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閑話 グレンの腹の中

毎日から2~3日に1回更新にペースダウンしますと言っておきながら…

書けたので投下しちゃいます(´▽`;)ゞ

「グレン、俺は病気かもしれない」


 書類に目を通していた殿下がおもむろに顔をあげて真剣な声音で呟きました。出会ってから今まで、風邪や怪我などなく日々過ごされている殿下からのはじめての告白に、僕は目を見開きます。


「お加減が悪いのですか? すぐに医師の手配をしてまいります」


 計算途中の資料を机に放って立ち上がりかけた僕でしたが、続く殿下の言葉に眉間に皺を刻まさせられました。


「あいつを見ると胸が苦しい」


 はぁ!?

 座り直して放りだした資料を揃えると、最初からやり直しとなった計算に戻ります。


「それに、なんだかやたら可愛く見えるんだ。最初は十人並みに見えたのに……目も悪くなったか……」


 僕は無視することにしました。この資料、何枚あると思ってるんですか。


「すごくいい匂いもするし……」


 紙をめくりながらペンを走らせます。目線を数字から離すわけにはいきません。


「側にいると触りたい衝動がわいてきて、いつも通りの自分でいられなくなる。なぁ、グレン?」


 はぁ、わかりました。付き合えばいいのでしょう。区切りのいいところにチェックを入れると、僕は仕方なく顔を上げました。


「殿下、それは不治の病ですね」


「やっぱりそう思うか?」


 にやりと笑う殿下。

 僕にふっかけて来て無事で済むと思わないでくださいね。付き合うからには全力でお相手させていただきますよ。えぇ、全力で。


「進行に任せていいのではありませんか?」


「へー。いいのか? 腑抜けになりそうだ」


 殿下は机に両手で頬杖をついて、口元だけで笑ってみせます。その余裕、いつまで持ちますか?


「俺は自分で自分がわからん。どうしてあんなのに惚れたんだか」


 出会った瞬間から兆候はあったではありませんか。一目惚れまで行かずとも、近い状態でしょうに。僕がわざわざ囲いにかかったのも、殿下のいつもと違う様子を察してのことですよ。

 彼女自身をみても、その辺の中では最適な存在だと思いますしね。特に利用価値の高い能力を持ちながら、馬鹿正直で腹芸など全くできないところが評価できるのではないでしょうか。これ、誉めてますよ。

 なんと言ってもその呑気さで、殿下の妃候補にまでなる有力貴族の令嬢方を掌握してきているようですし、計算でなくそんな芸当ができるのですから大したものです。

 あとは殿下が頑張ってくれるといいんですが、今回は旗色が悪い感じがしますから……どうでしょうね。


「とりあえず顔が使い物にならないのですから、もう一つの得意分野である口先で丸め込んでみてはいかがですか? それでも手強そうではありますが」


「……この間のデートで『嫁になれ』って言ったんだ」


 それは思ってもみない展開です。


「へぇ、ずいぶん頑張りましたね。意外です。それで?」


「あいつの表情を見て分が悪いと思ったからすぐに冗談だと流した」


「……」


 とんだヘタレです。


「だが、その後モルフォをみたんだ」


「まさか…こんなところにあの蝶が? それはそれは、良かったじゃないですか」


 モルフォ蝶に祝福された夫婦や恋人は、永遠の幸せを約束されるという言い伝えがありますからね。ただ見ただけでも好運が訪れるなんて話も聞きます。この辺りはその信仰も強く、付近の教会などにはステンドグラスに採用されるほどです。

 しかし、あの蝶は標高の高い山にいるもので、こんな町中に飛んでくるなんて無いに等しいのですけど。

 あまりの低確率をそのタイミングで引き当てるなんて、さすがの僕も驚きました。


「……だが、見たのは俺だけで、あいつ近眼だから空と同化して判別がつかなかったらしい」


「……」


 なんという安定の残念さ。告白を冗談にするから蝶にも見放されるんですよ。


「どうやったら俺に落ちてくると思う?」


「そういうのは殿下の方が得意でしょう」


 女性の扱いなど僕に聞くだけ無駄ですよ。 殿下のようにどんな女性にも平等に笑顔を振り撒くなんて、そんな労力割くほど女性に価値を見いだせませんし。


「今まではそうだったが、あいつに俺の手は通用しないからな。勝手が違いすぎて攻略の仕方がわからん。どうやったらあいつの興味を引けるんだか…」


「まぁ、まず眼中にないですからね。下手したら殿下の顔も知らないんじゃないですか?」


「……」


 固まりましたか。

 能力の件で契約を持ちかけた時から、完全に興味を持つそぶりもありませんでしたからね。その可能性もなきにしもあらず。


「しかも殿下は王子としてはそこそこ立派ですけど、男性としては……なんというか……微妙ですからね」


「……その心は?」


「好きな子を苛めて喜んでいるでしょう?」


「……」


 そろそろ……とどめを刺しますか。仕事も進めたいですしね。


「お得意のキラキラスマイルも流し目ビームも効きませんし、口の方も不振。丸腰で惚れた女性の前に立つ殿下はさぞかし見物でしょうね」


「……」


「あの人は、まず根底に自分は殿下にとって圏外と思ってるふしがありますから、ここから挽回するのは大変でしょう」


「……」


 そう思わせる発言をしたのは僕ですが、行動でその勘違いを増長させたのは殿下です。『珍獣』で『警報器』ですから。


「僕がせっかく檻に入れたんです。せいぜい旨いエサで餌付けして飼い慣らすことですね。しっかり調教しないと、すぐに野生に帰りますよ」


「……お前、俺に対する物言いも大概だが、あいつに対して辛辣すぎるだろう」


 少し不機嫌そうに眉を寄せてみても、麗しいお顔が崩れることはありません。ここに女性がいれば、その表情にさえ見惚れるのでしょう。

 まぁ、常時微笑みを張り付けてる殿下が、こんな表情を見せる人間など限られていますが。


「惚れた女性を悪く言われて怒るなんて、すでに末期ですね。彼女を守りたいなら覚悟を決めてくださいよ」


 今度はムッと口元も引き結ばされました。


「……わかってる。不思議なもんだが、きっとこういう巡り合わせなんだろうな。欲しいものができたし、本腰入れて頑張るつもりだ」


 かと思えば『欲しいもの』で何を思い浮かべたのか……緩んでますよ色々と。


「そうですか。まぁ、よっぽどのことがないかぎり僕は殿下の味方ですよ」


「お前、そこは『何があっても』って言えよ」


 僕がそんなセリフを簡単に吐かないことくらい、殿下はよくご存知でしょう。


「確約は致しかねます。惚れて腑抜けるのは勝手ですが、自重しないと足下すくわれますからね。危機管理は任せますが……」


 言葉をきって、ニコリと笑います。渦中の彼女に黒いと後退りながら言われるやつです。


「援護射撃はしてさしあげますよ」


 殿下はもちろんオーラなんて見えませんが、長い付き合いで身をもって知ってらっしゃいますからね。僕の笑顔を見てひきつっています。


「お前、絶対に余計なことするなよ?」


「おや、遠慮はいりませんよ。お任せください」


 楽しい仕事が増えました。仕事じゃなくて娯楽だろうって? いえいえ、僕は主思いの侍従ですよ。やるべきことなど決まっています。

 えぇ、ラクな道をお膳立てして、お二人の成長の機会を奪うような真似は致しません。


 人と人は共に荒波を越えてこそ強く結ばれるものですから、ねぇ?



本日もありがとうございます!

グレンが何故か一番書きやすいんですよね(笑)


あ、モルフォ蝶のお話しは半分作り話です。

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