File-1-1
この異様な空気を砕いたのは変子の喜び溢れた声だった。
「凄い…凄い凄い凄い!見て下さい芸術作品ですよ!私今までこんな美しい作品見た事がありません」
少女の遺体を見て、変子が目を輝かせながら興奮している。まるでオモチャを見つけてはしゃぐ子供のような、その変子の喜びようにその場にいる全員が狼狽える。
「見て下さい。全て美しく見えるように計算されてますよ。ほら、首の切断面なんてとても滑らかでキレイです。これは多分、相当練習してますね…動物か何か…いや、これなら多分人間でも何度か練習してますよ。この完璧な作品を作り上げる為に」
遺体をなめ回すように見ながら携帯で写メを撮り、大袈裟な動作で変子は鼻息荒く解説する。そしてクンクンと遺体の匂いを嗅いだ。
「ああ、ホルマリンの匂い…鮮度を保つ為に防腐処理したんですかね?このみずみずしさを保つ為には相当な苦労と何度とない挫折を味わったでしょうね〜。なんたって本物の芸術品を作り出そうとしたんですもの!誰もが憧れる人間を使った芸術作品…これは賞賛されるべきですよね!!」
何を言ってるんだ−−−−、コイツは……
伍代は我が目を疑った。変子の喜びようは人間としてあまりにも目を疑う光景だった。
素晴らしいものを発見し歓喜した変子は、夢見る乙女のように喜び舞っている。伍代達は現場の異様さより変子の異様さの方に圧倒されていた。
「お前何言ってんだ…」
人間性の欠片もない変子の言い分と態度に、伍代は思わず口から出ていた。
「この現状を見てどうやったら喜べんだよ…お前どういう神経してんだ?ありえないだろう!?どうなってんだよお前!!」
伍代は怒りと恐怖の入り混じった感情で変子を怒鳴りつけた。だが変子は何故怒られているのか解らないという顔でキョトンとしている。変子が周りを見渡すと、そこにいる全員が自分を「変なもの」でも見るかのような目で見ていた。
「何言ってるんですか?これはただの死体ですよ。焼かれて灰になるだけの物体です。私が今ここで悲しんだって彼女は還ってはきません。ありきたりですが、私が悲観し同情すれば彼女が生き返るというなら私はいくらでもそうしますよ」
平然と落ち着いて話す変子に対し、伍代は不気味で落ち着かない。そこにいる全員が伍代と一緒だった。
「そういう問題じゃない…人としてどうかという事だ…」
「人が死んだら悲しまないといけない決まりがあるんですか?」
「それが普通だろうが!!」
噛み付く勢いで必死で訴えた伍代の言い分に変子は鼻で笑った。それを見て伍代は眉をしかめる。
「何が可笑しいんだ…?」
「そん時だけ殊勝な顔してる人よりマシだと思いますけど」
「何言ってんだお前…」
変子の言い分に伍代は無性に腹が立つ。すると変子が手品を始める手品師みたいにうやうやしく遺体を手で示し、伍代に質問した。
「じゃあ伍代さんは今まで関わった彼らを全員覚えていますか?」
「何を−−…」
伍代が言いよどんでいると変子は自分の胸に手を当て、今まで関わった被害者達を思い返すように目を瞑った。
「私は今まで関わった全ての死体を覚えています。特別な何かがないと覚えていないあなたと全員覚えてる私、どっちが非道ですか?」
右、左と手を差し出して示し、挑戦するように伍代に尋ねた。
そう言われてしまうと、どう答えていいのか伍代は解らなくなる。
今まで関わった事件の被害者全員だなんて覚えている訳がない。まだ糸口すら見つかっていないのに次々と事件は起きるんだ。一々覚えてなんかいられない−−−−。
伍代が押し黙っていると変子はそのまま自分の意見を淡々と述べた。
「死んだら同情するのが人として当たり前ですか?死んだ人間には敬意を払えですか?
