物語のはじまりは新手の詐欺?
オーラの特徴や色については、作者の想像と物語りの都合で書いている部分があります。
一般的に言われているものとは異なることもありますので、ご了承ください。
世界は光に満ちている。そりゃ、文字通りキラキラと。時にはあの太陽を凌駕するほどの光が、眼前に燦々と放たれることも……って眩しすぎ! 目がつぶれるわっ!!
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私の名前はリナ・ランドール。伯爵令嬢です。亡くなった曾祖母様譲りの黒髪に黒目の、ごくごく普通の女の子です。
この春、社交会にデビューすることなく十七歳になりました。何故かって? それは我が伯爵家がすごーく貧乏だからです。由緒はあるらしいですけどね。それでは腹は膨れません。
日々、働かざる者食うべからずをモットーに、細々とやっています。
そんな我が家には、娘のドレスを新調するどころか、晩餐会にホイッと出かけるような馬車もありません。えぇ、馬もいません。ヤギと鶏はおりますけども。
「姉さん。父上が呼んでるよ。珍しく書斎で」
声をかけてきたのは二つ下の弟。今日も揺れるオレンジと緑が美味しそうでいいですね。
あ、弟の髪は甘そうな栗色で瞳は濃い茶色ですよ。ちなみに服はきなり色のシャツと紺のズボン。汚れが目立たない素晴らしい組み合せです。
「はーい。じゃあ、アル。この辺りの雑草抜き代わって」
「げっ。俺、農地の方の雑草を根絶やしにしてスッキリしたとこだったのにー。くそー」
なんて言いながらも、アルは早速手当たり次第憎き雑草どもを抜いていきます。そうそう、抜くときに根っ子を残さないのは流石ですね。
「じゃ、いってきます」
「いってらっしゃい」
一心不乱に雑草を駆逐するアルは顔もあげずに返事をします。
私はスカートをはたくと、青々と茂る伯爵家一角の庭園改め菜園から、お父様の待ってる書斎へ急ぎました。書斎なんて入るのいつぶりでしょう?
書斎に向かって歩く途中、身なりのよい商人風の男とすれ違いました。淀んでいます。ドロドロと。
「これはこれは! お嬢様ですか? 健康的で……レトロな装いが魅力的ですね! ではでは、ご機嫌よう」
「……ご機嫌よう」
上から下まで人の姿を眺めてから男は去っていきました。ドロドロを裏切らない失礼さ。
私の日に焼けた肌は勲章です! 荒れた手も、廃れたデザインで色褪せた服も同義!
私は書斎のドアをノックすると返事を待つことなく突入しました。
「お父様! 今の方はアウトです!!」
「えぇー。いいお話しだったんだけどなぁ」
呑気なお父様は心洗われる萌木色。穏やかに揺れる木漏れ日のようで、いつ見ても落ち着きます。では、なくて。
「ドロドロでしたよ! どんなお話だったんですか? まさか即決してないですよね!?」
多少、私の勢いに体を仰け反らしたものの、いつも通りのふわふわした態度と表情はかえずに、お父様は自身の無罪を主張するように勢いよく両手を振りました。
「してないよ。リナに相談なく、商談や契約はしない! 証人にならない! と誓ったからね!!」
お父様の発言に私はホッと息をつきます。
「……投資の話しだったんだけどね。やっぱり……だめ?」
「だ! め! で! す!」
なんて懲りないお父様でしょう。人が良いのは認めます。でも、カモにされすぎなんですよ。
我が伯爵家は辺境で特産品もなく、元々そんなに裕福ではありませんでした。できることと言えば農業でしたので、自給自足を基本に生活していました。刈り入れ時には領主であるお父様は勿論のこと、お母様に私に弟にと家族総出で手伝ったり。
贅沢はできませんが、私はこんな生活をとても気に入っていました。家族仲も良く、領民の皆様とも良好な関係を築いて、笑顔の絶えない生活をしていたのですから。
それが、五年前の事です。比較的天候に恵まれた地域であるはずのランドール領ですが、この年は近年稀に見る天候不順による冷害、さらに追い討ちをかける日照りが襲ったのです。それはもう甚大な被害を受けました。
農業以外に通貨獲得の手段がなかった我が領は、あっさりと立ち行かなくなったのです。
とりあえず館内にある金目の物を売り払い、知己を頼って借金をし、なんとか死人を出さずに冬を乗り越えました。
冬の次には春がくる。最悪の情況から後は這い上がるだけ、そう思い、家族一丸となってさらに身を粉にして働きました。
しかし私たちの冬は終わっていませんでした。お父様がカモられてしまったのです。
最初は投資の話しを持ってきた資産家に。次は実入りのいい仕事を持ちかけた商人に。止めは可哀想な身の上の青年に。
私はお父様が大好きです、大好きですが……ため息しかでません。お父様がもう少ししっかりしていたら……。
とは言え、穏やかでどこか抜けたところが魅力のお父様が、疑心暗鬼に満ちた姿など見たくないのも事実。ではどうすればいいか。私が疑り深くなるしかありません。
それから私は色んなものをよく観察するようになりました。もともと近眼気味で、ですが眼鏡を買う余裕もなく何かを見る時は注視する癖のあった私ですが、それに輪をかけて穴があくほど見つめるようになったのです。相手の表情の変化、声のトーン、呼吸の速さ深さ、何気ない気配まで。
そして変化がありました。人を取り巻く気の流れ、オーラが見えるようになったのです。その代償かどうか近眼は進みましたが。
しかし、ドのつく近眼がなんだと言うのでしょう。その代償を払っても余りある素晴らしい能力です。
近眼で遠くの相手の顔が判別できなくても、オーラは千差万別で人物の特定に不足はありません。そして何より、悪感情や人柄を瞬時に見抜くことができる! これに尽きます。
ちなみに、この能力を知るのは家族のみ。バレると有効性が薄まりますし、誰かに利用されるのも嫌ですしね。
それからというもの、私は御意見番として我が家で幅をきかせているというわけです。
「お父様、お話は以上ですか? 菜園の草むしりが途中なので……」
「いやいやいや! 本題はこっち!」
退出しようとした私に、お父様が慌てて引き出しから一通の封書を取り出して机に置きました。
「私にですか?」
不思議なこともあるものです。十七年生きてきて手紙を貰ったことなど一度としてなく、また送ったことさえありません。
「王様からなんだけど……」
「……はっ!?」
新手の詐欺でしょうか。
読んでくださってありがとうございました!
完結目指して頑張りますので、今後ともよろしくお願いします(^人^)