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Case1《元傭兵3人》

※人によっては、不愉快に思われる言葉を使用していますのでご注意下さい。

「おーす」

 ユーフォリア大陸西端に位置するユライト王国ケルンエッセン内、唯一の酒場の横で佇んでいるプレイヤーに俺は話しかけた。


「おーす…じゃねぇよ」


 そのプレイヤーは呆れた様に溜息を着く。


「リーゼ。お前、自分の容姿をもう少し気にした方が良いぞ」


 俺の容姿か……。

 俺が今ロールプレイ中のキャラは、16歳前後のハーフエルフなので例に漏れず美少女である。

 背が低く金髪碧眼(隻眼だが)で身体は良く言えばスレンダー悪く言えば寸胴体型をしている。

 とは言え、深いフード付きのローブを身に纏っているので傍目では分らない。


 傭兵という事もあり、街を転々としているので俺の悪名はこの町にまだ浸透していない。

 そんな事もありナンパ的な意味で結構声を掛けられたりする。

 念の為に言っておくが、フード付きのローブを着ているのは別にナンパが鬱陶しい訳ではない。

 これの方が何かと都合が良いからだ。


「街の中ぐらい猫を被っておけ」

「フード被ってるよ」

「そういう意味じゃねぇよ」

「知ってる」


 クククと俺は茶化す様に笑う。

 つまり、女の子らしく見える様にロールプレイしろと言いたいのだな。

 はっきり言って苦手だ。

 まぁ、必要とあらば”女口調”にしたりはするが、基本的に”俺口調”の女の子という設定でロールプレイしている。

 苦手なら男キャラでやれよ…と思うかも知れないが、野郎でプレイしたいとは思わないので我慢だ。


「エース。そんな事より何か良い情報手に入った?」


 小言が多いので、俺は無理やり話題を変える。

 こいつの名前はエース=ブランディで情報屋を生業としている。

 情報屋と言うのは、簡単に言えば情報を集めプレイヤー相手に商売する職業だ。


『E/O』では、ゲーム外で入手した情報をゲーム内で活かす事はほぼ不可能に近い。

 ゲーム外で未発見ダンジョンの場所を入手してもゲーム内では発見する事が出来ない。

 通常の方法だと未発見ダンジョンに関連する何かを持ったNPCやアイテム等から情報を入手しないといけない。

 つまり、未発見ダンジョンを見つける為のキーをゲーム内で入手しないと駄目という事だ。

 そのキーもただ一箇所に留まっている訳ではないので入手は簡単ではない。

 そこで情報屋だ。

 職業にしているだけの事はあって情報収集に長けている。

 彼らはあらゆるコネと情報網を駆使し、傭兵または騎士が必要としている情報を有料で提供する。

 逆もあり、プレイヤーから情報を買取りもする。


 全プレイヤーには情報を記憶しておくスロットの様なものがシステム的にあるのだが、情報屋を職業としている者はその領域が半端なく大きい。

 情報屋以外のプレイヤーは、滞在中の街1つ分の情報量しか保持できないに対し、情報屋は最低でもその10倍ぐらい容量がある。

 スキルやクランスキルを合わせればそれ以上にもなる。


 つまり、エースは俺の専属情報屋と言った感じで、エースが情報を収集し俺が狩るという構図だ。

 情報提供料を払う代わりに賞金額の3割をエースに渡している。

 効率的だろう?


