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1話 縄に出逢う

翠という縄サロンに集う人々のシリーズ2作目です。

 古野谷深雪このやみゆき27歳、普通のなんでもないOLをしている。そんな普通の私は、今普通でない趣味をしている。それは緊縛という。縄で人を縛って楽しんだり、気持ちよくなったりする、そんな変態的な行為だ。今私はこれにハマってしまっている。

 きっかけは、半年前のこんな出来事からでした。

 

 学生時代からなんとなく続いていた彼がよそよそしくなって、別れ話を切り出された日。

 ヤケ酒を飲みながら、なんとなくみていたSNSのタイムラインに流れてきた、1枚の写真がきっかけだった。

 年上のとても色気のあるお姉さんが、縄で縛られていて、その目がとてもイヤらしくて、素敵に見えた。

 

 その書き込みをしていた抄妓しょうこという人のプロフで、その人が縄サロン『みどり』というお店の店長をしてるのを知って、メッセージを送ってみた。気になった写真の話をしたら、モデルは抄妓しょうこさんで、縛って写真を撮った緊縛師さんの来る日があるから、遊びにおいでと誘われてしまった。

 

 全く分からない世界に、逡巡したものの、ヤケになっていた私は、行く約束をしてしまっていた。

 

 約束の日、飲み屋さんや、ネイルサロンなどの入った雑居ビルの前で、地図を見ていた。住所を見る限りココよね?ともう一度確認し、大きく深呼吸すると、思い切ってビルの中に入り、エレベータに乗った。

 

 みどりとだけ書いた小さな札があるだけの、部屋のインターホンを押す。

 

「はぁい」という女性の声がして、がチャッとドアが開き、そこにあの写真の女性、抄妓しょうこさんが立っていた。


「いらっしゃい、ユキさんね。さぁ、入ってちょうだい。暑かったでしょ」


 カウンターキッチンとリビング、奥に広い洋間、トイレとシャワールーム。

 まるでお家に遊びに来たみたいで、お店感はない。

 

 お店としては入場料として、男性と女性の金額が決まっていて、ソフトドリンクは飲み放題。アルコールは別料金との事、だけど縄とかしたい場合は先に遊んでから飲むように言われた。飲酒運転みたいなもので、飲んでから縛ったり縛られたりするのは危ない事らしい。

 それから、お店で使う名前、ニックネームみたいなものを決めてと言われたが、考えるのも面倒なのでSNSで使ってるユキでいくことにした。

 

 私はお茶をもらって、奥の洋間に抄妓しょうこさんと一緒に入った。

 

 奥に座ってる普通っぽいおじさんのところに連れて行かれて紹介された。

 

「こちらが、あの写真の縛りと撮影をしてくれた、國村城くにむらじょう先生よ」


「あ、はじめまして、ユキといいます、」ととりあえず挨拶をする。

 

「あまりにも普通のおじさんでびっくりしたでしょ?でもこの人の魅力は外観じゃないから、縄を持たせたら、それはもう、凄いんだから・・・ね?城先生」と笑いながら抄妓しょうこさんが言う。

 

「こらこら、人をそんな変なふうに言わないんだよ」おっとり優しそうな顔で、城先生が笑いながら抄妓しょうこさんを嗜める。とても仲が良さそうだ、そういう関係なのかな?とも邪推してしまった。

 

「初めまして、一応緊縛師をさせてもらってます。國村城と言います。こちらのお店で月一回の縄の講習会と縄サロンを主催させてもらってます。あとはイベントなどのお手伝いをしたり、あと今日はお客さんとして遊びにきてます」と挨拶をしてくれた。

 

「今はまだ開店したばかりで、他のお客さんはいないけど、そのうち少しづつ増えてくると思う。もし縄を受けるなら、誰もいない今のうちがおすすめだけどどうする?」という話を抄妓しょうこさんがしてくれて、私は勇気を出して、先生にお願いすることにした。

 

「じゃ、じゃあ、今のうちに一度体験させてもらえますか?」

 

「いいわね、でもその格好だと縄の毛羽が服に着いちゃうわね、よかったら色んな衣装があるから着替えてみない?」と抄妓しょうこさんに勧められて、ここまできたら毒くらわば皿までと開き直って、衣装を見せてもらって・・・結局可愛い柄の浴衣をお借りすることにした。

 シャワールームの脱衣所で、着替えながら、そういえば花火大会のデートドタキャンされたから今年は浴衣着なかったな・・・と嫌なことを思い出しかけてると、抄妓しょうこさんが帯をきゅっと結んでくれて「可愛くなったわね」と言ってくれた。少し心が穏やかになった気がした。

 

 広い部屋に戻ると、先生が何か天井に吊るされている竹のところに縄をかけている。

 

「やぁ、夏らしくて、いいねぇ。じゃあこの縄の前あたりに座ってくれますか?」と先生が話しかけてくる。

 

