第十二話 歪な存在
「違うの。理性で自分を覆い隠し、それでもなお感情が溢れてくるなんて、ジオラはとても人間らしいのよ。私はそれさえもうできない。完璧に感情を押し殺すことができてしまう。ジオラのいう歪な存在っていうのは、きっと、私のことよ」
私のことを人間らしいと言ってくれたのは嬉しいけれど……。ビリアージュは、まるで、私が彼女に対してそう思っていたように、自身のような歪な存在が生まれなくてよかったという安堵に満ちているようだった。私はビリアージュを救いたかったのに、肝心の彼女が私のように自分を歪な存在だと思ってしまうなんて。
でも、そんな訳が無い。私が人間ならビリアージュだって人間だ。
「私が理性で覆い隠していた感情を溢れさせたビリアージュの姿が、嘘な訳が無い。あれは真にビリアージュの感情の吐露だよ。私が、偽物の感情なんかに動かされる訳がない」
私が見たビリアージュの陰った顔も、いまのビリアージュの言葉も、私の感情を動かした。それにどうしても私には、ビリアージュが歪な存在なんかには見えない。人間としてのあなたに心を動かされた。それが偽物だったなんて言わせない。
「そっか。――カエデたちにも同じことを話したら、同じようなことを言っていたわ。『私たちのあなたへの忠誠心は、偽物の感情なんかで作られるものか』って。」
ビリアージュは憑き物が落ちたような、さっぱりとした顔をしていた。カエデたちにも話したのか。そのうえで私にも聞いてみて、同様の回答が得られたから安心だというところだろうか。
「ありがとう、ジオラ。あなたは私の想定を超え、真に私たちパーティーの問題点を炙り出してくれたわ」
「どういたしまして」
問題点が露出しようと、それを直すにはずいぶんと時間がかかることだろう。私だって、ビリアージュに私は人間だと言われたからって、それを納得はしても今までの思考回路を変えることは難しい。
「それでね、私たちはそのジオラの観察眼を見込んで、ジオラをパーティーに勧誘するわ」
「そう。それがパーティーの総意?」
「……これからそうするつもりよ」
やっぱり、そうだよね。ビリアージュが勝手に私をパーティーに加入させることはできない。他のメンバーの同意が必要だ。ビリアージュのためとはいえ私はカエデを傷つけた。ケルフも私のことを弱いと言っていたし、ユーリンにも良い印象は抱かれてないし……。
「無理だよ」
「なぜ?」
私はもう、冒険者なんかやるべきではない。万年レベル1で、ケルフの言う通り弱い。感情のままに動いたって、すべてが上手くいくわけじゃない。論理的に考えるからこそ上手くいくこともある。それが今の状況だ。私がパーティーに入るかどうかでひと悶着起こし仲が決裂してしまうよりは、素直に引いて緩やかな関係を保った方が良いのだ。
そう説明した。万年レベル1という言葉も使った。どうせ烈火の如くが広めているのだから、知られて困ることもない。
「――私がジオラをパーティーに入れたいのはね、今後も同じようなことが起こると考えたからよ。同じ集団で長い間生活していると、どんなに仲が良くても諍いが生まれる。どこかで歯車がかみ合わなくなり、やがて崩壊してしまう。ジオラがいなかったら『烈火の如く』はもっと早期に内側から腐敗し、解散していたのだと思うの。そうでしょう?」
「……そうかもね」
何を言おうとしているのか良く分からない。
「つまり、私がジオラに行ってほしい役割っていうのは、そういうことなのよ。『烈火の如く』のときと同じような立ち回り。戦闘の補佐、依頼の選定、人間関係の構築、会計管理……それが、『烈火の如く』がいままで存続できていた秘訣なのよね」
「……どうだか」
また同じことをして、同じように追放されて。そういう未来しか思い浮かばない。それくらいのこと、ビリアージュにもできように。
「なんでそこまで私をパーティーに入れたいの?」
「あら? 入りたいと思っているのはジオラ自身でしょう?」
「――それは、そうだけど……。入りたいという気持ちと、入れるかということは別の話でしょう」
自分の立場はわきまえているつもりだ。そう言うと、ジオラは小さく息を吐いた。
「気持ちを大事にしようって話し合ったばっかりじゃない。私はビリアージュをこのパーティーに入れたくなった。それだけの話よ」
なぜビリアージュは、これまでの思考回路をそんなに急に変えられるのだ。私には無理だ。ついこないだ、パーティーから追放されたばかりなのだ。
「私は怖いの。また同じような役割でパーティーに関わって、同じように追放されて。そんなのはもう嫌」
「……そう。まあ、はやめに結論を出しなさい。私たちパーティーだって、長い間あなたを待てるわけはないわ」
ビリアージュはそう言って話を切り上げた。結論は出ている。私は冒険者をやめる。万年レベル1で戦えない私が、冒険者なんて続けられるわけがないから。




