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下準備……

 イリアスさんや他の騎士の人達に情報は貰った。シャンプーは確かに大変そうだな。キラキラ光る銀髪はとても綺麗だ。きっと良いモノを使っているのだろう。お金は持っているから、それを使う。

 お手伝いはさせてもらっているけど……でもそのお手伝いさんよりも賃金が高い事は複雑な気分である。

 正直良いように思われてないんじゃないかな?あの人達よりも高い賃金で、楽な仕事ばっかりやらせて貰っているのだ。表面ではニコニコして貰っているけど……うーん、暗い方向に考えてもしょうがないな!


 私単体で街に降りる事が出来ないので、カルロさんについてきて貰う事にした。専属護衛に指名されているし、実力も折り紙付きらしいから妥当な判断なんだけど……。時折肉食獣のような目で見られるのは怖い。

 ギラギラした目で見られて……他の女の子たちはコレがいいみたいだけど。どうにも私は怖くて仕方ない。カルロさんにはちゃんとエリオットと付き合っている事は伝えてあるし、カルロさんの告白も断っている。基本紳士的な人だから変な事はしないと信じてる。仮にも騎士団の団長もしている人だからな……人柄も考慮されているだろう。

 馬車の中、上から睨まれて縮こまる。


「なんっでエリーなんだ……」


 エリーというのはエリオットの通称だった。「逃げのエリー」って揶揄されているらしい。はあ、と溜息が零れている。珍しい赤色の毛並で、むっきむきのボディビルダー。この人は巷ではモッテモテらしいです。私はどうにも受け付けないが……だって怖いんだもの。圧倒的ムキムキ筋肉……好きな人は好きなんだろうけど……私は細マッチョが好きなんだよ。

 外を見ると景色が流れている。人の流れもあるが、皆獣耳付与だった。おや、羽がある人がいたな……あれはレア種族でしょう、どう考えても。

 しばらくレア種族を見ようと窓にへばりついておく。カルロさんと話するのは辛いしね。自分を好いてくれてて、そして振った人への対処方法なんて知らないんだもの。しょうがないだろう。モテた事ないんだよ!悪いか!

 うーん。けれどやっぱり狼が多いよね。お、猫のしっぽだ。旅行者なのかな?エルトリアで猫の人を見るのは珍しいからなぁ。南の住人だから、北のエルトリアはちょっとばかし遠いのだ。ああ、猫も可愛いなぁ。

 しばらく外の景色を見て満足したので、席に座り直す。パッとカルロさんと目があった。カルロさんの目が思いの外優しかった。なんか、子供見てる母親みたいな感じだ。そんな目で見られては、居心地悪くなってしまう。


「ユリはいつも楽しそうだな」

「え、えと。はい……」


 くっ!確かにはしゃいでたよ。でもレア種族はテンション上がるよ。勿論わんこも良いけどね。パンダさんとか凄く可愛かったんだよ。

 因みに男性だと狼、パンダが人気が多い。力強いイメージがモテる秘訣だそうな。

 女性はリス、ウサギが人気が多い。守ってあげたくなるイメージが高いからだそう。

 猫は中間で、男性も女性も割とモテるそうだ。

 ま、勿論個人差があるので、エリオットのようにモテない狼さんもいるんだけどね。


 生あったかく見守られながら馬車は到着した。


「お手を……姫」

「……っ」


 グッ……おおっ!?ひ、姫ぇ!?ぎょっとしてカルロさんを凝視してしまう。手を差し出して、ニッとワイルドに笑うカルロさん。お、おう……ちょっとモテるのが分かった気がするよ。これをエリオットにやられたら悶える自信あるよ……まぁ、照れて赤くなるエリオットの方が好きだけど。

 恐る恐るカルロさんの手を取って馬車から降りる。転ばない様に注意しながら。まぁ、もし転んでもカルロさんが支えてくれるだろうが。

 地面に降り立って、パッと顔を上げると、沢山の人の目がこちらに向けられていた。


「うおっ……!?」


 何故皆こっちをみている?あ……そっか。耳や尻尾のない人ってこの世界にはいないんだった。う、迂闊だった。フードか何かで姿を隠せば良かった。思わず頭を抱えてしまう。この短絡的な考えを直さないと……どうしてそんな簡単な事も分からなかったんだ!エリオットの誕生日で浮かれてても、だ!