 ああ、そうそうエースの事だったな。

 青髪短髪で髪の色と若干童顔以外は年齢相応のまんま日本人と言って良い容姿をしている。

 完全に情報収集に特化したスキル構成で戦闘能力は皆無に近い。

 俺達は、2人で街を転々としながら賞金首を狩る旅をしているのだが、その際はエースを俺が守ってやらないといけない。

 ついでに言うと俺のリアル友人でもあったりする。


「取り合えず、今の所候補は2件だな。

 1件目は、6件の婦女暴行で指名手配されているタダの強姦野郎で賞金は2500Gだ。

 2件目は、3人組の元傭兵で依頼先でトラブルを起こして傭兵を1人殺している。賞金は48000Gだな」

「ん~。じゃ、2件目の方で……」


 強姦野郎を殺しても詰まらん。

 それなら少しはり我意のある元傭兵3人の方が良い。

 それに賞金額が段違いに違うしな。


「名前はブリック、マイス、ルーデックだ。

トラブルをやらかすまでは、この街でちょっとした有名3人組だったみたいだな。

おっと、苗字も言った方が良いか?」

「いいや、興味ないから続きを言ってくれ」

「今から丁度一ヶ月前、とある依頼で競合しちまった傭兵を衝動的に殺してしまったらしい。

逃亡する際にNPCを人質にとって騎士にも攻撃したんで指名手配って訳だな」

「クエストと戦争以外での同業殺しの罪は重いのにバカな奴らだ」


 それだけでなく騎士やNPCに攻撃とか何を考えてるんだか…。

 3人もいて止める奴はいなかったのだろうか。


「確か、私闘さえご法度らしいな」

「ちゃんとギルドに申請すればOKだぜ」


 闘技場以外での傭兵同士の私闘デュエルは、正当な理由がある場合に限りギルドに申請すれば行う事が出来る。

 とは言え、大概は先輩傭兵が後輩傭兵に稽古を付ける為に使用されるぐらいだ。

 後は、自流派の伝授ぐらいか…。

 自分オリジナルの流派は、1人だけなら他のプレイヤーに教える事が出来るらしい。

 伝授で使用しているのを何度か見掛けた事がある。


「で、こいつらの居場所は?」

「ちょっとややこしい。

プレイヤー居住区には3つの裏路地があるらしいのだが、その内の1つで見掛けたという情報がある。

と言っても、3日前のたった1回な上にNPCからの目撃情報だ。

まぁ、お前なら大丈夫と思うが気をつけろよ」

「裏路地か…」


 俺は少し思案した後、履いていたブーツを脱ぐ。


「リーゼ、何をしているんだ?」

「ああ、裏路地へ行くに相応しい格好をしようと思ってな」

「はぁ?」

「ちょっと、汚れてくるわ。んじゃな」


 裏路地は、言ってみれば犯罪者の溜まり場だ。

 そこへ小奇麗な格好で行ったらかえって怪しまれる。

 本当はローブもぼろぼろのに替えたいが時間がない。

 という事で取り合えずブーツを脱いで走り回り足元を汚くする。

 ついでにローブに収まらない身体の一部分を足と同じ様に汚くすれば相応しくなるだろう。


◆◆◆


 日が暮れる前に気配を消して一通り下見をした結果、エースが言っていた裏路地を発見した。

 これは日が暮れた後だと分らなかっただろう。

 目的の裏路地の入り口は、地上6階ほどのアパートが2軒連なった間の人一人程度の幅しかない細い道の先にある。

 ゴミ袋のオブジェクトが所狭しにあり、足の踏み場があまりない道を10m程突っ切ると目的の裏路地となる。


 ここがまた酷い。

 覇気のないNPCのチンピラや浮浪者が歩いてる。

 それはまだ良い。

 壁際に立っているNPCは品定めするかの様に前を通る者をジッと見ている。

 中には活きの良いNPCもいるが、殺し合いだったり一方的な暴行であったり気分の良いものではない。

 プレイヤーも何人かいた。

 ギルドの賞金首リストで見掛けた者が数人いたがどれも小者だ。

 強盗野郎や強姦野郎でる価値のない奴等ばかりだ。

 そう言えば、エースが言っていた1件目の強姦野郎はいなかったな。


 さて、そろそろ標的のプレイヤーを待つ為に裏路地へ入ろう。

 ちなみに今回は、色々追い剥ぎで失った初心者魔術師という設定だ。

 足は裸足で歩き回ったので汚れきっている。

 手と顔はわざと泥を塗りたくってやった。

 ローブの中身を見られない限りバレる事はないだろう。

 装備は、NPCの店で買った初心者用マジシャンロッドで適当にMobを素殴りして傷を付けておいた。

 まぁ、装備と言ってもただ持っているだけだし、実際は魔法なんて使えない。


 俺はヨロヨロとふらつきながら裏路地を歩き、適当な所で壁にもたれ掛かって座る。

 周囲のNPCが俺を観察している。

 大方、隙あらば俺が持っているマジシャンロッドを奪う為だろうな。


 しばらくすると、1人のNPCが俺の前にやってくる。

 そして、おもむろに顔を覗き込み、一瞬驚いた表情の後、いきなりキスを迫ってきた。


 こいつ、欲情してやがんな。


 後、数cmで俺の唇に触れようとした時、周囲から見えない様に右手に隠し持った銃の銃口をNPCにぶち当てる。

 一瞬で恐怖の表情を浮かべ真っ青になっていく。


「汚ねぇ顔を近付けるな。殺すぞ」


 俺はそのNPCにしか聞こえない音量で殺気を込めた死の宣告をしてやる。


「ヒッ…」


 恐怖で声も出ない様子でそそくさとその場から逃げていく。

 周囲も何か変だと感付いたが、もともと他人にそこまで興味がない彼らは見なかった事にした様だ。


 それから待つ事数十分、表がいよいよ人通りも少なくなっていき静けさが漂い始める。

 そんな時、千鳥足で酒の匂いをプンプンさせながら1人の酔っ払いが俺の前に立ち、数枚の銀貨を目の前の地面に落とす。

 今度は、買春野郎か……。

 そんな端金で俺の春を買おうなんてふざけてるのか?


