魔王城での出会い
「それでは、私は国に帰るとするよ。」
アーノルドは、彼の国アデレーへ帰るため、ドラゴンのテディーに乗る。
しかし、テディーは動き出そうとはせず、目を瞑って寝たふりをし始めた。
「あれ?テディー、アデレーへ帰るよ!」
アーノルドの声は聞こえているはずなのに、テディーは全く反応しない。
アーノルドは、テディーの背中から降り、テディーの顔を覗き込み話す。
「もしかしてテディー、魔界が気に入って帰りたくないのかい?」
テディーは、こくりと頷く。
「ちょっと!貴方は城を護るドラゴンなのに帰らないとダメでしょう。」
レベッカにそう言われ、テディーは「くうん」と悲しそうに鳴く。
「うーん……城を護るドラゴンが居ないのは困るけど、テディーの気持ちも尊重したいしな……よし、こうしよう!」
しばらく悩ましげに考え込んでいたアーノルドだが、何か思いついたようだ。
「テディーは、レベッカ嬢の護衛として魔界へ残った事にしよう。城を護るドラゴンは、コルトレーン公爵家のレッド・ドラゴン達の中から新たに選出できないかな?」
レベッカは、目を潤ませてじっとレベッカの方を見るテディーと目が合ってしまった。
「……わかったわ。私からもお父様に新たに城を守るドラゴンを選出するよう頼んでみます。」
レベッカは、その場でバッグから紙とペンを取り出し、サラサラとコルトレーン公爵宛に手紙を書く。
アーノルドに書き終えた手紙を渡したところで、ロック宰相が、ドラゴンに乗って帰れないので代わりにと馬車を用意してくれた。
馬車は黒色のキャビンで、金の装飾がとても美しく豪華だった。馬車を引くのは、黒色の毛並みの良い美しいペガサス達。レベッカは、ドラゴンではなく馬車に乗りたかったと思った。
アーノルドを乗せた馬車が魔界の空の彼方へ消えて行くの見守り、レベッカはロック宰相と共に魔王城へ向かう事にした。
「さあ、レベッカ嬢。ヴィヴィアンにお乗りください。」
「貴方はヴィヴィアンと言うのね。」
レベッカが、黒いドラゴンに声をかけると、ドラゴンはとても優雅な動作で頷く。
少しがさつな印象のテディーとは違うなと思ってしまう。
ヴィヴィアンの飛行は、程よい速さで快適だった。
その後ろをついて来るテディーは、元気が有り余っているのか急上昇してみたり、急降下してみたりと落ち着かない。
ドラゴンにもいろんな性格の者がいるのねとレベッカは思った。
レベッカは、ヴィヴィアンの丁寧な飛行のおかげでドラゴン酔いをする事なく、魔王城に到着した。
「さすが魔王城、とても迫力があるわ。」
レベッカは、自国アデレーの城もなかなか素敵だと思っていたが、魔王城と比べてはいけないと思った。
豪華さや敷地の広大さなど、いろいろとレベルが違う。
魔王城の従者達は、レベッカとロック宰相が通れば、恭しく礼をする。
魔界、悪くないじゃないとレベッカは上機嫌だった。
「ダミアン王子と魔王様、レベッカ嬢のご到着です。」
レベッカは、家族以外の者を自分よりも美しいと思う事などなかった。しかし、今、目の前に居る青年はとても美しく目を見張った。
ダミアンは、黒色の艶やかな髪に、吸い込まれそうなほど深い黒色の瞳をしていた。そして、その肌は白く陶器のように滑らかだ。彼が瞬けば、長いまつ毛が揺れる。
レベッカが彼に目を奪われているように、ダミアンもレベッカの美しさに目を奪われていた。