カポネ公爵との誓約
「ティーナ!」
慌てて走って来たのだろうか、いつも飄々としているカポネ公爵が、額に汗を流している。
「可哀想にティーナ。今、助けてあげるからね。」
カポネ公爵は、痺れ薬により体を震わせているティーナを抱き寄せ、額に手をかざす。
次第にティーナの震えは治り、ティーナは疲れた顔で目を閉じる。
痺れが治った様子を見守り、カポネ公爵はほっと息を吐く。
「どうかティーナを責めないでくれ。ティーナは、私に協力しただけだ。」
「違うわ、お兄様。私が勝手にした事よ。お兄様とレベッカ嬢が結ばれるように……」
「ちょっと待って!」
アーノルドは、ティーナとカポネ公爵がお互いを庇い合って話すのを遮り、疑問を口にする。
「ティーナ嬢が私を洗脳した件とカポネ公爵とレベッカ嬢の件がどう関わってくるのかが分からないのだが、どういう事だろう?」
ティーナは、困った顔をしてレベッカの方を見る。
何故か、ティーナとカポネ公爵は、レベッカがアーノルドの事を好きだという事を知っているようだ。
レベッカは、絶対に言うなという念を込めて、ティーナを睨む。
カポネ公爵は、ティーナと違って動揺した様子などはなく落ち着いた様子で話す。
「レベッカ嬢には、私達カポネ公爵家の洗脳は効かないようだから、アーノルド王子を洗脳して人質にして脅そうと思ったのさ。」
「まあ、なんで卑劣なの!」
話を聞いていたザーラは、嫌悪感を露わにした顔をしてカポネ公爵を睨む。
「私は欲しいものを手に入れるには、手段を選ばないよ。特に恋愛に関してはね。」
「それは同感だね。」
アーノルドが、腕を組み頷く。レベッカとティーナは、驚いてアーノルドの顔を見る。
「……意外ですわ。アーノルド王子がそのような考えだなんて。」
「手段を選んで逃すぐらいなら、力づくで奪うのもありだと思うよ。」
ザーラの言葉に、アーノルドは穏やかな口調で返したのだが、ザーラはなぜか畏怖の念を抱いた。
レベッカは、アーノルドが本気で誰かを手に入れたいと思ったら、どのような行動をするのだろうかと考えた。
きっと、外堀を埋めていき、相手が逃げられないようにする事だろう。
もしかして、私が他の貴族令嬢とお茶会をしていた時にやって来て告白したのは、私が断りにくいと思ったから?
そうだとしたら、あの時のアーノルドは、レベッカを逃したくないと思っていたのではないだろうか。
アーノルドは、カポネ公爵兄妹の処遇をどうするか、マルクスやハロルドと相談し始めた。
レベッカは、あの時のアーノルドの気持ちを聞きたかった。コルトレーン公爵令嬢だからではなく、レベッカだから告白しようと思ってくれたのかと。
「おいおい、それは優しすぎやしないか。」
「いや、カポネ公爵家が味方についてくれる利点は多い。」
ハロルドは不満そうだが、マルクスもアーノルドの意見に賛同したようだ。
「カポネ公爵とティーナ嬢、今日の事は貴方達、カポネ公爵家が戦時下にアデレー国に加勢する事を約束してくれるなら忘れましょう。」
レベッカは、アーノルドの戦時下という言葉に引っかかった。
万が一の時のためという事も考えられるのだが、アーノルドから近々戦争があると言われている気がした。
「約束しよう。私達、カポネ公爵家は戦時下、アデレー国に加勢する。」
兄の言葉と共に、ティーナも真剣な顔をして頷いている。カポネ公爵兄妹も戦争が起こるかもしれないと感じているのだろうか。
レベッカは、自覚がなかったが不安げな顔をしてアーノルドを見つめていた。
アーノルドは、そんなレベッカを安心させるように微笑んだ。