「ふん……隠さなくても良い。その美しさを、存分に見せつけてやれ」

「Oh……」


 私の耳元でクスリと笑ってそう囁いてきた。その瞳からは少しの熱が見て取れる。口説いてくる時にこういう顔をしてくるので、この顔は苦手だった。

 待て、その前に美しいというのを訂正しろ。あ、あぶねぇ。危うく自然に流すところだったぜ。美しいという単語が、もはやゲシュタルト崩壊しつつある。ぐあ……恥ずかしい。なんでこの世界で私がモテるんだ!?


「まぁ、これだけの衆目が集まる中では、むやみに誘拐する奴もいなくなるだろう」

「あ、そうですね」


 「異界の君」は割と誘拐とかされやすいらしい。それは強い子が産まれるかららしい。主に他国のスパイが送られてくる。今までそんな危険な目に遭った事がないので、あまり実感が沸かないが……カルロさんからはなるべく離れない様にしないと。

 キリリと気を引き締めて、改めて周りを見回す。女の人はうっとりとした目でカルロさんを見つめ、私に向けられる目は男の人ばっかりだった。しかも熱心に見られている気がしなくもない。自意識過剰だとは言うまい……この世界での私のモテ度は言わずもがな。


「なんて美男美女なのかしら……」

「ああ、畜生。あれだけ男前ならぁ、あの美女を連れてても悔しさすら沸かねぇぜ」


 という声がチラホラ聞こえる。びなん、びじょおっ!?どういう目をしているのだ……。何度でも言おう……絶対間違っている、と。カルロさんは濃い顔のゴリマッチョだし、私はちんちくりんの平凡女だ。この世界の美的感覚が未だに慣れてこない。

 なるべく他の人の言葉を気にしない様に、店を回る。狭い店内に入ると、人の目がより分かりやすくなる。しかも「ほう……」という溜息というか、感嘆というか、そう言う声が聞こえてくる。つらい。


 シャンプーとリンス、それとブラシを購入した。しかも店員さんが言うにはこのシャンプーは女の人向けらしい。髪をつやつやサラサラにする効果が高いシャンプー。何故男の人向けじゃないモノを購入したかって?だって男の人の奴って、艶消しだとか、乾燥する髪にする効果があるモノなんだもの。ワイルドなモテ男になる為には必要不可欠のシャンプーらしいよ。

 うん、全力で断らせて貰ったよ。あんなキラキラした綺麗な銀髪を曇らせてたまるか。せっかくもっふもふなのにゴワゴワさせてたまるか。むしろもっとさらふわで、もっふもふになって貰うよ。

 ちなみに筋トレグッズはすでに持っていると嫌なので、次に見送る事にした。


「ちょっと待て、ユリ様……本当にそれをプレゼントする気で?」

「もーちろんさー」


 引き攣った笑いを張り付けるカルロさんに向けて満面の笑みを浮かべる。頭痛がするようで、頭を押さえたカルロさんが大きく溜息を吐く。


「憐れ、エリー……」


 良く聞こえなかったが、疲れているらしい。まぁ、女の人の買い物って付き合ってても疲れるだけだよねー。

 でもこのシャンプー使って貰って、さらにブラシで整えればもっと素敵騎士になるだろうなー。今から凄く楽しみだ。



 王城に戻って、今度は調理場を貸してもらう事にした。

 流石「異界の君」優遇国!あっさり許可が下りたよ!私だけだと心許ないので、料理長が横で見ててくれるという。安心だね!

 腕をまくって腰に両手を置いて仁王立ちしてみる。さぁ、どうすっかな!これ。

 緑色のぬめぬめした何かはなんだろう……?この岩のような何かは本当に食材なのか?何故食材のトレイに入っているのだ?こんなの料理に出てきた事あったか?ほう……この赤い水風船のようなものはなんだろうか?

