えぴそーど 〜じゅうさん〜
「ほんわか堂」の店先には、小さな黒板が立てかけてあります。
そこには、ほとりの手書きで、こんなふうに書かれているのです。
「名は体を表す」といいますが
はたして そうでしょうか?
そういった一面は あるかもしれませんが
たとえば ねこちゃんは じぶんを「ねこちゃん」って思ってませんよね?
英語だと「Cat」ですし。笑
「ほんわか堂」
今日も ふわっと あいています。
あなたのお悩み、少しだけこぼしてみませんか?
~うちゅうじん、来店~
***
「おい、うちゅうじん。地球外知的生命体なんだから、こんなミスありえないでしょ」
「え?!…あ、はい、すみません。ぼ、僕はそんな次元の能力を持ち合わせていないので、どうしてもミスをしてしまいます。ぼくは地球人です。地球人なりに頑張るので、か、勘弁してください」
「あはは、冗談だよ。そんな真に受けないでよ。ま、とにかく気を付けてね」
「あ、はい、すみません。」
内生仁(うちう、ひとし)は、社会人3年目。
名前の読み方から、あだ名は「うちゅうじん」とつけられ、生来のまじめな性格から、”生真面目な宇宙人”と言われていました。
「うちうじんさーん」
(え?うちゅうじん?)
「あ、ごめんなさい。うちう、ひとしさーん」
病院の受付などで、名前が呼ばれるときは言い間違えされることも多く、必ずと言っていいほど、周囲の人に振り向かれてしまいます。
学生時代から、あまりにもいじられるので、改名しようとも考えましたが、両親がくれた名前を変えることに葛藤もありました。
「ああ、今日もミスってしまったなぁ。でも、地球外知的生命体って言っていたけど、あれ、きっと一度僕に言おうと思っていたよね、絶対。はぁ…なんかいちいち返すのが億劫になってくる」
内生仁は、仕事帰りにぼそぼそとひとり言をこぼしながら、歩いていました。
「あれ?ここ、どこだろう?」
考え事をしながら歩いていたら、ふだん入らない路地に入ってしまい、ふと見ると「ほんわか堂」が目の前にたたずんでいました。
「なんか、不思議なお店だなぁ」
***
ほんわか堂ののれんが、風にふわりと揺れました。
「いらっしゃいませ」
「すみません。まだ、やっていますか?」
「はい。お好きなお席へどうぞ」
やさしいまなざしをした女性が出てきました。
「あのぉ、看板に”悩みをこぼしてみませんか?“と書いてあったんですけど、どんな悩みでも大丈夫ですか?」
「はい、どんなお悩みでもお聞きしますよ」
内生仁は、自分の名前に対する悩みをかたります。
「僕は、"うちう、ひとし"と言います。名前の読み方を変えて、「うちゅうじん」ってあだ名がつけられています」
「へぇ、素敵ですねぇ」
「ええ?す、素敵?」
「はい。なんか、グローバルをこえて、もはやユニバース的で!」
「あははは、そんなこと言われたの初めてです」
内生仁は、思わず吹き出して笑いました。
「あなたのその笑顔、とても素敵ですね。お仕事は営業とかですか?」
「え?!そうですか?いや、僕には営業なんて無理です。でも…憧れはありますけど」
「で、お悩みというのは?」
「あ、そうでした。この名前のおかげで昔からよくいじられるんです。もうそれが面倒になってしまって」
「そうなんですか。…少しお待ちくださいね」
ほとりは、お茶を淹れます。
「あなたにお出しするお茶は、“誇り”のお茶です」
内生仁は、ひとくちお茶を飲みました。
「なんか、心に芯が入るような気分になりました」
ほとりは、棚の奥からネームプレートを持ってきて手渡しました。
「これはあなたへのおくり物です。このネームプレートには、名前が入っていません。元々生まれた時には誰にも名前がありませんよね」
ネームプレートにはメッセージカードが添えられていました。
『地球外から見たら、誰でも宇宙人ですよ』
内生仁は、何かを悟ったようにお店をあとにしました。
***
その後、内生仁は、今まで諦めていた営業の仕事に転職しました。
そして自己紹介では、必ずこう言うようになりました。
「どうも!私は内生仁です。あだ名は宇宙人です!」
営業先の人は、最初はぽかんとしますが、次の瞬間には必ず笑ってくれて、すぐに名前を覚えてもらえるようになり、営業成績も次第に上がっていきました。
***
ほんわか堂では──
内生仁が記した“ありがとう帳”の名前の下に、こんなメッセージが浮かび上がりました。
『「うちゅうじん」って、案外わるくないかもしれません。 生真面目な宇宙人 うちうひとし』
ほとりが、いつものように棚を片付けながら、ぽつりとつぶやいていました。
「きょうも、だれかのこころが すこしだけ つよくなりますように」
【おくり物】
ネームプレート
メッセージ:
『地球外から見たら、誰でも宇宙人ですよ』
**次にのれんをくぐるのは、もしかすると“あなた”かもしれませんね**




