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File-1-2


「うーん…最初の作品で自信が持てたんでしょうかね?何だか大胆な感じになってますね」


 現場に着いて死体を見た変子の第一声がこれだった。


 2人目の死体は、木と木の間に座った格好で磔のように両手を括りつけ置かれていた。

 芝生の上に木の杭がさしてあり、その杭に板を紐で括って十字架のようにしてある。そこに少しだらんとした感じで肘を曲て磔にされた少女の遺体には、太股の真ん中から切断された足が足先を上に爪先が向き合う形で交差させて背負うように麻紐で括りつけてあった。

 そして、まるでそこが当然の置き場所みたいに股上の所に切断された頭が置いてあり、今度はユリの花で彩られていた。

 まだ未発達な身体にあどけなさの残る顔は、どう見ても中学生ぐらいの少女だった。


「何で解った?」


 遺体を見て憤りを感じながら伍代は疑問を変子にぶつけた。が、変子は隣に居なかった。


「あれ!?」


 伍代は周りを見回してさっきまで隣に居たはずの変子を探す。感想を漏らした後、散々遺体の写メを撮ってから自分の隣に戻って来ていたと思っていたのにどこにも見当たらない。


(あのクソ女…どこ行きやがった!!)


 伍代が悪態をつきながら全体を見渡すと、乗って来た車の助手席の座席が見えなかった。


「あの女…」


 伍代は漫画みたいに青筋を浮かべて車を睨みつけた。


 伍代はここまで変子を連れて来るのに一苦労した。

 新たに同じような死体が出たと連絡があって伍代は変子に伝えようと携帯に電話をかけた。ところが変子は出てはすぐに電話を切る。

 伍代は「ふざけんなよ!!」としつこく電話をかけまくったが変子は取っては切るを繰り返し、しまいには電源まで切った。伍代はブチ切れて変子のマンションまでサイレンを鳴らして車をぶっ飛ばした。

 変子が住んでいるマンションに着き急いで中に入ると受付の人間が居て、まるでホテルみたいだった。


「どちら様ですか?」


 受付の女性はとても優しい笑顔で伍代に聞く。伍代は自分が場違いな気がして戸惑う。


「え、あ…こういう者です…」


 どう答えていいのか解らない伍代は警察手帳を見せた。


「ああ、伍代様ですね。承っておりますのでどうぞ」


 女性は笑顔を絶やさずエレベーターの方を手で示して促した。この状況に伍代は呆気に取られてしまい、気がついたらさっきまでの怒りはどこかへいっていた。


「あ、伍代様−−…」


 受付の女性は何か思い出したようにエレベーターに向かおうとしていた伍代を呼び止めた。そして機械なように同じ笑顔で缶コーヒーを差し出す。


「よかったらコレどうぞ」

「え…あ、ありがとうございます…」


 戸惑うばかりで伍代は何だかよく解らないが、とりあえず缶コーヒーを素直に受け取った。


 5階に着いて伍代はさらに驚いた。一つのフロアに四部屋しかなく、どうやったらこんな良い所に住めるのかと不思議に思いながら変子の部屋のインターホンを押した。が、出る気配がない。

 せっかく怒りがおさまっていたのに、いくらインターホンを鳴らしても変子が出ないので伍代はまたイラつき、嫌がらせのようにチャイムを鳴らし続けてやっと変子はインターホンに出た。


『…もう…こんな朝早い時間に何ですか…?嫌がらせですか…?』

「テメェが携帯の電源切るからだろうが!!新たに死体が出たんだ…現場に行くぞ!」

『えぇ…』


 変子は不満そうな声を出した。伍代は腹が立って周りの事など気にせず怒鳴りつけていた。


「えぇって何だ!?テメェはやる気あんのか!!?」

『こんなに朝早くに動いたってやる事ないですよ…大体犯人に繋がる物でもなけりゃあ私達が現場に行く意味なんてないんですよ…』


 確かにまだ朝の4時だが、それでもやる事がない訳ではない。伍代は変子の渋りように少し違和感を感じた。昨日の喜びようからして、三度の飯より死体が好きで何より死体が出たと聞いただけで食いつてきそうなのに、今の変子は全く食いついてこない。変な感じがした伍代は窺うように聞いていた。


「だ…としてもだ、お前が好きな死体があるんだぞ…直に見たくないのか…?」

『別にいいです…写真は手に入るし…眠気には勝てません…』


 この言いように伍代は完全にブチ切れた。


「いいからとっとと出て来い!!でないとこのドアぶち壊すぞ!!!」

『…解りましたよ…用意するんで待ってて下さい…』


 渋々だが変子は了承した。ところがいくら待っても変子は出て来ない。伍代は待っている間、受付の女性に貰った缶コーヒーを飲み、腕を組んで足をイラだたしげに動かしながらタバコを吸う。何本も何本も…。

 携帯灰皿がいっぱいになり、飲み終わった缶を灰皿がわりにして伍代はタバコを吸い続けた。気がついたら開けたばかりのタバコが空になっていた。


(一体いつまで待たせんだよ!!もしかして寝てんのか!?)


