17.降臨
「来ましたよ。神が……」
セラサイトの指差す先には何も現れない。ただ静かで真っ暗な虚無がそこにあるだけだ。
何もないよ。そう口にしようとしたその時、この真っ暗な空間を揺らすような声が辺りに響いた。
“あれ?なんで3人も居るの?間違えちゃったかな?”
声のする方、セラサイトの指差す先には先程まではいなかった髪の長い女性が宙に浮いていた。女性は手を頬に当て、首を傾げている。
「君が連れてきたんじゃないのかい?神様」
ベリルさんが女性に向かってそう言うと、神様と呼ばれた女性は目を見開いてベリルさんの方を見る。
“驚いた。『トミ』のとこの『金の一族』って生きてたんだ。初めて知ったや”
ベリルさんの眉がピクッと動く。
“アハハ。これまで大変だったでしょ。だって、『トミ』は人間に騙されて殺されちゃったもんね”
「黙れ!」
ベリルさんが神の言葉に被せるように叫んだ。その声は真っ暗な空間に反響することもなく消えていく。
彼は俯いていて表情がよく見えないが、少なくとも身体が小刻みに震えていることだけは目に入った。
「君に何が分かる!僕達の何が!」
「ベリル!」
次の瞬間、神に向かって1歩踏み出したベリルさんの前にセラサイトが立ちはだかる。
ベリルさんはハッとしたようにセラサイトを見ると、眉をひそめて視線をそらした。
“そうそう。『金の一族』の君と、何故か入ってきちゃった君には用がないんだよね”
神はそう言って、ベリルさんと僕を指差す。そして、セラサイトに視線を向けるとニヤッと広角を上げた。
“ねぇ、お嬢ちゃん。アタシの力受け取ってくれない?アタシの力を世に知らしめてよ”
「私はもうすでに『欲望』の力を所持しております。なので残念ですが、お断りさせて頂きます」
“そう言って他の神にも交渉してたの?でも残念、誰も聞かなかったみたいだね。もちろん、アタシも!”
そう神が言うと、セラサイトの身体がフワリと宙に浮いた。僕が慌ててその手を掴もうとしたが、もう少しなのに届かない。
セラサイトが何も抵抗することなく、神の隣まで浮いていくと、神は自身の身体から光の玉を取り出すと、彼女の胸に押し当てた。
その瞬間、辺りが眩しい光に包まれた。
次の瞬間にはトロイの元の場所に戻ってきていた。
僕はあそこに行く前に、セラサイトがいた場所を見た。そこには胸を抑えてうずくまるセラサイトの姿があった。
「セラサイト!」
僕は叫んで、セラサイトの側に駆け寄る。彼女はまだ苦しそうだったが、僕の身体を借りて何とか立ち上がった。
「大丈夫です」
そう言うセラサイトの額には汗が滲んでいた。
まだ大丈夫じゃない。僕は瞬時にそう思ったが、彼女自身は自分の身体の心配をしていないようだった。
セラサイトは僕の後ろを見つめると口を開いた。
「ベリル。支配されちゃ駄目だよ」
僕は後ろを振り返る。その時ベリルさんは、僕たちに背を向けて立ち去るところだった。
ベリルさんが立ち去るのを見届けた後、僕は再びセラサイトの方を向いた。彼女はむず痒そうな表情でベリルさんが立ち去った方を見ていたが、僕の方を見ると口を開いた。
「彼を追いかけてください。今の彼は何を仕出かすか分からない。私は後で追いつきますので」
セラサイトはそう言って僕を押し出した。僕は彼女の様子を心配しながらもベリルさんが消えた方向へと走った。
ベリルさんは意外とすぐに見つかった。後ろまで行き、彼の肩を叩く。
「ベリルさん、待ってください」
ベリルさんが振り向く。彼の顔はまるでロボットのようにほとんどの感情がなかった。しいて言うとその表情にあったのは憎しみだけだった。
「ベリルさん?大丈夫ですか?」
「君に……」
「え?」
ベリルさんが僕をキッと睨む。




