20.運と特技
「そういえば君、知ってるかい?」
「何をですか?」
「彼女はとても運が悪いんだ。それも周りに影響を及ぼす程ね」
「でも、僕には何も起きていませんよ」
「そりゃそうさ。僕たちは他人より少しばかり運が良い。だから彼女の影響を受けていないだけ。まぁ、彼女自身の努力もあるけどね」
ベリルさんがニヤッと笑う。僕は少し疑問を持ちながらも、ベリルさんの話に耳を傾ける。
「彼女は運を上回るほどの勢いで頭を回転させてる。だから、影響を受ける前に回避出来てるんだ。でも、彼女が未熟だった頃は、組んだパートナーが毎日怪我をしていた程だよ」
「そんな凄いことを」
「それを僕たちは『最適解』って呼んでる。数ある未来の中から最も起こる確率の高い未来を予測し、その未来から近い良い未来を掴む。それこそが、彼女が生み出した特技だ」
なんだか凄いことを話しているのだろうが、僕には何1つ理解することが出来なかった。だが、ベリルさんが発した『最適解』はセラサイトの口からも聞いたことがある。確か、『最適解には運も必要』だったか。
「僕たちの運は自分の身を守ると共に、彼女の最適解を手伝っているんだ。奇しくもね」
「なんだか、僕には難しい話です」
ベリルさんはハハハと笑うと、雲が横切る空を見上げた。そして、独り言を言うようにしみじみとした声で言った。
「彼女は『天才』だ。あの知識量に人ならざる特技も持ってる。でも、彼女だけはそれを認めない。何故だか、君には分かるかい?」
「皆と同じが良い。とかでしょうか?」
「ハハハ。それも理由かもしれないね。でも、本当の理由は彼女にしか分からない。だって彼女と親しいと思ってる僕でさえ、その理由を知らないんだから」
ベリルさんがその場に座り込む。生き生きとした芝生がベリルさんの重みにクシャッと潰れていく。
「でも、凡人でいなくてはいけない理由なんて、本当にあるのかな?天才になれると言うなら、誰だってその道を進もうとするはずだと思ってたんだけどな」
ベリルさんが芝生を撫でる。その目にはセラサイトを思ってか、苦悩の色が浮かんでいた。
凡人でいなくてはいけない理由。そんなものないと僕は思いたい。ベリルさんが言ったように、天才という道があるのなら進みたいと思うのが普通だと思うから。
そんなことを思っていると後ろから足音が聞こえ、音の主は僕たちに声を掛けてきた。
「どこで何をしているのかと思ったら、こんなところで駄弁っていたんですか?面白い話でも?」
「いや、ただなんで、空は青いのだろうなって話してただけだよ」
セラサイトの問いにベリルさんが笑ってそう言う。彼女の前では天才と凡人の話はNGということなのだろう。
僕が2人の方を交互に見ていると、セラサイトはため息をついて、ベリルさんに向かって手を差し伸べる。それをベリルさんは掴むとスッと立ち上がった。
「光の屈折、そのせいで青だけが目に入るようになっている。ただそれだけ」
セラサイトがつまらなさそうに空が青い理由を端的に話す。僕がこれまで見た中で、今のセラサイトが最も退屈そうだ。
ベリルさんはそんなセラサイトを見て微笑むと、彼女の頭をくしゃくしゃと撫でた。驚いているセラサイトの方を見て、ベリルさんは無邪気に笑う。
「それよりも、言いたいことがあって僕達を探していたんじゃないのかい?」
「書店なんかを巡ろうと思ってて。来たいって言ってたから、一応声掛けた方がいいのかと思って探してたの」
「そうか。じゃあ、行こう。今すぐ行こう」
ベリルさんはセラサイトの身体を街の方に向けると、背中を押して歩いていく。セラサイトは何かを感じたのかムッとした表情をしたが、大人しくベリルさんの押す方向へと歩を進めている。
「あ、待ってください」
そう言って僕も2人の後を追いかけるのだった。