 女は用意に時間がかかるもんだと言うが、変子の地味さから何をどうやったらこんなに時間がかかるのか理解できない伍代は、催促するようにインターホンを鳴らす。


『…何ですか…?』


 鬱陶しそうに出た変子に伍代は責っ付く。


「まだかっ!!?」

『…もう出来ます……、ったく…短気はモテませんよ…』


 変子は呆れたようにボソッと余計な一言を言ってインターホンを切った。


「うるせぇ!!お前にだけは言われたくねーよ!!!余計なお世話だ!!」

「うるせぇのはお前だ!今何時だと思ってんだ!!」


 この階に住む残りの部屋の住人3人が、同時に伍代に文句を言った。


「すみません…」


 3人同時の苦情に伍代は気押される。伍代が謝ったのを聞いて3人はブツブツ文句を言いながらも部屋に戻って行った。

 住人に抗議をされて反省した伍代は、それから黙っておとなしく変子を待っている間、灰皿がわりにしていた缶を見て思う。


(もしかしてこの為にくれたのか…?)


 伍代は缶コーヒーを差し出された時、女性の親切心かと思ったが少し気味の悪さを感じていた。だが今思うと、この缶があってとても助かった。


(何者なんだ…あの女…)


 伍代は受付の女性がまるで全てを見越したように缶コーヒーを自分に渡した気がした。


 結局伍代は1時間以上も変子に待たされるはめになった。待ち時間が長すぎて現場に向かう車の中ではドッと気疲れをしていた。信号待ちで変子をチラッと横目で見るが、用意するのに何で1時間も時間がかかるのか解らない程に地味だった。そして現場に着くまでの間、隙あらば座席を倒して寝ようとする変子を伍代は止めた。

 その座席のシートが今は倒れている。

 車の中を覗くと伍代が思った通り、変子は車の助手席でポンチョを掛け布団替わりにかけて安らかに眠るみたいに手を組んで寝ていた。

 伍代はバンッと後部座席の窓を叩き助手席のドアを開ける。


「おいテメェ…何してやがる?」

「私朝弱いんですよ…それにちゃんと頭を寝かせておかないと働かないんです…」

「知るか!!」


 伍代は怒りも吐き出すように深く溜め息をつき、どうしても聞きたい事を聞いた。


「何で解った?」

「何がですか?」


 変子は何故かポンチョを顔からかけていて、覗かせている眠たそうな目だけを伍代に向ける。


「死体だよ…何で次がすぐに出ると解った?」

「作品を一つ出したという事は出せる準備が出来たという事です。ですから他にもすぐ出せるようにストックしていると思ったからですよ」

「何でそう思うんだ…?」

「だって作品展って何作品も出すじゃないですか。あまり一つだけの作品展はないと思います…」


 何だよそれ−−−…じゃあ、これからも当たり前のように次々出てくるって事か?作品を展示するみたいに…あんな年端もいかない子達を…

 伍代は憤りを感じた。それを察したように変子が言う。


「伍代さんが憤りを感じる事はないですよ。彼女は最初の作品が世に出た時には既に亡くなってたはずです。私達にはどうしようもありませんよ」

「はずだろ…だったら助けられたかもしれねーじゃねーか…」


 変子は伍代が本当に悔しそうに顔を歪めたのを見て、


「じゃあ訂正します。彼女は確実に死んでましたよ。だから伍代さんが自分を責めて苦しむ必要はありません」

「そんなの検死してみねーと解んねーだろ…、てか最初の検死報告いつになったらくるんだよ!」


 他にも遺体があるだろうしこっちを優先しろとは言わないが、伍代はあまりにも対応が悪い気がした。すると変子が答えを教えてくれる。


「あぁ…スミマセン。私今回担当の検死官に嫌われてるんです。でもこれで早めてくれるはずですよ−−」


 そんなガキみたいな理由で…と伍代は脱力する。


「−−それと今回ので確信が持てましたけど犯人は男性だと思います」

「根拠は?」

「根拠といわれたら薄いんですけど、女性を求め女性に感化されるのは基本的に男性だと思います。女性の可能性がないって事はないでしょうが、女性が女性をモデルにするのって稀だと思うんですよね。