人は親しい人間が亡くならない限り本当に悲しくなんかないんです。ただ悲しんでる振りをしているだけです。そうしないと非道な人間だと思われるから」
変子はその場にいる全員を見回し、最後に伍代を強い眼差しで見つめて、
「死んでから同情したって遅いんですよ」
その言葉はその場にいる捜査員、そして伍代にも深く突き刺さった。
「はいはいはいはい。何やってんのあんた達。こんなとこでボケッとしてる暇があるなら働きなさい!足を使いなさい!」
手を叩きながらグラサンをかけた鑑識のおっさんが入って来る。ピリピリした空気を変えてくれたのは鑑識チームを伴った照美ちゃんだった。
照美ちゃんはいつもグラサンをかけていて、今は鑑識帽を被っているから判らないが、頭は太陽も嫉妬してしまうだろうつるピカスキンヘッドで、そして彼はムダ毛の処理も完璧だ。
彼が頭を剃り体毛を処理するのにはちゃんと理由がある。「自分の毛髪や体毛で現場を汚したくないから」と照美は言っているが、実の所、裏では「ハゲを隠す為」だとか「本当は女装する為ではないか」などと噂されている。
「照美ちゃーーん!伍代さんがイジメる…」
変子は照美に泣きつく。照美は慰めるように変子の頭を撫でて呆れ顔で答えた。
「はいはい。誰だってあんた初心者にはキツイわよ。泣きつく暇があるなら仕事しなさい」
照美の突き放すような正論に変子はぶぅたれるように唇を突き出し、膨れっ面のまま捜査員に命令した。
「まずは彼女が誰なのか身許を判明させて下さい。彼女が誰なのか解らないとどうしようもありません。彼女はどう見ても10代です。平成になってからDNAはデータ化されてますから確実にデータはありますし、ここ1週間か多く見積もって1ヶ月の間に出された捜索願いを探せば彼女の身許は簡単に判ると思います。
ですので誰か解ったら彼女の事を徹底的に調べて下さい。彼女の事を知れば自ずと犯人が見つかるはずです。後は皆さんでご自由に振り分けて下さい!照美ちゃんはいつも通りでお願いします!」
言うだけ言ってどこかに行こうとした変子に照美が呼び止めるように聞いた。
「ちょっと、あんたはどうするの?」
顔だけをこちらに向けた変子はうっすらと目に涙を溜めていて、泣くのを堪えているみたいだった。
「精神を安定させる為に綿貫さんに愚痴聞いてもらいます!!」
変子はそのまま本当に現場から立ち去って行った。その後ろ姿を見ながら照美が頬に手を当て溜め息をつく。
変子がいなくなって、伍代も他の捜査員達も内心とても安心していた。それを見越したように照美が伍代の肩にポンと手を置く。
「伍代ちゃん。アレには慣れるしかないわよ。あの子は変わらないから。でないとあの子と一緒になんか働けないわ」
照美は警視庁の鑑識だが伍代は所轄の時に現場で何度か会った事がある。だいたいの捜査員が照美とは顔見知りだ。
「無理ですよ…」
伍代は本心が口から漏れ出た。伍代はどう考えてもあれに慣れるとは思えないし、どうやってもあれを受け入れられるとは思えなかった。それを察したように照美が話す。
「そんな事ない。大丈夫よ伍代ちゃん。どんなものでも人ってのは慣れるもんよ。私も最初はあの喜びように憤りを感じて口に物詰めてガムテープでぐるぐる巻きにして黙らせてやりたいぐらいだったわ」
照美はぐるぐる巻きをジェスチャーで示し、楽しい思い出でも話すように笑っている。伍代はそれを見て意外だった。
照美も自分と同じように変子を受け入れられなかったと言うのに、今はどう見ても受け入れているようにしか見えない。
「それがどうして−−…」
「あの子、遺体の事『被害者』って言わないでしょ。私それに気づいた時あぁ、あの子はあの子なりに亡くなった人を悼んでるんだなって思ったの。そう思ったら何だか見方が変わったわ」
優しく話す照美の言葉を聞いて、伍代はさっきの出来事を思い返した。
確かに変子は1度も『被害者』とは言わなかった。だからと言ってあの態度を許せる訳ではない−−−−。
「まあ、私が勝手にそう思っただけで本当にそう思ってるかは解んないけどね〜」