「おじさん」

「ぐふふ。なんだい?お嬢ちゃん」

「私を買っても良いけど……御代は、こんな端金よりお前の命の方が欲しいなぁ?」


 俺は少しずつ怒気を孕む様に言ってやる。

 そして、また周囲には分らない様に銃を取り出し、銃身を酔っ払いの首下に近づける。


 俺の銃は少し特殊だ。

 俺の身体には不釣合いな程に大きな装飾銃で中々豪奢の装飾が施されている。

 それだけではない。

 銃剣的な役割でユニーク級の短剣を着けている。


 つまり、その銃剣を酔っ払いの首に軽く当ててやったと言う事だ。


「…………ひぃ」


 酔っ払いの酔いがどんどん覚めていくのが分る。

 足をガクガクさせながら後ずさって行き、何かに躓いて尻餅を付く。


「ひ、ぎゃあああ~」


 叫びながら四つん這いで表通りまで逃げて行った。

 流石に周囲は俺が異常だという事に気付き、1分も経たない内に俺の周囲からNPCがいなくなる。

 誰も俺を見ようとはしない。

 いくらNPCと言えどトラブルに自ら巻き込まれようとする思考は持ち合わせていない。


 と言うか、標的がこのまま来なかったらどうしよう。

 空腹ゲージも残り三分の一になってしまっている。

 流石にずっとこの場所にいるのは避けたいところだ。

 だからと言って、無闇に表通りに戻る事は出来ない。


◆◆◆


 深夜から未明になりかけた時、標的とする元傭兵の1人が裏路地に姿を現した。

 恐らくは商業区の裏路地へ買出しに行くのだろう。

 日が明ける前に接触出来そうなので一先ずは安心だ。

 だが、接触するのは今ではない。

 買出しが終わって帰路に着いた時に接触するつもりだ。


 元傭兵…情報通りならこいつはマイスだ。

 マイスは裏路地の新人である俺に一瞬視線を向けるがすぐに前を向き歩き続ける。

 多少、不自然には思っているだろうが、流石に一瞬見ただけで疑いはしないだろう。

 というか、疑える知能があるのなら同業殺しなんてしないだろう。


 それからさらに待つ事40分ほど買出しが終わったマイスが裏路地に戻ってくる。

 マイスが前を通り過ぎようとした時、俺は彼のズボンの裾を摘んだ。


「あぁ!?」


 苛立った声で裾を掴んだ俺の腕を見る。


「おぃ!ガキ。手を放せ」


 マイスは足を上げ掴んだ腕を振り解こうとする。

 当然、俺は振り解こされない様に力を込める。


「食べ物…私に食べ物を恵んでくだ…さい」


 潤んだ瞳でマイスの見上げる。

 実際、潤んでいるかは置いておいて勿論演技だ。

 空腹なのは演技ではないがな。


「うっ…」


 流石にそんな目で見られては無理に振り解く事は出来ない。

 マイスはしゃがみ、右手で俺の顎をクイッと上げる。


「ま、良いか。

着いて来い。メシぐらいくれてやる」


 やはり、最後モノをいうのは顔だな。

 俺はマイスの後ろを歩いて行き裏路地を出る。


 そして、彼が向かった先は一戸建てのマイハウスだった。

 とは言え、一戸建ての物件としては一番小さい部類だな。

 大部屋1つに小部屋が3つの基本タイプだ。


「ブリック、ルーデック。帰ったぜ」


 マイスは玄関を開けるなり、中にいるであろう2人に声を掛ける。

 そんなに広くはない室内の奥から2つの影が現れた。

 出てきた影は間違いなく手配書の顔と一致する。

 元傭兵3人が揃った。

 早く殺したくてウズウズする。


「おぅ。お帰……」

「おせぇ…よ?」

「「何だ?このガキは」」


 ブリックとルーデックは、不審な目で俺を見下ろす。

 そして、いきなりブリックに深々と被っていたフードを剥ぎ取られる。


「汚れてはいるが、ハーフエルフか……」

「ああ。デザートだ」

「ふん。そういう事か」

「…美味しそうだな」


 元傭兵3人組は、マイスが買って来た食糧を適当に分けて各々食べる。

 マイスは、その中からリンゴを掴み俺に渡した。


「食え」


 マイスから渡されたリンゴは、新鮮とは言い難くしかも虫食いの後もあった。

