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嘴にチェリー、夢みがちボーイ  作者: 清泪(せいな)


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3/3

青い鳥と自由

 

 車内には深夜ラジオが流れる。

 深夜二時を回ったラジオはDJが好き勝手に下ネタを言いまくっていた。


「いつも言うんすけど、こういうラジオ流すの止めません。後ろの人も死んでから下ネタ全開のラジオを聞かされるなんて思ってなかったろうし」


「じゃあお経でも流す? 一応用意してみたけど」


「いやそれはそれで夜中二時にやっちゃ恐いでしょ。……って何回やんすか、このやりとり」


「毎回それ抗議しちゃう河田君が悪いんでしょうが。これはこれでいいの、オレのハガキ読まれるかも知れないし」


 葉書職人かよ、と河田は呆気に取られた。

 このラジオに送るネタならそれもまた下ネタなんだろう。

 不謹慎だなぁ、と河田はバックミラーにちらりと映るバッグを見て思った。


「この女の人ってなんで殺されちゃったんでしょうね?」


 河田のため息混じりの呟きに、さぁ、と住之は軽く返事をした。


「やっぱ、知っちゃ不味い話なんですかね?」


「だろうね。末端だからね、オレら。末端も末端のアルバイトだからね」


 住之と河田たちの元に死体が届けられるまでの間には、かなりの人数が関わっていたりする。


「『オイ、この死体捨てておけ』『ヘイ』ってやり取りを五、六回は繰り返してオレらのとこに来るような話だからね。殺しちゃった人ってのはそのぐらい遠い存在であるわけでしょ?」


 遠い存在、と言われて河田にはピンと来なかった。

 きっとそれは一般人とヤクザとか政治家とかの距離を話しているのだろうが、殺した人間とその死体を捨てにいく人間にそれほど距離はあるのだろうか?


「ま、そういう遠い存在だからね、知っちゃうとアウトでしょ。さっきも早馬が言ってたけどほら、明日は我が身、って事になりかねない」


 住之に言われて河田はバックミラーに映るバッグに再び目をやった。


 この女はこれからこうしてまったく見知らぬ二人組に海に投げ込まれるのだ、バッグに詰められたまま。

 いくら理不尽な死に方をしたとしても、死んだ後ぐらいはまともに火葬されたいもんだ。

 家族一同に泣きながら挨拶をしてもらいたいもんだ、と河田は思った。

 半ば勘当の様な形で家を出た自分に家族一同は泣いてくれるのか自信は無かった。


 それから河田が何かを抗議する事も質問することも無く、車内には下ネタラジオが流れるだけだった。

 時折ラジオに住之が笑っていても、河田はスマートフォンでまたパズルに集中しだしていた。


 ラジオのDJが別れの挨拶をし始めた頃に、車は波止場についた。

 関係者以外立ち入り禁止と看板がある入り口は不自然に開いていて、人気など無く灯りなどもほとんど無い。

 並ぶ倉庫の壁に点灯している薄暗い蛍光灯が所定の場所へと誘導しているようだった。

 車はスピードを緩め、河田はまるでジェットコースターの落下前の様な感覚に陥った。

 毎度の事ながら馴れるものでもなかった。


「『嗚呼、あの美しき青い鳥はその両翼を軽やかに羽ばたかせ、自由に空を舞う』……だなんて、偏見だとは思わないか?」


 車を停めてシートベルトを外しながら住之は言った。


「え? ああ、そうっすね」


 シートベルトを外しながら河田は答えた。

 ああまた生返事か、と住之ががっくりしたところに河田は言葉を続けた。


「鳥だって生きるのに必死にもがいてますもんね、自由なんて甘いもんじゃない」


 

 車を降りて二人は黙々と後部座席のバッグを車から降ろした。

 一度合掌して、合図しながらゆっくりと持ち上げる。

 少しでも遠くへと振り子の要領で勢いをつけて、水の中へと投げた。

 沈んでいくバッグにまた二人は黙祷した。


「あの女も必死にもがいて生きて選択した結果、だったらいいな」


「こんな結果でもっすか?」


「いやぁどうだろうなぁ。選ばされた結果よりはましってとこか。選べなかった結果よりはまし、ってのもあるね」


 そうっすかね、と河田は首を傾げる。

 何をどうしたってあんな状況にはなりたくないし、どうしたって女の結末を良い様に解釈してやれようもない。


「オレはもがいて生きたいし、もがいて死にたい。今のオレなんて生き地獄だからね。自由ってのに甘んじてる生き地獄。自由ってのは地獄だよ」


 そう言って住之は車に乗り込んだ。

 河田はまた首を傾げる。

 地獄ってなら死んでんじゃないか、と。


 住之がキーを回しエンジンをかけたので、河田は慌てて助手席側のドアを開けた。

 車内のラジオから聖歌が流れていた。


 鎮魂歌だな、と住之が言い河田は頷いた。



 誰の為の鎮魂歌なのかは問わなかった。


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