主役はロレーナ
レベッカが乗った馬車は、ゆっくりと下降していきアデレー城の城門前に着いた。
空からやって来た馬車はとても目立っており、多くの注目を集めていた。
その馬車から降り立ったのが、絶世の美女であるレベッカのため、多くの者が目を奪われた。
しかし、レベッカをエスコートする者は見られず、一人ですたすたと歩いて行くので、人々は口々に噂する。
「レベッカ嬢だわ。魔界の大使になったって話だったけど戻って来たのかしら?」
「エスコートする者がいないのによく来れたな。恥ずかしくないのか?」
舞踏会では、女性は男性にエスコートしてもらう事が常識のため、レベッカは非常識な事をしている。彼女がコルトレーン公爵家でなければ、城に入れてもらえなかったかもしれない。
「やっぱりダミアン王子にエスコートしてもらえば良かったかしら……」
自分に向けられる痛い視線に、後悔が押し寄せるレベッカだったが、それを表に出す事はなく堂々と歩いて行く。
舞踏会会場には、既に多くの貴族や他国の王族も集まっていた。
その者達が、レベッカが会場に入って来れば一斉にひそひそと彼女の噂話をする。
レベッカは、自分の噂話をする者一人一人を平手打ちして行きたいぐらいに腹が立っていたが、ぐっと堪えた。
「レベッカ!一人で来たのか?」
ロレーナの晴れ姿を見に来たコルトレーン公爵夫婦が、レベッカの姿を見つけてやって来た。
「お父様、お母様!」
さすがに心細い思いをしていたレベッカは、両親の登場に歓喜する。
「レベッカ、エスコート役がいないのならお父様に頼めば良かったのに。」
「一人で惨めな思いをする必要などないじゃないか。」
やはりコルトレーン公爵夫婦も、レベッカがエスコート無しで舞踏会へ参加した事をよく思っていないようだった。
「でも、お父様が私をエスコートしたら、お母様をエスコートする者がいないわ。お母様もロレーナのデビュタント姿を見たかったでしょう?」
「レベッカ、娘の貴女に惨めな思いをさせるぐらいなら、私が一人で舞踏会に参加したわ。」
母の愛を嬉しく思いつつも、レベッカは首を振る。
「お母様、私がエスコート役がいないのは私の責任よ。それなのにお母様を一人で舞踏会に参加させるなんて……そんな親不孝はできないわ。」
レベッカの話を聞き、コルトレーン公爵夫婦は複雑な顔をする。レベッカが自分の置かれた状況を冷静に見て、向き合っている事に感心しつつも親として心配だった。
「それより、ロレーナとリーガンの姿をよく見られるように中央へ移動しましょう。」
レベッカとコルトレーン公爵夫婦は、ロレーナとエスコート役のリーガンがよく見える位置に移動する。
他にもデビュタントの貴族令嬢はいるが、ロレーナは身内の贔屓目無しでも一番輝いていた。
純白のドレスに身を包んだロレーナは、金色の美しい髪と大きな青い瞳が愛らしい。
他の令嬢のエスコート役をしている男性達が、ちらちらとロレーナの方を見ている。
「間違いなくロレーナが今夜の主役ね。」
皆の注目を集めるロレーナの様子を見て、レベッカは誇らしく思った。