作品って何かに魅入られて描きたいって衝動がわくんだと思うんです。ですから女性に魅入られ創作意欲を掻き立てられた今回の犯人は男性かと。

結局のところ根本的に男性は母親を女性は父親を求め、でも女性の場合は最終的に母親になるので女性が求めるのは子供だと思います」


 変子の言っている事が理に適っているのかは解らないが、女一人でこの現状を作り上げるのは難しいはずだ。伍代がそう思っていると変子が携帯を取出し誰かに電話する。


「あ、おはようございます。阿佐木さんと早河口さんは今回の彼女の事を調べて下さい」


 誰に電話をかけたのかと思えば現場にいる2人にで、伍代は後ろを振り向いて少し離れた所にいる2人の方を見る。

 電話を受けているのは阿佐木で早河口はその隣でグッタリしていた。


(すぐそこだろうが!直接話せよ!!)


 電話する程の距離でもない事に伍代は呆れるしかなかった。


「あと出来たらでいいので広範囲で花を買った男性がいないか調べて下さい。え、あ、はい。男性です。よろしくお願いします」


 電話なのにペコと頭を動かして変子は電話を切った。


「俺達は?」


 すると変子は起き上がって伍代に顔を近づけ、


「私達は犯人を探しに行きましょう」

 と、不適な笑みを伍代に向けた。


 最初の被害者、小林さやかの家はアトリエがあると聞いていたからどれだけ立派な家なのかと伍代は思っていたが普通の二階建ての一軒家だった。

 伍代達が訪ねると両親2人で出迎えてくれる。両親はいまだに信じられないという感じで、目も当てられない状態だった。

 それもそうだろう…一人娘を無惨にも殺されたのだ。遺体もそうだが遺族に会うのもいまだに慣れない。


「朝早くにスミマセン。この度はお悔やみを申し上げます」


 玄関口で変子はペコリと頭を下げた。伍代も一緒に下げる。


「お嬢さんと交友のある人や関わりがある人、それとさやかさんに興味がありそうな人、お2人が知る限りでいいので書き出してくれませんか?あとその人達の顔が判る写真でもあれば貸して下さい。あ、あと行きそうな場所も」


 変子はそう言い、両親が書き出してくれたメモと写真を受け取ってお礼をして家から出る。


(え…?それだけ!?)


 伍代は他にも何か聞いたりさやかの部屋やアトリエを見るのかと思ったが、変子は他には何もしなかった。部屋やアトリエから両親も知らない秘密が出てくるかもしれないというのに。


「おい…!部屋調べたりアトリエ見たりしないのかよ?」


 車に戻ろうとしている変子に伍代は聞いた。


「私には必要ありませんから」


 変子は当然のように答えるが伍代には全くもって意味が解らない。


「どういう意味だよ…?」

「私にはこれがありますから」


 変子は自分の鼻をトントンと触って自信満々に微笑んだ。


 次に向かったのは青葉山学院で青葉山に着くとグラウンドでは運動部が朝練をしていた。

 学校関係者に話しを聞くには許可を取らないといけないのだが、変子はそんな必要はないと一蹴した。


「そんなの何か言われた時に対処すればいいんですよ。それに殺人で非協力的な対応なんて学校側は世間体があるからしませんって」

「いやでも−−…」


 そうは言うが、いくら警察で殺人事件の捜査の為とはいえ令状なしで好き勝手にしていい訳ではない。ちゃんとお伺いを立ててから話しを聞かないと後々面倒な事になる可能性がある。

 そう伍代が思っているのを察したのか変子は何とも形容しがたい顔で伍代を見て、吐き捨てるように言った。


「伍代さんって顔の割に几帳面で細かいんですね…」

(どういう意味だそれは…!?)


