えぴそーど 〜にじゅうに〜
「ほんわか堂」の店先には、小さな黒板が立てかけてあります。
そこには、ほとりの手書きで、こんなふうに書かれているのです。
こめて こめて こめて こころをこめて
「こころをこめる」ってとてもたいせつですよね
それが どんな小さなことであっても
たとえ お金をたくさんかけなくても
かならず つたわるとおもうんです
「ほんわか堂」
今日も ふわっと あいています。
あなたのお悩み、少しだけこぼしてみませんか?
~ぼくのおくりもの~
***
ドタン、バタン、ガラガラガッシャーン!!!
「うわぁぁ」
ほんわか堂から、ほとりが出てきました。
お店の前では、男の子がうずくまっています。
「どうしたの?」
ほとりが優しく語りかけました。男の子は今にも泣きそうです。
「ころんで足を擦りむいたみたいね。お店でお手当してあげる。美味しいミルクティーもあるのよ」
「え?!ミルクティー?」
男の子は、顔をあげました。
***
ほんわか堂ののれんが、風にふわりと揺れました。
「お名前は?」
ほとりは、やさしく尋ねました。
「……」
男の子はこたえません。
「お母さんは一緒じゃないの?」
男の子は口をつぐんだままです。
「それじゃあ、とりあえず、けがの手当てをしようか」
ほとりは、傷口を消毒し、絆創膏をはりました。
「これでよしっと。擦りむいただけだから、だいじょうぶよ」
「……」
「あ、そうそう、ミルクティーを持ってこなきゃね」
ほとりは、ミルクだけで淹れたロイヤルミルクティーを出しました。
「あたたかいうちにどうぞ」
男の子は、ゆっくりと飲みました。
「はぁ、おいしい」
「そう?やっとしゃべってくれましたね」
「あ……」
「どうして、しゃべらなかったの?」
「おかあさんに、“知らない人としゃべってはいけません”って言われています」
「まぁ、えらい」
「でも、お姉さんは、あやしくなさそうだし、ミルクティーをくれたから話します」
「そう、ありがとう」
「それに、このミルクティーすごくおいしいし」
「ふふ、よかった。ぼく、お名前は?」
「たける」
「たけるくん、良いお名前ね」
「ありがとうございます」
「ねぇ、たけるくん、何であんなに慌てていたの?」
「それは……」
「無理に話さなくても良いのよ」
「……ぼく、お金をあんまり持ってなくて、ミルクティーのお金払ったらもう何も買えなくなっちゃう。だって、ここ喫茶店でしょ?」
「喫茶店?ううん、違うわ。いいの、お金はいらないのよ」
「え?いらないの?」
「うん。ここはね、困ってる人が休んでいく場所なの。それより何があったか話してくれる?」
たけるくんは話し始めました。
「ぼく、お母さんと二人暮らしで」
「そうなの」
「きょう、お母さんの誕生日なんです」
「そう!それはおめでたいわね」
「うん!お母さん、いつも僕のために働いてくれるから、貯めておいたお金でプレゼントを買おうとしたんだ。でも、プレゼントはみんな高くて……どうしようって歩いていたら、道にまよっちゃって」
「それで、慌てていたのね」
「うん」
「ちょっと待ってね。いいもの持ってきてあげる」
ほとりは、奥の棚から小箱を持ってきました。
「あけてごらん」
たけるくんは、小箱をあけました。
「たけるくんには、このおくり物をプレゼントします」
そこにあったのは、たくさんの赤い折り紙でした。
1枚の折り紙には、メッセージが書かれていました。
『ありがとうの気持ちは、かならず、つたわります』
「一緒に、鶴を折ってみよっか」
「え?鶴?」
「そうよ。この赤い折り紙で鶴を折るの」
「何で、赤なの?」
「赤い色の折り鶴には、感謝の気持ちが込められるのよ」
「へぇ。そうなんだ!」
ほとりは、たけるくんに鶴の折り方を教えました。
「たけるくんが折った赤い鶴を送ったら、お母さん喜ぶと思うなぁ」
「そう?」
「たけるくんのお母さんへの思いがすごく伝わると思う」
「うん!頑張って折ってみる」
たけるくんは、ほとりに手伝ってもらいながら、たくさんの赤い鶴を折りました。
***
「さぁ、たけるくん、お母さんに渡しにいこっか」
「……あ、お姉さん……ぼく、ここがどこかわからないよ」
たけるくんは、泣きそうになりました。
「お姉さんが、交番まで送ってあげるからだいじょうぶ」
「ありがとう」
ほとりは、たけるくんを交番まで送り届けました。
「……?!たける!今まで、なにやっていたの!」
「お母さん」
お母さんは、駆け寄ってきてたけるくんを抱きしめました。
「良かった……連絡が返ってこないから、お仕事切り上げて家に帰ったらたけるがいなくて、心配で」
「うん」
「それで、今交番に来たところなの」
「ごめん、お母さん。道に迷っていたら、このお姉さんが助けてくれたんだ」
「まぁ、そうだったの。ありがとうございます」
「いえいえ、私は道案内してあげただけで」
ほとりは、別れ際にたけるくんの耳元にこっそり言いました。
「じゃあ、たけるくん、しっかりね」
ほとりは小さくうなずくと、たけるくんは、お母さんと一緒に家に帰っていきました。
***
「お母さん、お誕生日おめでとう!」
たけるくんは、一生懸命折った赤い折り鶴を、お母さんに渡しました。
「え?これ、たけるが折ったの?」
「うん!」
「お母さん、とても嬉しい。今まででもらった中で一番素敵なおくりものよ」
「いつもありがとう」
「たける、ありがとう。ずっと大事にするね」
***
その頃、ほんわか堂では──
たけるくんが記した“ありがとう帳”の名前の下に、こんなメッセージが浮かび上がりました。
『ミルクティーおいしかったです。折り鶴おしえてくれてありがとう。 たける』
ほとりが、いつものように急須を洗いながら、ぽつりとつぶやいていました。
「かんしゃのきもちが、いつもだれかに届きますように」
【おくり物】
赤い折り紙
メッセージ:
『ありがとうの気持ちは、かならず、つたわります』
**次にのれんをくぐるのは、もしかすると“あなた”かもしれませんね**




