様の様子を窺いました。


「……特に留意するべき点は見受けられません」


 あたりまえの結果です。


「もう帰りましょうって! ねぇ、グレン様!」


「そうですね、もう少し会話を聞いたら帰りましょうか。あぁ、もう眼鏡をかけて結構ですよ」


 グレン様ってば、こんなこと興味なさそうなタイプなのに案外下世話です。いい加減聞いていたくないですが、ジルベルト様とマリーベル様の会話は続きます。


「今度の夜会では殿下と踊る機会はあるでしょうか?」


 そういえば、前回のお茶会でその話題になりましたね。


「えぇ、もちろんです。一緒に楽しみましょう。今日のような可愛らしい姿も魅力的ですが、正装したリッチモンド嬢の華やかな姿はさぞお綺麗でしょう」


「まぁ!」


 ダメだこりゃ。もー、いいでしょう。もー、耐えられません。


「グレン様、これ以上は無理です! 行きましょう!」


 私は下生(したば)えが音をたてないように、ソッと立ち上がって中腰のままその場を離れます。なんなのでしょう、この胸のムカつきは。

 チラリと後ろを振り向くと、何やら薄く微笑をうかべるグレン様が。


「何か気付くことはありませんでしたか?」


 そんなものありませんよ!

 眼鏡をかけているので確実とはいえませんが、グレン様は今すごく嫌な感じのオーラを出しているに決まっています!



本日もありがとうございます!


グレンにはグレンの思惑がありますが、やっぱり楽しんでやってます(。-∀-)

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