照美が冗談を言うように明るく笑って話を締め括った。だが伍代は何か思う所があるのか真剣な顔をして考えている。その様子を見て照美はしてやったりな感じで微笑む。
「阿佐木悪い!ここまかせていいか?」
「え…あ、はい!」
鑑識員と話しをしていた阿佐木は突然名前を呼ばれて驚き戸惑ったが、つい勢いで返事をしてしまう。伍代は急用を思い出したように急いで現場を離れて行った。
伍代が猟奇課に戻ると部屋には綿貫しかいなかった。息を切らして焦っている伍代に綿貫は近くの椅子を引き出し、笑顔で伍代を中に促す。
「おかえりなさい伍代くん。良かったら座りませんか?」
一瞬戸惑ったが、伍代はそれに素直に従った。
伍代を椅子に座らせると、綿貫は自分の席のすぐ後ろにある資料棚の引き出しを開けた。何かの資料を出すのかと思いきや、綿貫は急須と湯呑み、そして茶筒が乗せてあるお盆を出して机に置き、急須にお茶の葉を入れて電気ポットの湯を注ぎ席に座って、
「2分待つのがいいんですよ」
と、笑顔で伍代にそう言い、2分経ってからお茶を湯呑みに注いだ。
何か話しがあるから引き止められたと伍代は思ったのに全く話し出す気配はなく、綿貫は悠々とお茶を入れている。この状況の先が見えない伍代は焦り苛立つ。
「あの−−…」
「まあ、一口どうぞ。熱いですから気をつけて下さいね」
綿貫が伍代の言葉を遮って、湯気が立つ湯呑みを伍代の前に置く。伍代は早く変子と話しをつけて捜査に戻りたいのに、綿貫はそれを知ってか知らずかのんびりお茶を飲んでいる。
伍代は綿貫が何をしたいのか解らないし、どうして今自分がこんな事をしているのかすら解らない。とりあえずこんな事をしている暇はないので、この状況を早く済ませたい伍代はお茶を飲んだ。
ほんのりと茶葉の味が広がり微かに苦味もあるが、それよりもお茶の旨味の方が引き立っていて、お茶の味の優しさと暖かさが全身に広がり染み渡っていく。
伍代はお茶を飲んで少し気持ちが落ち着いた。それを見て取った綿貫は笑顔で伍代に問いかける。
「伍代くん。何故彼女が私達を選んだと思いますか?」
伍代は綿貫の問いを不思議に思う。
それは−−−…変子が自分で言っていたではないか、「不当な扱いを受けていたから」だと。まあ、綿貫の理由はふざけたものだったが…
伍代が質問の意味を解らずにいると、綿貫が変子との出会いを語り始めた。
「彼女の最初の配属先は私の所でしてね、今回の事で解るように彼女は初っ端から周りに変な目で見られ気味悪がられていました。それでも彼女はいつも平然としていてどこ吹く風なんですよ。嫌がらせをされようが、どれだけ嫌味を言われようがケロッとしていて−−−」
その時の事を思い出して可笑しくなったのか綿貫の口元が綻んでいる。
さっきの照美といい綿貫といい、伍代には不思議で仕方がない。何をどうやったらそうやって変子を受け入れられるのか…。
綿貫は少し顔を曇らせて自嘲するように続けた。
「−−−私は部下からバカにされていたんです。役に立たない年寄りだって。私もいけないんですけどね、それに甘んじていましたから……。誰一人として私の意見など聞いてくれなかったのに…彼女だけは私の意見を聞いてくれたんです。「綿貫さんはどう思いますか?」って。私驚いて聞いてしまったんですよ、「何故私に聞くんですか?」と。そしたら彼女−−−」
綿貫は本当に面白そうに笑って答えた。
「−−−「年の功には敵いません」って。あれには驚かされました」
娘を想う父親みたいに綿貫は優しい微笑みを浮かべている。伍代は綿貫の話しを聞いて自分の視野の狭さを思い知らされていた。
綿貫を選んだ理由はちゃんとあった。いや、多分あれも本心だろうが…、綿貫の事を思って変子は本当の理由を言わなかったのだろう。
「部下にバカにされていたような人が自分達の上司だなんて大丈夫なのか」と少しでも疑問や不安を抱かせないように変子は綿貫の理由を誤魔化したのだ。
人の表面だけでは何も解らない−−−と、伍代は改めて思い知らされた。
「彼女は多分、はみ出し者にされていた私達なら自分を受け入れてくれると思ったんですよ。はみ出された者だから解る事があるでしょう」
