馬車の中での会話
レベッカは、舞踏会があると毎回、ドレス選びで大騒ぎしていた。
それは、その舞踏会で自分が一番輝いていなければいけないと思っていたからだ。
そのため、レベッカの選ぶドレスは華やかな物が多かった。
今回、レベッカが選んだのは、水色で上質なサテン生地でできている。しかし、そのデザインは華美ではなくシンプルだった。
華美な物よりもシンプルで品の良い物を選んだのは、レベッカが舞踏会で目立つ事に重きを置かなくなかったからだ。
今回選んだドレスは、シンプルだからこそレベッカの美しさを最大限に引き出しているように見えた。
ドレスを着て現れたレベッカを見て、ダミアンはうっとりと見惚れた。
「レベッカ嬢、とてもドレスが似合っていますね。いつも貴女は美しいが、さらに美しく感じます。」
「ありがとうございます。」
レベッカとダミアンは、馬車に乗り込んでカポネへ出発する。
黒いペガサスが羽ばたき、馬車がふわりと浮く。
「やっぱりペガサスの馬車は快適だわ。」
「アデレー国にはペガサスの馬車はないのですか?」
「人間界では、ペガサスは高貴な生き物とされていて、帝国で大切に保護されているわ。」
レベッカは、帝国へ行った時に白いペガサスを見た事があった。
今、馬車を引いてくれている黒いペガサスも美しいが、白いペガサスは美しさの中に神聖さを感じた。
「黒いペガサスの方が筋肉質で逞しく感じるのは、馬車を引いて仕事をしているからかしら?」
「魔界のペガサスは、魔獣と戦ったり、ドラゴンと遊んだりもしますからね。ペガサスも鍛えてないと魔界では生きていけません。」
「ペガサスとドラゴンって一緒に遊ぶほど仲が良いの?魔界のペガサスは、人間界のペガサスとは全然違うのね。」
そもそも、人間界ではドラゴンもペガサスも貴重な生き物なので、それぞれ別々に保護されていて交わる事がない。
しかし、魔界ではドラゴンやペガサスも野生が基本だ。
魔王城で働くドラゴンのヴィヴィアンや馬車を引く黒いペガサスなどは、ロック宰相や魔王と契約をしている。
仕事をしたら、報酬として魔力を分けて貰えるという仕組みだ。
そのため、仕事以外の時は、魔界にある自分達のテリトリーで自由に過ごしている。
「それでは、ヴィヴィアンも野生なの?」
「そうですよ。今のヴィヴィアンは、テディーとの子を身籠っているので魔王城で暮らしていますが、別の棲み家があります。」
魔王城の者達がドラゴンの求愛行動を見た事がなかった理由が分かった。プライベートは別々に過ごしているのだから、求愛行動を見る機会がなくて当然だ。
ドラゴンやペガサスなど高貴な生き物の棲み家を知るのは、契約した者だけだ。
レベッカは、よくヴィヴィアンを仕事中以外でも魔王城で見かけた。
それは、テディーが魔王城で過ごしていたので、彼に会いに来ていたのだと気づく。
ロック宰相はヴィヴィアンの行動から、彼女がテディーに好意を寄せている事は知っていただろう。だから、二匹が結ばれてとても喜んでいたのだ。
「話している間に、カポネに到着しましたよ。」
レベッカは、ダミアンに言われて馬車の窓から外を見る。
日が暮れてもカポネの街は活気溢れる様子で、明かりが灯っていて眩しいほどだった。
それだけで、カポネがとても栄えている事が分かる。
カポネ公爵邸の前に到着すれば、レベッカは溜息を吐く。
カポネ公爵邸が、一国の城並みの規模を誇っていたからだ。