 つまり、売れ残り且つ腐りかけのリンゴだ。

 まぁ、裏路地で販売される食料が良い物の筈がない。


 普段なら絶対に食わないが、食い物をくれと言った手前がっつかない訳にはいかない。

 俺は虫食いの箇所を回避してかぶりつく。

 そう言えば、もうすぐ日が明けると言うのに朝食以外何も口に入れていなかったな。

 しかも、腐りかけとはいえ、味はあまり変わらず普通に美味しい。


 そして、俺がリンゴを食い終わり彼らの方を見るとすでに食べ終っていた。


「よ~し、食い終わったな」

「こっちだ」


 ブリックはそう言い、俺を大部屋にある小汚いソファーへ誘導する。

 3人の中でリーダーなのがブリックで間違いない様で、他の2人は少しばかり目で追うだけだった。


 ソファーへ俺は座らせて、彼は覆い被さる様に身体を寄せローブの結び目に手を掛ける。

 上から順に結び目を解いていきローブを剥がそうとした時、ブリックの身体が硬直する。

 ブリックが見てしまったのは俺の貧相な身体ではなく、ローブの内側にびっしりと固定された手榴弾や銃のマガジンだ。


「なっ…おま…」


 全部言い切る前に俺は右手に忍ばせていた銃をブリックの米神に当て撃つ。

 銃声と共に血肉が飛び散り、弾かれた頭部に続く様に身体が倒れていく。

 俺は即死したであろうブリックを足で踏みつけ、確認の為に数回撃った。


 数秒後、銃声に気付いた2人が部屋へ駆け込んで来る。


「ブリック!どうした?何があっ…」

「さっきの銃声は何だ!?」


 俺は倒れているブリックを足蹴し彼らの前にやる。

 ゴトリとブリックの頭部が彼らの方に向き、マイスは驚愕のまま固まったブリックの表情を見て戦慄する。


「「なっ…」」

「……クククククッ……」


 俺は、困惑した2人を見ながら口元を三日月の形に歪ませ笑う。

 演技はもう終りだ。

 と言うか、もう自分を制御する事が出来そうにない。

 残り2人を早く殺したくて仕様がない。


「アハハハハハハハ」

「て、てめぇ…」

「ッ……」


 楽しいそうに笑う俺を見てマイスは激昂し腰に差していたロングソードに手を掛ける。

 逆にルーデックは困惑のまま押し黙っていた。


「なぁに?」


 首を傾げ口元を緩ませながら聞く。


「ぶ、ブチ殺してやらぁぁ!」


 マイスは手に掛けていたロングソードを引き抜き上へ振り上げる。

 振り上げた瞬間、剣先が天井に突き刺さる。


「しまった!?」


 こういう室内で剣は扱い辛い事を激昂した事ですっかり忘れている様だ。

 それを見た俺は瞬時に判断し懐へ入り、無防備となった鳩尾を思いっきり蹴る。


「ぐっああぁぁ!!」


 マイスは、ロングソードから手を放し鳩尾を抑えた。

 ローブの中から手榴弾を取り出し、痛みを堪えていたマイスの口へ無理やり捻じ込みピン抜く。

 そして、もう一度思いっきり蹴って部屋から追い出し爆風が来ない位置まで移動する。

 数秒後、室内中に響き渡る爆音と共に血肉が至る所へ飛び散った。

 木っ端微塵、誰が見ても即死だ。


 そして、残る1人を見るとすでに戦意を喪失していた。


「クカカカカ」


 俺は笑いながらゆったりとルーデックに近付く。

 近付くにつれてルーデックも後ろへ下がっていく。

 そして、それ以上後ろへ下がれない事を察し身体が強張っていった。

 ルーデックの前に立つと俺はニタァと笑いながら見上げる。


「……狂弾の…リーゼ……」


 ルーデックがボソッと呟いた。

 驚いた…この街で俺の二つ名を知っている奴がいたなんて…。


 《狂弾》は、不名誉な二つ名だ。

 つまり、PKした回数が一定以上に達するとこういった二つ名が付けられる。

 数えた訳ではないが、恐らく俺のPK回数は200回を超えている。

 特に負を連想しそうな漢字が頭に付く二つ名は確実にPK回数に関わっている思って良い。

 弾などの二文字目に付く漢字は、使った武器に関連する文字が入る。