 伍代はどういう意味か問い質したかったが、これ以上聞くと変子に男としてのダメ出しを食らいそうで聞けなかった。

 だがそれからずっと頭の中で、さっきのはどういう意味だ…とぐるぐる繰り返されていた。


「美術部も朝から部活したりするんですね」


 美術室に辿り着いた変子が教室のドアの窓から中を覗いて言う。

 教室の中には比較的に女性徒が多いいが10人ぐらいの生徒と顧問の男性がいた。

 顧問の男性が中を覗いている伍代達に気づいて近付いて来る。男性は30代半ばぐらいか痩せぎすで疲れた顔をしているが母性本能をくすぐるような雰囲気があった。


「何かご用ですか?」


 ドアを開けて抑えめの声で男性は聞く。伍代は警察手帳を見せる。


「すいません部活中に…谷口先生ですね?小林さやかさんについてお聞きしたいんですが」

「生徒にもですか?」

「できれば」


 谷口は少し顔を歪め、意を決したように教室の中に戻り生徒達に説明をしている。

 昨日のニュースで事件の事は流れたし、学校でも説明があったはずだから生徒は知っているはずだ。

 谷口は伍代達の所へ戻って来て釘をさす。


「コンクールが近いのであまり生徒を動揺させたくないんです。ただでさえ衝撃が大きかったので−−…」

「あぁ〜!だからこんなに朝早くからしてるんですね」


 美術部が朝早くから部活をしていたのがずっと気になっていたのだろう、変子が谷口の釘で謎が解けて納得している。それを横目に、伍代は安心させるように優しく谷口に言った。

「大丈夫です。そんなにお時間をかけさせませんし、変な事は聞きませんから」

 俺は…と伍代は心の中で付け足していた。


 伍代達が中に入ると生徒達は見るからに緊張している感じだった。

 生徒は落ち込んでいるのかと思いきや意外と元気で、何人かは動揺したり悲しんでいる子もいたが実物の刑事というものに興奮しているみたいだった。


「本物の刑事さんですか?」


 伍代の周りに集まっている女の子の一人が伍代に聞く。


「そうだよ」

「渋くてカッコイイですね!」


 無邪気にそう言われ、伍代はどう答えていいのか解らず苦笑いをする。


「…皆あんまり驚いたりしてないんだね」

「凄い驚いたよ!でも死んだって聞いても実感がわかないんだよね」

「今日お葬式があるって聞いたけど…、それでもまだ信じられなくて…今でも小林さん部室に入って来そうだもん」


 そう言って女の子は入り口の方を見た。


「彼女はどんな子だった?」

「大人しくて無口な子。でも絵を描いてる時は恐くて近寄れなかった」

「そうそう。物音一つでも立てようものなら殺されそうだったよね。あの子が絵を描き出すと教室が凄くピリピリするんだ」

「絵が上手いからって鼻にかけてんだよ…あいつ俺達なんか見下してやんの。手くそが絵を描くなって」


 座って作業をしていた男の子が話しに入ってきた。苦々しそうに言った男の子のセリフをフォローするように女の子達が口を揃えて言う。


「悪い子じゃないんだけど…近寄り難いって言うかなんて言うか…」

「絵に対して本気過ぎるんだよね…、もう少し気楽に描けばいいのになって」


 生徒達の話しは阿佐木が報告した事と対して変わりなかった。伍代は変子の方を見る。

 変子は何だか生徒を避けているみたいで、教室に入ってすぐ中をぐるっと回ってからは谷口と何か話している。


「ところで花本舞さんは居ないの?美術部だよね?」

「あぁ〜辞めちゃったんだよ。舞ちゃんがぶつかって小林さんがブチ切れちゃって…」


 聞くところによると、何でも何人かで筆を洗うバケツに水を入れて教室に戻って来た時に舞の上履きの踵部分を誰かが踏んでしまったみたいで、舞がつんのめってさやかにぶつかり絵を駄目にしてしまった。わざとではないのだがその時のさやかの怒りようが半端なかったらしく、舞は泣きながら謝ったがさやかは許さなかったとか。そして舞はそのまま部活を辞めたみたいだ。


「さやかさんに彼氏とかいなかった?彼女に想いを寄せてるような人とか…何か知らない?」


 伍代は自分の周りに居る子達に小声で聞いてみた。

 両親に聞いてみたがそういう人物はいないとハッキリ言われた。だが、両親の知らない事はある。そして両親が知らない事を知っているのが友達や同級生だ。それに女の情報網は侮れなく、意外な事を知っていたりする。

