第四話 万年レベル1冒険者、仕事を見つける
「烈火の如く」のメンバーなのではと言われて込み上げてきたのは、激しい羞恥心だった。
「烈火の如く」はちょうどAランクになったのもあって王都では有名で、冒険者で知らない人は珍しいくらいなはずだった。優しいカエデたちがそれに触れないでいてくれたというだけで、カエデたちが私のことを知らないと判断したのは早計すぎた。
「はい、そうです……」
頷くしかない。
だってカエデ、疑問形の体はあっても確信しているみたいだし。
「なんで一人でいるの? 宿がないって言ってたけど、『烈火の如く』とは別行動中なの?」
カエデが身を乗り出して、私の目を見つめる。
「え、あ、えっと……」
「左遷? 喧嘩して宿から追っ払われたとか? まさか、パーティー追放されたり?」
息をのんだ。
言い当てられてしまった。明日にはギルド中に広まってしまう。慰め、嘲笑の視線を向けられてしまう。
でもそれ以上に、カエデが、私が信頼しようと決めたパーティーのカエデが、こうやって粗を探すように質問攻めにしてくるのが嫌だ。
優しいと思っていたけど、本当はただ「烈火の如く」と私についての情報を集めたかっただけなのではないか。
「ねぇ、なんで答えないのよ! 俯くなよ!」
カエデは私の顎を手で持ち上げ、私と強引に目を合わせた。吐く息の音が分かるほどの距離感に、私は思わずカエデの手を弾き、跳ね退いた。カエデの目が獲物を見つけた猛獣のようにギラついている。
「やめて」
叫ぼうとしたのに、かすれた声しかでなかった。精一杯の虚勢を張って、布団の上に陣取って。カエデが一歩ずつ、ゆっくりと、近づいてくる。
この時間にして一瞬の出来事を見ていたビリアージュは、カエデの肩に手を置いた。
「カエデ、そういうのは止めなさい」
「ふぇ?」
それだけで、カエデから先ほどまでの威圧は完全に消え、親しみやすく優しいカエデに戻った。
「ごめんなさいね、ジオラ。カエデだってジオラを助けたいと思っただけだわ、きっと。自分の頃合いで、言える範囲で話しなさい。焦らないでいいのよ」
「そうだね、ごめんなさーい。何日でもこの宿に泊まっていいからさ、ゆっくり仲良くなってこ!」
さきほどまでの緊張が嘘のように、彼女らは私をやさしく癒してくれる。いや最初から、カエデが敵だと私が思い込んでいただけなのかもしれない。そう思わせてくれる。
私は座り直し、息を整える。
良く考えたら、どうせ「烈火の如く」が主体となって私が追放されたことを広めるだろうし、いまカエデに言おうが言わまいが変わらないのかもしれない。
自分がパーティー追放されたと言えば、カエデたちパーティー「蒼い花」は私の仕事を探してくれるかもしれない。打算的すぎて自分が嫌になるけど、それくらいしか仕事の伝手が見つからないものだし……。
息を吸って、ゆっくりと言う。
「そう。私、パーティー追放されちゃった。」
カエデとビリアージュも、言葉を探すように目を彷徨わせてから微笑んだ。
「そう。何があったのかは知らないけれど、それは辛いことね」
「ここにはいくらでも泊まっていいから、明日の宿も明後日の宿も心配しないでいいからね」
よし言質とった。これで宿は確保――そういうことじゃないけど、そういうことだ。私は笑顔をつくる。
「ありがとう。申し訳ないけど、頼らせてもらうことになるかも」
「そうだ!」
私の言葉を聞いてかいないか、カエデが手をたたいて飛び上がった。
「それならジオラ、どうせ明日の稼ぎもない感じでしょ? うちのパーティーに入らない? 頭いいからさ、参謀とかなれそうじゃない?」
最後の問いかけはビリアージュに向けられていた。
「――それは、いい考えかもしれないわね。ただそうね、リーダーと相談する必要はあるかもしれないけれど。」
「そっかー。じゃあ明日の朝に相談かな」
カエデたちパーティー「蒼い花」のリーダーはユーリンだ。男性陣なのでもう一室のほうでメンバーのケルフと同室らしい。
私は息をひそめて、話がまとまるのを待っていた。ここで「ぜひ入れさせて」と言うのも違うし、遠慮して話が流れるのも嫌だ。
今は、このパーティーにお世話になるしかないのだ。
――
「ということで、今日からジオラはしばらくの間、このパーティー『蒼い花』に試験採用されますっ」
朝、弾んだ顔のカエデが教えてくれた。なんと、私が眠ってからの深夜に、パーティーで集まって話し合ったらしい。
「やはり、詐欺が見破れるという点からも分かる頭の良さが魅力よ。私たちのパーティーの参謀として、少し働いてみません?」
「ありがとうございます! 宜しくお願いします!」
こうして私は、Bランクパーティー「蒼い花」の参謀という仕事に就くことになった。
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