 俺の場合、主装備が銃だから弾の文字が付いた。

 もちろん、殺したのは全員犯罪者(指名手配者)なので、正確にはPKKと言った方が良いが本質的にPKと同じだ。

 ちなみに、《凶弾》の誤字ではない。


「…正解」


 俺はそういうとルーデックの首を銃剣で掻っ切った。

 糸の切れた人形の様に体勢が崩れ前屈みに倒れる。

 最後に頭部と心臓へ1発ずつ銃を撃ち止めを刺した。


◆◆◆


 ブリック達のマイハウスを出た時、すっかり夜は明けて朝日が昇りかけていた。

 所々に血が付着しているが、人通りは少ないし目立たない。


「あ、マジシャンロッド忘れた…」


 高い代物ではないが、まだ使い道はある。

 しかし、もうあのマイハウスに入る事は出来ない。

 家主を殺してしまっているからな。

 『解錠』のスキルがあれば進入も可能だろうが、犯罪フラグが立ってしまう。

 たかが、初心者用装備の為に犯罪フラグを立てる必要もないだろう。


 俺はそのままの足で宿屋へ向かい、服を脱ぎ捨て浴場へ入る。

 簡単にシャワーで泥と血を洗い流し、備え付けのタオルで身体を拭く。

 ローブに付着した血は、水を流せば簡単に綺麗になる。

 俺愛用のローブは防水性にも長けているのでシミの様なものは滅多に付く事はない。


「さて、行きますか」


 勿論、傭兵ギルドへだ。

 とは言え、こんな片田舎には支店はなく出張所で、依頼の受領と報告しか出来ない場所だ。


 この街はそう大きくはない。

 宿屋の向かいに目的の傭兵ギルドがある。

 他の建物とは一線を画す大きさの傭兵ギルド内には、道具屋と職人ギルドも入っており生産素材の買取に力を入れているらしい。

 まぁ、俺は賞金稼ぎがメインなのであまり関係ない。


 俺には少し高めの位置にあるドアノブを回し店内に入る。

 店内の真ん中の位置に道具屋があり、左には傭兵ギルド右には職人ギルドがある。

 流石、建物が大きいだけの事はある。

 待合スペースもかなり広く、クエスト掲示板と賞金首リストのスペースが別個に用意されていた。

 クエスト掲示板には4人、賞金首リストには2人が良い案件がないものかと張り付いている。

 俺は横目で伺いながら窓口へ向かう。


「ようこそ。傭兵ギルド・ケルンエッセン出張所へ。

今日はどういったご用件でしょうか?」


 俺は無言で元傭兵3人組の手配書を窓口のカウンターに置く。


「傭兵番号9085102、リーゼロッテ=メッサーシュミット。対象の討伐完了」


 窓口のお姉さんにだけ聞こえる音量で言う。

 ルーデック然り、俺の名前を知っている傭兵がこの中にいないとも限らない。

 まぁ、別に知っていても良いのだが、その反応が一々むかつくのだ。


「はい。リーゼロッテ=メッサーシュミット様ですね。少々お待ちください」


 俺が態々小声で言ったのに、このお姉さんははっきりと周りに聞こえる声で返してきた。

 それとほぼ同時だろうか、俺の背後でザワリと空気が変わった。


 少しだけ目線を後ろへ向けると賞金首リストに張り付いていた2人がこちらを見ながらヒソヒソ何か話している。

 まぁ、内容は聞こえないが大体何を話しているのかは分る。

 逆にクエスト掲示板の4人は無反応だ。


「はい、討伐完了確認出来ました。賞金の受け渡しは各国の支店でのみ可能です。

それでは、またのご利用お待ちしております」


 確認と言っても、賞金首の生首を提出しなきゃいけないとか証拠がないといけないとかそんな煩わしい事をしなくても良い。

 討伐した時に討伐フラグが立ち、それをパソコンもどきの魔導機器に職員が確認するだけだ。

 リアルと言っても過剰にし過ぎるとゲーム性が失われる為、簡単にするべき所はちゃんとしてある。



 さて、今日は一仕事を終えたことだし、宿屋に戻ってログアウトしよう。

E/O本編が完結するまで、超不定期更新となります。

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