旅立ちとドラゴン
レベッカが魔界へ旅立つ日に着たドレスは、茶色の生地がベースで色は地味かもしれないが、装飾にベージュのレースをふんだんに使用した豪華な物だった。
ドレスに合わせ、つばの大きな貴婦人用の帽子も被っていた。
レベッカはもちろん、コルトレーン公爵家の者達は、そわそわとしてアーノルドの到着を待っていた。彼が、レベッカを魔界まで連れて行く予定だからだ。
「ゴオーン!」
とてつもなく大きな鳴き声が聞こえたと思ったら、ドンッと勢い良い音と砂埃を立てて、青色の鱗をしたドラゴンがコルトレーン公爵邸の前に降り立った。
ドラゴンの上から手を振るのは、アーノルドだった。
よく見ると、ドラゴンに取り付けられている座席は前後に二人掛けだった。
「まさか、ドラゴンに乗って魔界へ行くの?」
「そうだよ。どうせなら一番、楽しい方法で魔界へ行こうと思って。」
アーノルドは、ドラゴンを優しく撫でながら言う。
レベッカは、アーノルドがドラゴン愛好家として有名だった事を思い出した。そして、コルトレーン公爵家の男性陣もドラゴン好きだった。
「彼は王城を護っているドラゴンですよね?とても美しいドラゴンですね。」
うっとりとした様子でドラゴンを見つめ話すリーガンに、コルトレーン公爵は深く頷く。
「彼の名はテディーと言ってね、本当に美しいドラゴンだろう?久しぶりだね、テディー!」
レベッカは、父が公爵家を継ぐ前はドラゴンの研究を行っていたと言う話を思い出した。
「私、ドラゴンに乗るのは始めてなのだけど大丈夫かしら?」
レベッカは、アーノルドに手を引っ張ってもらい何とかドラゴンの背に付けられた椅子に座る。
「ドラゴンに乗った事ないのかい?ドラゴンは君の家の紋章にも描かれてるのに。」
確かにコルトレーン公爵家の紋章には、赤いドラゴンが描かれている。そのドラゴンは実在し、レッド・ドラゴンと呼ばれ、コルトレーン公爵家に生まれた男性達が代々世話していた。
レベッカ自身は、ドラゴンを遠目で見る事はあっても、ドラゴンと関わった事などなかった。
レベッカの話を聞き、アーノルドはもったいないと嘆く。
「コルトレーン公爵家に生まれてドラゴンと関わらないのはもったいないよ。君達、コルトレーン家の者達には、ドラゴンに好かれる血が流れている。ドラゴン愛好家としては、羨ましい限りだよ。」
「ドラゴンに好かれる血?初めて聞いたわ。」
「これは常識なのだが、ドラゴンは初めて会った人物を背中に乗せたりしない。けれども、君は背中に乗れているだろう?ドラゴン達にとって君が特別な存在だからだよ。」
背中に乗せてもらえる事が特別な事だと知り、レベッカは感謝の気持ちを込めてテディーの鱗を撫でてみる。
残念ながらレベッカからは見えないが、テディーは嬉しそうに目を細める。
「それでは、出発しようか!」
アーノルドの声に応じ、テディーはその立派な羽を大きく羽ばたかせる。
最初は、ゆっくりと浮上していっていたので、レベッカは家族に向かって手を振ったりして別れを惜しんでいた。
しかし、突然凄いスピードで飛び始めて、レベッカは悲鳴を上げる。
「キャー!」
せっかく被ってきた帽子は風で飛ばされてしまった。魔界に到着する頃には、レベッカはドラゴン酔いでぐったりとしていた。