 私は言われた通り、そこに正座して座る。

 

「楽な姿勢で座ってね、正座が慣れてて痺れない人ならそれでもいいけど、しんどいなら、足を崩してね」と言ってくださったので、ありがたく脚を崩して、座る。

 

「じゃ、始めるね。もしも、痛いとか痺れるとか、そんなことがあったら遠慮せずにすぐに言ってくださいね」という声がして、先生の手が私の肩にそっと置かれる。そのままスッと手が上腕にずれて、少しそこで止まる。何をしてるのだろう?と疑問に思ってると、そのまま腕をつたって、両手首をそれぞれの手で握られた。

 

 そのまま、絶妙な力加減で手を後ろに引かれる。手首を後ろで取られて両手を束ねられる。

 

「腕こうして辛くない?」と優しい先生の声に、「大丈夫です」と答えると、先生は、そのまま手首に縄をかけて結ばれて動けなくされてしまう。とはいえ、痛いほど締め付けられているわけでもなく、痛みは全然ない。

 そのまま左肩に縄が渡されて、身体の前に先生の右手がまわされて、縄を受け取りその縄が私の胸の上をスーッと巻いていく。

 知らない異性にこんな距離になることは日常生活ではありえない、だけど近くなりすぎないように先生が気を使って距離をとってくれているのが伝わってきて、嫌な気持ちは全くしなかった。

 

 そうして、どんどん私の上半身が縛られていったのだけど、縄が身体に沿わされていく感触がどんどん敏感に感じられるようになって、気持ちいいと感じてくる。

 さらに縄が増える度に、最初は緩やかに感じていた拘束感がじわじわと増してきて、動けなくされているという異常な状態を嫌でも認識させられる。なのに先生の持つ穏やかな雰囲気のせいなのか何なのか、不安感は感じない。ただ心地良さと、微かな、そう微かな快感を感じ始めていた。


 胸の前を飾るように張られた縄を、先生がグッと力を入れて引き絞る。その瞬間それまで緩やかに上半身に纏われた縄がギュッと一斉に絞り込まれる。それに「ああっ」と声が漏れた。それは自分が出したと信じられないくらい、色っぽい響きを帯びていて、その事に羞恥を感じた瞬間に、さらに身体に触れる縄が気持ちよく感じられるようになっていく。


 おかしい、自分の身体がおかしい、そう感じる。上半身を縛り終えると、先生の手が私の肩をだいて、そっと優しく身体を倒す。その触れられている感触すら、気持ち良いと感じてしまう。

 

 お腹に縄が巻かれて、そこから伸びた縄が今度は腰骨からお尻を締め付けるように回される。締め付けられる感触がたまらなく気持ち良い。そして、先生は私の足首に縄を巻くとぐっとその足首が太腿につくように膝を折りたたまれて、纏めるように縄をかけられた。締め付けられる感触がたまらなく気持ちいいと感じる。

 

 動けなくされた脚に巻かれている縄に、別の縄が結ばれて、先程竹にぶら下がってた縄についてた金具に繋がれて、グッと引かれてると私の下半身が宙に浮かんでいく。負荷が脚やつながれた腰やお尻にかかっていくのがわかる。キツイと感じると同時に、それが気持ち良いとなぜか感じた。

 

「あ・・・ああ・・・あん・・・んんん」恥ずかしい声が私の口から漏れている。

 胸も性器も過去に恋人から、また自ら自慰で気持ちよくなる為の場所、そう思ってた所に一才触れられてもいない。

 なのに私はこんなにハシタナイ声をあげている。先生の膝に支えられ上半身を持ち上げられ、さらに先生の手が首にかかり、すっと首の血管が軽く圧迫されて、苦しいと一瞬思った瞬間、すぐに解放される。その瞬間、私は軽く逝ってしまっていた。

 

 そのまま、吊り上げられた脚もおろされて、縄が少しづつ解かれていく。その開放感と、解く時に身体に擦れる縄の感触がたまらなく気持ちいい。

 全部の縄が解き終わった時、私の身体は緩やかな快感でいっぱいで、殆ど周りの事も理解できず、先生の膝にそのまま膝枕されていて、優しく頭を撫でられていた。

 

 心地良さと、穏やかな気持ちに少しずつ、意識がはっきりしてきて、自分が先生に甘えるように抱きついているのに気づいた。慌てて身体をお越して、「御免なさい」と謝ると、とても優しい声で先生が問いかけて来た。

 

「楽しかった?私はとても楽しかったよ。貴女は、どうだった?」と。

 

「とても、気持ちよくて、楽しかったです」恥ずかしいけど、言わなきゃと思って言葉を必死に絞り出した。


 私はその日から完全に縛られる事にハマってしまった。



完結まで毎日0時ちょうどに更新します。

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