綿貫は子供を諭す父親のように伍代に言う。そしてとても優しく、包み込むような微笑みで伍代の背中を押した。
「落ち着いて物事を見れば見方が変わりますよ」
仮眠室のドアを開け、一応「入るぞ」と声をかけて伍代は入った。
八畳ぐらいの部屋に、6畳分の畳みを敷いた寝所が膝の高さぐらいの位置にあり、そこに敷布団を敷いて掛け布団を頭から被った変子が寝ている。
変子は仮眠室でふて寝をしているという事だったので伍代は来てみたが、本当にふて寝をしているとは思わなかった。事件の捜査中だというのに何ガキみたいな理由でサボってんだと腹が立つが、伍代も人の事は言えない。
伍代は寝所の上がり口に腰を下ろし、休憩室にある自販機で買った缶コーヒーを変子の頭の近くに置く。
「ふて寝してる場合じゃないだろ。早く起きろ」
伍代は変子に背中を向けてから言った。変子は布団の隙間からチラッと伍代を窺おうとして、自分の目の前に置かれている缶コーヒーが目に入る。
「私コーヒーよりミルクティーがいいです」
変子がボソッと言ったのを聞いて伍代はイラッとしたが、無言で立ち上がり仮眠室を出て行った。ちょっとしてすぐに戻って来て、少しキレめの顔で変子の目の前にミルクティーの缶を見せ付けるように勢いよく置く。
変子は起き上がりそれを手に取り、伍代をチラッと見て目を逸らして言う。
「ホットがいいです…」
「それで我慢しろ!!」
伍代の我慢もここまでが限度だった。
寝所の上がり口に肩を並べて座り、2人それぞれ飲み物をチビチビ飲んでいる。何分経ったのか解らないが、さっきからずっと気まずい無言が続いていた。お互いがお互い、何か言いたそうにしているのだが口にしない。こういう気まずさが苦手な伍代は思い切って言った。
「俺は−−…お前を受け入れられない。あんな風に死体を見て喜ぶなんてふざけてると思うし、被害者を軽んじてるようにしか思えない…」
伍代は自分の持っている缶を見たまま言い、変子も缶を見つめて弄びながら伍代の言葉を聞いていた。
「だから俺は今日みたいにまたお前を怒鳴ると思う…」
「それは構いません。むしろどんどん怒鳴って下さい」
伍代は変子の変気味な答えを聞いて不審な一瞥を向ける。変子はそのまま続けた。
「私、ああいう猟奇的なものが好きなんです。血とか死体とか…、そういうのが変だっていうのも受け入れてもらえないのもちゃんと解ってます。でも私、皆の輪に入りたいからって自分を抑えたり好きなものを隠すのは嫌なんです。だってこれが私なんですもん…」
変子はここで言葉を少し切って、さっきより強く伍代に言った。
「私を受け入れられないのは構わないんです。でも否定はしないで下さい」
「わかった」
その想いは伍代に十分伝わった。
伍代が同意すると変子がいきなり不気味に「ふふふっ…」と笑い出した。そして伍代に抱き着く。
「な、何するんだよお前…!?」
いきなり抱き着かれて伍代は驚いて慌てるが、変子はニマニマ嬉しそうに笑っている。伍代は力付くで変子を引きはがした。が、離れた後もまだ変子はニマニマ笑っていた。
変子は伍代に怒鳴られて傷つきもしたが、その実嬉しくもあった。ああやって本音をぶつけてきてくれたのは伍代が初めてだった。今まで誰も、心ではそう思っていてはいても、『警視総監の姪』というだけで変子の事を特別視し、言いたい事を我慢していた。そして変子はいつも『変なもの』を見るような目で見られ、陰でコソコソ聞こえるように悪口を言われるだけだった。
変子は自分を偽る事がないように、相手にも本音でぶつかってきて欲しかったのだ。
「本当に…変な奴だな−−…」
ニマニマ不気味に笑う変子を伍代は呆れながら横目で見て、溜め息をついた。
変子との蟠りもなくなり伍代は捜査に戻ろうとしたが、遺体の身許が判らないと始まらないと変子が言い張るので、捜索願いが出ている人物ファイルをパソコンで調べていた。どれだけ時間が経ったのか、足を使う派の伍代は貧乏揺すりをしながらパソコン画面を睨みつけて、スクロールする作業に辟易していた。すると阿佐木と早河口が帰って来た。
2人は変子を見て少したじろいだが、伍代と同じように照美に説得でもされたのだろう、そこまでの拒否反応は見られなかった。
