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えぴそーど 〜じゅうなな〜


「ほんわか堂」の店先には、小さな黒板が立てかけてあります。

そこには、ほとりの手書きで、こんなふうに書かれているのです。


「となりのしばふは あおくみえる」といいますが

となりからみれば 「じぶんのしばふもあおく」みえるんです

つまり ないものねだりがおこります

ひとの感じかたは ひとそれぞれ

だったら じぶん色を感じるのがいちばんですよね


「ほんわか堂」

今日も ふわっと あいています。

あなたのお悩み、少しだけこぼしてみませんか?


~カラスの色は、何色?~


***


ヒロマサは、声優としてデビューして5年目

事務所の正所属(ランク付き)になって3年目をむかえます。


養成所は2つ。4年通い、最終オーディションで拾ってもらう形で準所属(ジュニア登録)になったのでした。それから5年ほど…オーディションにたくさん出してもらっています。なかなか受かりませんが、事務所の力もあってか、脇役ですが、有名作品にも出る機会がありました。


ランクが付いてからは、セリフ量も増え、名前のある役ももらえるようになりましたが、声優の収入だけでは食べていけず、居酒屋でアルバイトをする日々でした。


ある日、夜のシフトが学生のアルバイトで埋まっていたため、ヒロマサは、ランチタイムのシフトだけ入っていました。


「今日も、アルバイトだけだったかぁ。はぁ…俺なにやってんだろう」


ヒロマサは、いつもそんな愚痴をこぼしてばかりいます。

でも、今日はいつにもましてブルーな気分でした。


「ちょっと、寄り道して帰るか…」


最寄り駅の1つ前で降りて、ふだん歩かない商店街に行ってみることにしました。

当てもなく歩いていると、あるお店が目の前に現れました。


“ほんわか堂”


「ほんわか堂?変わったお店だなぁ…入ってみるか」


***


ほんわか堂ののれんが、風にふわりと揺れました。


「すみません。一人ですけど、大丈夫ですか?」

「いらっしゃいませ。おひとり様ですね。お好きな席へどうぞ」


店の奥から、綿菓子みたいにやわらかな声の店主、ほとりが迎えました。


「お姉さん、とても良い声していらっしゃいますね」

「え?そうですか?」

「よく言われませんか?」

「…そうですね。たまに言われます」

「そういう活動しているんじゃないですか?」

「そういう活動?」

「たとえば、声優とか…」

「あはは、私には無理です。演技なんてできないですし」

「そうなんですか。なんかもったいない…」

「お兄さんこそ、とてもイケボですね。あ、もしかして声優をやっていらっしゃるとか?」

「ま、まぁ。でも名乗れるほどたくさん出てもいないし、その収入だけではないですし…」

「ちょっと、お待ちくださいね」


ほとりは、お茶を淹れました。


「あなたにお出しするお茶は、“色々な”お茶です」

「色々なお茶?なんか面白いネーミングですね…」

「飲んでみてください」


ヒロマサはひと口飲んでみました。


「なんか、飲むたびに色々な風味が感じられるお茶ですね。とても美味しいです…」

「何か、お悩みを抱えていますね?」

「え?何でわかるんですか?」

「先ほどから、言葉の端々にため息が混じっていました」

「そ、そうでしたか?」

「はい。お話しいただけますか?」


ヒロマサは話し始めました。


「俺、声優の“ヒロマサ”と言います。たぶん知らないと思います。多少はメジャータイトルも出てますが、世間的には全然無名で。このままで良いのかなぁ?就職したほうが良いかなぁ?とか思ったりして…」

「そうなんですね」

「それに、養成所時代に習ったことがちゃんと生かされているんだろうか?とか、考えを巡らしているうちに、どうしたら良いかわからなくなって…あ、あなたにそんなことを言っても迷惑なだけですよね」

「そんなことありませんよ」

「そのくせ、人の声には敏感で、さっきもあなたの声を聴いて、声について聞いてしまったりして」

「私は、とてもうれしかったですよ」


その後も、ヒロマサは、養成所時代の話や、どうやって声優になれたかなどを、たくさん話しました。ほとりは優しくうなずき、じっくりと話を聞きました。


「ヒロマサさん、とても興味深い話をありがとうございます」

「ごめんなさい。調子に乗って話過ぎてしまって…」

「少しお待ちいただけますか?」


ほとりはそう言って、奥の棚から袋に入ったものを持ってきました。


「開けてみてください」

「なんだろう?」


出てきたのは、白いカラスのぬいぐるみでした。

そして袋の中には、メッセージカードが入っていました。


『このカラスは、何色に見えましたか?』


「あ…」


ヒロマサは、そのメッセージを読んだ瞬間、フラッシュバックのように、声優の養成所時代に言われた恩師の言葉を思い出しました。


──今日、私が教えたことを”カラス“にたとえます。私は、”カラスは黒い“と言いました。でも、君たちが養成所を出て、色んな事を学び、声優として一人前になった時の”カラスの色“は、”ピンク”かも知れない。でもそれでいいんです。演技に正解というものはないのですから。だから、自分の“カラスの色”を見つけていってください。そして、とにかく続けてみてください。そうすればきっと芽が出ますよ──


「…あの言葉」


ヒロマサは、店をあとにしました。

入ってきた時とは違った雰囲気をまといながら。


***


ヒロマサは今まで以上に、声優の仕事に邁進しました。居酒屋のアルバイトもやめました。空いた時間は、すべて練習につぎ込みました。そして、どんなに生活が苦しくても、声に関する仕事だけで食べていくと、心に誓って…。


***


ほんわか堂では──

ヒロマサが記した“ありがとう帳”の名前の下に、こんなメッセージが浮かび上がりました。


『カラスの色は、青でした。でも赤になるかもしれません。 迷声優から名声優になりたい ヒロマサ』


ほとりが、いつものようにのれんを片付けながら、ぽつりとつぶやいていました。


「きょうも、だれかのこころのいろが すこしだけ あざやかになりますように」


【おくり物】

白いカラスのぬいぐるみ

メッセージ:

『このカラスは、何色に見えましたか?』


**次にのれんをくぐるのは、もしかすると“あなた”かもしれませんね**

       

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