始まり 2
「あなたは一体何者?」
僕は目の前に現れた人間に聞いた。彼は倦怠感丸出しで
「分かるわけがないだろ、ただ君と違う存在者であることだけは分かるよ。」
と答えた。
あまりにも分かりきった回答に僕は拍子抜けだった。
「君は俗に言う幽霊ってやつ?」
と聞くと
「君がそう思うならそうだし、そう思わないなら、そうではない。」
と返答した。
あまりにもまともな返事が返ってこないことが苛立しかった。もう話すのはやめようとうと思った時、今度は彼から話しかけてきた。
「私のことを呼ぶ時は、福沢と読んでくれ。」
僕がその言葉を聞きなぜあんなにも反応をしたかはよく分からない。たまたまその人物を歴史の授業で聞いたばかりだったかもしれない。
「諭吉?」
この僕の反応に彼は驚いて
「知ってるのか?」
と聞いてきた。
もちろん知ってる、と答えると
「そうか、福沢さんはそんなに有名か。」
と感嘆した。
「なら、しょうがない。福沢はやめだ。これからはトーマスと読んでくれ。」
彼はそう言い、満足そうな清々しい顔をしていた。しかし、その顔はどう考えても東洋風であり、それ以前に福沢をやめた理由も分からない。もっとも、その事が一番気かがりではあった。
「どうせどんな呼び方でも変わらないだろ、俺の好きな呼び方をするよ。」
僕がそう言うと
「モチベーションが違う。」
と言ってきた。
僕は思わず笑ってしまった。その下らない自らの名付け方が妙に心地よかった。
「俺は俺のやりたいようにするよ、君は君のしたいようにすればいい。」
この言葉の真意を彼は分かったのかは分からないが、僕は彼のことを亡霊と呼ぶことを心に決めた。