アナベルとレベッカ
レベッカは、ヴィンセント公爵邸で開かれる舞踏会へカポネ公爵兄妹が参加するという事をダミアンに相談する事にした。
「ハロルド殿が言うように、カポネ公爵兄妹が何か企んでいる可能性は高いと思います。」
「私、何か力になれるかもしれないと思って、ヴィンセント公爵邸の舞踏会に参加しようと思うの。」
「それで、レベッカ嬢のエスコートは誰がするのですか?」
突っ込まれるかもしれないと予想はしていたが、実際に突っ込まれると苦笑してしまう。
「ハロルド様が気を利かせて、アーノルド王子に私のエスコートを頼んだそうよ。」
「アーノルド王子ですか……それなら安心だ。」
ダミアンは、ほっとした表情をする。レベッカが、アーノルドを振った過去があっての事だろう。
「レベッカ様、またアデレーに行くの?」
レベッカがヴィンセント公爵邸の舞踏会へ参加するという話を聞き、アナベルはレベッカのドレスにしがみつく。
レベッカは、優しくアナベルを抱きしめながら話す。
「アデレー城の舞踏会に参加した時もすぐに戻って来たでしょう?またすぐに魔界に戻って来ますよ。」
「レベッカ様、アデレーに帰ったらご実家にも行くのでしょう?ご実家には、レベッカ様のご家族がいるから魔界に帰りたくなくなるのではと思って……」
「確かに我が家は居心地が良いですし、家族と共に過ごしたいと思う事もあります。でも、私は魔界で過ごす時もとても楽しいですよ。アナベル姫やダミアン王子、魔王様が優しくしてくださるおかげです。」
レベッカの話を聞き、アナベルはほっとした表情をして笑う。
「レベッカ様が魔界で過ごす時を楽しいと感じてくれていて嬉しいです!」
しかし、アナベルが次に続けた言葉に、レベッカは返事に困った。
「私、ダミアンお兄様とレベッカ様が結婚してくれたらなと思っています。そしたら、私とレベッカ様は姉妹になれます。」
「……アナベル姫とはもう姉妹のようなものではないですか!魔界で二人目の妹に出会えて私は幸せ者だわ。」
レベッカは、ダミアンとの結婚というところには一切触れずに何とか返事をした。
アナベルは、レベッカに二人目の妹だと言われた事が嬉しくて仕方がない様子だ。
「レベッカ様、大好きです!」
レベッカは、再び自分に抱きついてきたアナベルを愛おしく思う。
リーガンやロレーナと同じくアナベルもレベッカにとってとても大切な存在になっていた。
レベッカは、ヴィンセント公爵邸の舞踏会へ向かう当日になっても、着ていくドレスを決める事ができていなかった。
アーノルドは、今までレベッカが舞踏会で着ていたような派手なドレスは好まなそうだ。
しかし、ドレスが地味過ぎては一国の王子のパートナーとして相応しくないように思う。
「この赤色のドレスは金の刺繍が派手すぎるわ……」
「この黒のドレスは暗い印象になるし……困ったわ。」
「レベッカ様、大丈夫?」
アナベルが、部屋に入って来て悩むレベッカに声をかける。
「アナベル姫、ちょっとドレス選びに迷っていたのです。」
「私は、このドレスが素敵だと思うわ!」
そう言い、アナベルが指さしたのは、ワインレッドの生地に豪華な刺繍が施されたドレスだ。
レベッカは、アナベルは大好きな色である紫のドレスを選ぶと思っていたので、意外だった。
「アナベル姫、ありがとうございます。このドレスは、豪華だけど華美になり過ぎず良い感じだわ。アナベル姫はとてもセンスが良いのですね。」
アナベルは、レベッカに褒められて照れた様子で微笑む。
アナベルのおかげでドレスが決まったレベッカは、ヴィンセント公爵邸に向け出発した。