 伍代の思った通り、女の子達は「どうする?」と言うように目線をお互いに向けている。


「何…なにか知ってるの?」


 伍代は後押しするように1番よく話す子に聞いた。するとその子はチラッと谷口の様子を窺ってから口元を手で隠し、伍代に耳打ちをするように顔を近づける。


「あのね−−…」


 伍代はよく聞こえるように耳を近づけた。女がくれた情報はとても有益なものだった。


 美術室を後にしてから、伍代は変子が谷口と何を話していたのかを聞いた。


「べぇつに…対した話しじゃありませんよ」


 変子はやけにツンケンした言い方をした。美術部で話しを聞き終ってから何だか変子の機嫌が悪い。


「いいから教えてくれよ」


 伍代が頼むように聞くと変子は仕方がないと言う感じに口を開いた。


「彼女の絵について聞いてみたんです」

「そしたら?」

「彼女の絵を見ると自分には才能の欠片もないと思い知らされたって言ってました」

「他には?」

「え…他ですか…?」


 そんなに突っ込まれて聞かれるとは思わず変子は困る。


「他には得に−−…伍代さんの方こそどうだったんですか?女どもにチヤホヤされて嬉しそうでしたけど…」


 変子は呆れたように横目で伍代を見て、トゲのある言い方で言った。


「チヤホヤなんか…」

「チヤホヤされてたじゃないですか!キャー本物の刑事さんカッコイイ!!って」


 漫画とかでカッコイイ男を見て声を荒げる女みたいに手を組んで体をクネクネ動かし変子はバカにするように言う。


「あいつら10代ってだけで自分達は特別だと思いやがって…」


 変子は10代の女の子に対して変な偏見を持っていた。


「最後なんか…あの女…馴れ馴れしく耳打ちなんかして…いったい何囁かれてたんですか?私オジサン好きなんで全然オッケーとかですか!?」

「何言ってんだ!?違うっあれは−−…さやかが顧問の谷口と付き合ってたって教えてくれたんだよ」

「え…誰から聞いたんですか?」

「だからその耳打ち−−」


 変子は自分の言った事がちゃんと伝わっていないと解り、伍代の言葉を遮った。


「いや、そうじゃなくって…それって本人から直接聞いたんですかね?」

「え…?」


 伍代は虚を突かれる。そんな事は考えもしなかった。


「だって、ただ噂で聞いただけでそう思ってるだけかもしれませんよ。あいつら確証もないのに聞いた話をそのまま信じるバカですから」


 変子は偏見全開の意見を述べた。


「でも『火のない所に煙りは立たぬ』ってんだろ」

「でも『根がなくても花が咲く』ともいいますよ」


 ぐっ…と伍代は押し黙る。


「それに付き合っていたとしても、だから何だって言うんですか?」

「はぁ?殺す動機になるじゃねーか」


 何言ってんだよコイツ…と伍代が思っているとまた虚を突かれる。


「動機なんてあってないようなものですよ。それに2人目の彼女は何なんです?」


 伍代はやっと上がってきた容疑者候補に気を取られて2人目の被害者との繋がりを考えていなかった。


「あ、あの子とも何かあったんだよ…あいつは少女にしか手の出せない変態で、その事で脅されでもして殺したんだよ。調べりゃ解る事だ」

「ちょっと偏見過ぎじゃありません…?」

「お前にだけは言われたくねーよ!!」


 呆れたように変子に言われ伍代は反射的に突っ込んだ。着実に伍代は変子に毒されていく。


「谷口先生が犯人だと言うなら何であんな風に彼女達を飾ったりするんです?」

「頭のオカシイ奴がやったと思わせる為だよ。そうすりゃ容疑を逸らせるだろ」

「伍代さんの言い分には無理がありますよ。例えそうだとしても死体が出た時点で自分との繋がりがバレるかもしれないんですよ。てかしっかりバレてるじゃないですか。

だったら頭のオカシイ奴の犯行と思わせるより、発見されないように遺棄するか自殺、事故に見せかけた方が得策というものです」

「そんな事どうでもいいんだよ!」

「よくありませんよ。これをどうにかしない限り世の中殺し放題ですよ」

「………」

変子の意外とまともな意見に話の腰を折られた伍代は押し黙る。

気を取り直して話を元に戻す。

「と、とにかく…谷口が犯人だって証拠さえあげりゃあこっちのもんだろ」


 このまま何の手掛かりもなく容疑者すら上がらずに犯人を野放しにしてしまうかもしれないと思っていたが、容疑者らしき人物が浮上してきて伍代は意気込んでいた。だが、変子がそれに水を差す。


「意気込んでるところ悪いんですけど、谷口先生は犯人じゃありませんよ」

「何でだよ!調べてみねーと解んねーだろ…」


 伍代は変子に反発したが、ふと早河口が言っていた事を思い出した。

 確か変子の検挙率は100%だと言っていた。という事はこいつが違うと言うからにはそれなりの根拠があるのか−−?

 伍代は少しの期待を胸にシリアス的に尋ねた。

「何でそう思うんだ?」

「谷口先生はニオイませんでした」

「は…?」


 どんな凄い根拠を披露してくれるのかと思えばまた訳の解らない事を言う−−−。

 伍代は変子の言っている意味が理解できずにいると、変子が種明かしをするように言った。


「私、同類のニオイは解るんです」


 伍代はこの時、「同類」という言葉に引っ掛かっりを覚えた。




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