「遺体の身許が解りました…」
と、阿佐木が現状報告をし、それを早河口がホワイトボートに書き出した。それを伍代は手帳にメモする。
「被害者の名前は小林さやか。私立青葉宮学院の芸術科に通う16歳の女子高生です−−…」
青葉宮は少し前まで女子校だったが、現在の少子化に伴って男女共学になっている。青葉宮といえば品行方正に溢れた由緒正きお嬢様高校と言われているが、本当の所は金さえあれば誰でも入れるという学校で、品行方正とはいいがたい学院だ。つい最近も有名人の娘が問題を起こしたとニュースになっていた。
阿佐木の報告を聞くと、小林さやかはその中でも品行方正の優等生で、無遅刻無欠席の真面目な生徒。幼い頃から絵の才能があり数々のコンクールで入賞した経験があった。専攻は芸術科で美術部にも入り、それに絵画教室にも通っている。聞いていると彼女は絵に囲まれた生活だった。
家には自分のアトリエもあり、アトリエに閉じこもると何日も出て来ない事が当たり前みたいで、絵を描いている時は神経が高ぶっているから過敏になるらしく怒りっぽくなるみたいだ。まだアトリエがない時に部屋に閉じこもったまま出て来ない娘を心配した母親が、部屋に入り声をかけたが返事がないので肩を軽く触ったら物凄い剣幕で怒ったらしい。普段大人しい分、母親は恐怖すら感じたみたいだ。それからは絵を描いている時は邪魔をしないようにしているみたいだが、元々声をかけられても絵を描いている時は耳に入らないタイプらしく、彼女が絵を描いている姿を見た人は精魂すべてを絵に注いでいるみたいだと言っていたとの事だった。
「それと目撃証言は今のところはありません。ご両親に確認してもらった所、彼女で間違いないとの事でした。頭部と身体が同一人物のものかもまだ判明していませんが、同じものである可能性が高いと照美さんが言っています」
そう阿佐木が報告を終わらせると変子が意見を述べた。
「あれは多分同一のもので間違いないです。違うものを使うとは思えません。首の切断も一致していましたし、あまり一つの作品に違うモデルを使う事はないでしょう。いくら他人のいい所を寄せ集めて完璧な存在を造りあげても、やっぱりその人のそのものの美しさには敵いませんから」
「そういうもんか…?」
伍代は変子の意見がよく理解できない。変子は当然のように答える。
「完璧でなくバランスの悪さがあった方が惹かれたりするものですよ。ほらパリコレとかモデルさんってキレイな顔より特徴的な顔の人の方が選ばれるし目が引くじゃないですか…」
と、突然変子は考えるように顎に手を当ててうーん…と唸った。
「他にも同じ年くらいか、それより下の女の子の行方不明者は次の作品候補かもしれませんね…」
「でも、この年代の失踪者はたくさんいます!ここら辺りだけでもざっと見て500万人以上はいますよ−−…」
独り言のような変子のセリフに早河口が慌てたように答えた。
「最近失踪届けが出された子はいますか?」
「今の所はまだ…でも失踪届けが出されたら連絡があります」
阿佐木の答えを聞いて変子は考え深げに言った。
「犯人は自然のままの子が好きなんです。髪も染めてなくピアスも開けてない素材そのままの子が好みなんですよ。失踪者の中にそういう子がいたら危ないです…」
「そんなの何万といるだろ−−…」
「そうなんですけど…」
変子のどうしようもない言い分に伍代はどうしようもない答えしか出てこなかった。
とりあえず今日はもう遅いので明日それぞれ関係者に話しを聞きに行くという事になり、変子と綿貫以外の3人は交代で仮眠をとって見回り組に合流する。
伍代が見回りに行く用意をしていると変子が思い悩んだような顔をしているのに気づいた。
「何か気になるのか?」
変子は伍代を見遣って、椅子をクルッと伍代の方へ向ける。
「多分、次の死体がすぐに出ると思います」
「何で?今のこの厳戒体制の中で死体を遺棄できるか?あれだけの作業をするには結構な時間がかかるだろ…」
「でも、どこにでも盲点というものはあるものです」
伍代は信じられなかったが変子が言った通り、明け方近くに2体目の死体が発見された。