第三話 万年レベル1冒険者、夜の女子会に参加する
「お前、俺らをだまして稼ごうとしてたのか」
「危ない……。署名してなくてよかったわ。取引は中止よ」
乱暴な手つきで、四人組は各々の収納にリピリカ魔石を片付けていく。
「君も片付けて。」
「あ……はい……」
男性は震える手で、銀貨とピリカ魔石、そして簡易契約書を片付けていく。あっという間に、机の上には貼り紙だけになった。
「僕……ごめんなさい、失礼しますっ!」
「え!? あ、待っ――」
男性が急に立ち上がって、走ってギルドを出ていく。追いかけてギルドを出るが、すでに男性は遠い。レベル1の私じゃあ、追いつけないだろう。
軽く溜息をついて、四人組のいる机に戻る。
「すみません、取り逃がしました。みなさんなら今から追いかけても間に合うとは思いますが……」
「いや、大丈夫です。幸いあなたが助けてくださったので、俺らに被害はありませんし。」
リーダー格と思わしき男性が答えた。するとそれを押しのける形で、代わりに丸メガネをかけた女性が進み出てくる。
「ありがとうございます!」
四人パーティーで一番賢そうなその女性は、深々とお辞儀をしてくれた。
「ちょ、急に押すなよ!」
「はぁ? 助けてくれた人に対して碌なお礼も言えないやつに、私らのパーティーの顔任せたくないんだけど!」
涙が出そうになった。感謝をされた、それだけで。
「烈火の如く」に居た間、どれほど貢献しても労いの言葉ひとつもらえなかった。それが日常で、私は自分で自分を認めているからそれでも大丈夫で。
でも改めてこんな風に接されると、妙に心が揺れた。
「――次は気を付けてね」
私はようやくそれだけ言葉を絞り出した。これ以上の介入はこの仲の良いパーティーにとって邪魔にしかならないだろう。そうして去ろうとしたが、数歩歩いたところで足が止まった。
今日の宿、どうしよう。
私いま、無一文……。
「どうしました?」
「いや……実は今日、泊まる場所が見つかっていなくて。どうしようかな、と。」
さきほどお礼を言ってくれた女性が、心配そうに話しかけてくれたので、私は率直に現状を伝えた。
「じゃあ俺らが泊っている宿どうですか? 一昨日、二部屋空いた覚えがあります」
「それよりも、私とカエデの部屋に泊まってもらったらどうかしら」
「いいね! あの宿屋けっこう人気だから、もう埋まってるかもしれないし。」
リーダーの男性が誘ってくれて、私が言葉を発しなくても話が進んでいく。幸い、私が無一文だということはバレなそうだ。同じ部屋に泊めてくれるらしい。
「とにかく案内しますから。一緒に来てください」
「ありがとうございます、お願いします」
願ったり叶ったりだ。今日の宿はとりあえず大丈夫だという安堵と彼らの温かさに、私はほっと胸をなでおろした。
彼らが案内してくれた宿はこじんまりとした可愛らしい住処のような雰囲気で、掃除が行き届いているのも好印象だった。
宿の人も四人パーティーもみんな優しくて、食事までご馳走になってしまった。食事の席で談笑して、みんなの名前も覚えた。
私が泊めてもらう部屋の二人は、カエデとビリアージュ。
二人の部屋に布団を一組運んでもらっていよいよ寝るというとき、ビリアージュが「そうだ、女子会でもしませんこと?」と提案してきた。カエデも乗り気になって、私たちはいつの間にか三人で、ベッドに横並びに座って……。
「やっぱりジオラは頭がいいんだね」
「私たちは体が命だから、ジオラのように学ぶ人は貴重よ。尊敬するわ」
「ありがとう」
話の流れから簡単な知能検査のようなものを試してみたら、意外に好成績だったのだ。
褒められて、曖昧に微笑んで受け流す。
だって、私が学んでいた理由は勉強が好きとかではなくて、ただ、体を鍛えても意味がないからだ。
万年レベル1。
いくら体を鍛えても、ソロだとD級冒険者止まりだ。C級から上は、レベルによる恩恵がないと不可能だろう。
「でもカエデたちだってすごいよ、もうすぐB級なんでしょ?」
「私たちのことは十分話したよ、私はジオラのことが知りたいなー?」
話をそらそうとしたけど、うまくいかない。カエデの薄い桃色の目に紫が混じり、怪しげな光を放ちはじめる。
「さっきから聞きたかったんだけどさ、ジオラってさ、『烈火の如く』のパーティーメンバーだよね」
素性は、道中にも食事中にも軽く触れられたけど、そのたび曖昧に流していた。
あああ……。
知られてないと思っていたから、安心していたのに。
追放されたとか恥ずかしいし、明日から職がないとか知られてまたこのパーティーを困らせてしまう。
私は言葉を返せないでいた。
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