Case0《プロローグ》
『Evolution Online』エヴォリューションオンライン。
通称、『E/O』と呼ばれる世界初のVRMMORPG、今から約2年前にOasisSpace社から発売されたオンラインゲームである。
1テラバイト以上という超光速回線を利用したこのゲームは、地球を4分の3とはいえ再現しプレイヤー人数約8900万人・NPC数6億5000万人、4つの特化型超高性能AIによる完璧な管理によって非現実であるヴァーチャル世界を限りなくリアルに近づけている。
特に世界中の人々が繋ぐ事で発生す言葉の壁をAIの補間によってほぼ同時に自国語へ翻訳しているというとんでも仕様だ。
このリアルさこそ、このゲームの人気の原動力であった。
そして、もう一つの原動力と呼べる物がこのゲームにはある。
それはHMGによる徹底した年齢制限だ。
HMGは、1人1台しか所持できず、また脳波パターンによって所有者しか使用出来ない様になっている。
即ち、18歳以上(国によって変動)しかプレイ出来ないという事を利用して、グロ表現とエロ表現を積極的に取り入れているのも大きな要因と言える。
そして、グロ表現やエロ表現だけでなく、他のVRゲームに追随を許さないのが五感で痛覚以外を完全に再現している。
ただ、『E/O』が出る前に一時期問題となったVR性行中毒者を出さない為に性感はある程度制限されている。
◆◆◆
ここに1人、傭兵としてプレイしている日本人がいる。
新宮宗次、それが彼の名前だ。
彼は、フレンド枠でcβからプレイをしており、βから数えて8回目の時代進行を終え2代目のキャラクターでプレイしている。
初代もハーフエルフで迷う事なく女キャラクターで始めた。
彼曰く「折角のゲームなんだしプレイするなら、野郎より美少女でしょ」との事。
結果的に2代目も女キャラクターだったが、2代目キャラ以降完全に性別がランダムだと彼は知らなかった。
何故ハーフエルフなのかと言うと、容姿が16歳前後で成長が止まるという所にある。
キャラの寿命が尽きるまで若い姿を保っていられるのだ。
『E/O』は4つの時代【安寧の時代】【動乱の時代】【戦争の時代】【傭兵の時代】をリアル1年で繰り返す。
彼のキャラが前【傭兵の時代】に生まれ、現【傭兵の時代】という事で生誕1年となる。
―――リーゼロッテ=メッサーシュミット
4つの時代を生き抜いたハーフエルフの傭兵だ。
長寿種族は短命種族に比べて成長速度が遅く設定されている。
それでもステータスはとっくに限界値、スキルもほぼ限界値、もう成長する所はほとんどない。
成長限界も短命種族より若干低く設定されている為、ただ1つを残して彼女にはもう成長する見込みがない。
だから、彼女は1時代前【戦争の時代】に左目を犠牲にして呪術を刻んだ。
はじめは、右目だけの視界となり戸惑ったが今はもう慣れた。
それ以上に彼女が取得したユニークスキルは、傭兵としての知名度を上げるには十分だったと言える。
と言っても悪名であるが……。
何故に悪名なのか……。
それは、ハーフエルフというアドバンテージを全て捨てている事にある。
ハーフエルフはヒューマとエルフのハーフ種族な為、魔術と法術と精霊魔法を使用出来る。
しかし、彼女はその3つの魔法全て習得しておらず、代わりに銃火器スキルに特化させている。
ハーフエルフに銃……インパクトという面では十分と言えた。
それ以上に彼女の戦闘スタイル……いや、戦闘までの経緯が彼女の悪名を轟かせている原因だろう。
ハーフエルフ故幼いという身体的特徴を活かし、初心者(無力)を思わせ油断させた所で戦闘を仕掛ける。
相手を殺す為なら知り合いに引かれるぐらいの「演技」も厭わない。
そして、「悪人には人権なし」それが彼女の絶対的意思なのだ。
それはもう容赦がない。戦意をなくそうが命乞いしようが絶対に殺す。
止めを刺すまで死亡扱いにならない『E/O』で必ずするのが彼女である。
さて、次の被害者は誰だろうか……。