 だめだ、お手上げだ。


「りょーりちょー!私、できません!」


 すぐに手を上げて降参する。パンダの料理長は仕方なさそうに溜息を吐く。全身パンダの料理長、ルシエスターナ・ンメキャロル・スエットゥンルード……ここから先は覚えていない。むしろこれだけ覚えた私を褒めて欲しい。

 レッゾショット国の有名な貴族の出の人らしく、名前がやたら長い。狼の国にいた女の子に惚れたらしく、こっちに移住してきた猛者。


「しゃーねぇ姫さんだ。まぁ何作るか位は言ってみろ。まずは手本みせてやっから」


 元貴族とは思えない程砕けた口調の人で、話しやすい。それにパンダなのも癒される。しかも料理は絶品なのだ。日本人の私の口にも合う。食材自体は見た事なかった……言わば、「スーパーで売ってる切り身しか知らなかったわ」状態なのである!ちょっと自慢げに言ってみたけど、やっぱり自慢するようなモノでもないな。


「じゃあ、ロスマイがいいです」

「よっしゃ、ロスマイな」


 ロスマイとはパイ生地にひき肉や野菜が入っている料理……つまり、キッシュだ。

 ロスマイはいわば代表的な家庭料理。女なら誰でも作れるであろう料理だ。これなくして料理は語れない。


「まずはこの肉を……」

「ふぁっ!????!!!」


 料理長が「肉」と言って手を出したものに変な声が漏れた。さっきいじってた緑色のぬめぬめしたものだったのだ。


「に、にくぅ?」

「そうだ、いつも食ってるだろう?どこまで箱入りなんだ……ま、姫さんだからしゃあねぇか」


 ちゃう。こんなんちゃう。私の知ってる肉とちゃう。いつも肉と言って食べてたものは茶色だったんだよ。普通の肉に見えたよ。


「メルセン・ミートだ。最もポピュラーな肉だな。すぐ繁殖するし、良い飯を食わせりゃ最高の肉に育ってくれる」


 言いながら料理長がダン!とメルセン・ミートと足っぽい所を切る。血抜きをしてあるのか、血は出なかったけど、逆にそれが不気味だった。


「次にこの卵を」

「うえっ!?!!!???」


 料理長が手に取った「卵」とやらは先程言っていた石だった。ロック・バードと呼ばれる魔蝶の卵で、岩のように擬態させて子を守るのだそうだ。因みに蝶は誤字ではない。派手な模様の蝶々が産む卵らしい。

 勿論鳥のような動物の卵も存在するらしいのだが、ポピュラーではないらしい。魔蝶の卵の方が大量に取れるし、質も良いらしい。全く訳が分からないよ。

 ダメだ、私はどうにかなりそうだ……。


 コンコンと石を優しく叩くと、普通の卵のように割れ、中身も卵だった。見た目だけなんだね、変わっているのは。メルセン・ミートも焼けば茶色になって普通の肉になった。

 パイ生地は作るのに時間がかかるので、もうすでに作ってある奴を使わせて貰う。材料を乗せていき、最後に赤い水風船を上に持っていく。

 赤い水風船……これはルレメーズ。綿菓子のような謎生き物から産まれる謎風船。森には結構な頻度で落ちているらしい。

 プチッと突くと、デロッとした透明の液体が落ちていく。……チーズなのである。これは、チーズです。大事な事なので2回言いました。焼いたら黄色くて香ばしいチーズになるようですよ。……頭痛くなってきたよ。

 ちなみにこのルレメーズ。生で食べるとお腹壊すらしいよ。気を付けてね。火が通ってないと透明だから、分かりやすいんだけどね。

 まぁ、誰も来ないか……。


「これで焼き上げりゃ、完成さ。箱入り姫さんの割には良く出来たほうじゃねぇか?」

「そ、そうですか?有難うございます……」


 私は憔悴しきった顔で礼を述べる。もうダメだ。あまりの情報の多さに壊れちゃいそうだよ。でも、これで準備は整ったな!さぁ、祝うぞ!

的外れなシャンプーのプレゼント。


異世界料理に驚きっぱなし。

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