レベッカを気にかけるアーノルド
アーノルドはロレーナと踊った後、何人かの令嬢と踊った。
もう、自分の役割は果たしただろうと考えたアーノルドは、踊る人々の輪から抜け出して友人達の元へ行く。
「お疲れ様です。アーノルド王子。」
誰が聞いているか分からないため、マルクスは二人きりの時とは違い、アーノルドを王子として敬った話し方をするよう心がける。
しかし、そのような気遣いができない友人が一人いる。
「アーノルド王子!ロレーナ嬢とのダンス最高だったぜ!」
王子であるアーノルドに対して気さく過ぎる態度、肩にがっちり腕まで回してしまっているのは、ヴィンセント公爵家の嫡男、ハロルドだ。
アーノルドとハロルドが友人関係にあるのが周知の事実だから許されているが、もう少し気をつけて欲しいとマルクスは常々思っていた。
身分の差があるのだから、人前でも気さくな態度でいて良いのは、アーノルドだけだ。
「ハロルド、ありがとう。ところで、レベッカ嬢は見なかった?」
「あー、壁の花になるのが嫌だったのか外に出てったぞ。」
喋り方も品がない、本当に公爵家の嫡男なのかとマルクスに思われている事は露知らず、ハロルドは話を続ける。
「レベッカ嬢は、今まで誰からも誘われない何てありえなかっただろう?かなり自尊心が傷ついたかもな。」
「でも、彼女もその覚悟で来てるでしょう。エスコート役なしで来るぐらいですよ。ロレーナ嬢のデビュタント姿を見る事が目的で、目的を達成したから帰られた……」
「いや、まだ外にいるぞ。」
マルクスが喋っているのを遮って、ハロルドは窓を指差す。
しかし、アーノルドとマルクスにはレベッカの姿は見えない。
「……見えないですけど、ハロルド殿には見えているのでしょうね。」
「そのハロルド殿ってやめてくれよ。ハロルドで良いだろ。」
「貴方はもっと人前では身分の差を気にしてください!」
マルクスとハロルドの喧嘩が勃発しそうになっているのを片手を挙げる事だけで制して、アーノルドは窓の方を見ながら話す。
「ハロルド、レベッカ嬢は一人で外にいるのかい?」
「おう、一人だぞ。」
「そうか……ちょっと外に行ってくるよ。」
アーノルドは、レベッカを探しにハロルドが指差した場所を目印に向かう。
その様子を見送った二人は、窓の側まで移動する。
「私はハロルド殿のように視力が良くないので、二人が合流したら様子を教えてください。」
「それは別に良いけどさ、アーノルド王子はまだレベッカ嬢が好きなのか?」
「恋愛感情かは分かりませんが、とても気にかけている事は確かですね。」
ハロルドは、大切な友人であるアーノルドを侮辱したレベッカを良く思っていなかったので、難しい顔をして腕を組む。
マルクスもレベッカと直接会って話す前は、ハロルドと同様な気持ちだった。
マルクスは、ハロルドとレベッカが直接話す機会を作るべきかもしれないと思った。何となく、ハロルドがレベッカの良い味方になるような気がしたからだ。