アデレー国の舞踏会へ
レベッカは、魔王に妹のデビュタントを見るためアデレー国へ一時的に戻る事を伝えた。
その話を聞いたダミアンは、レベッカも舞踏会に参加するなら、エスコート役が必要なのではないかと聞いてきた。
「レベッカ嬢、もしよければ私にエスコート役をさせてもらえないでしょうか?」
レベッカは、ダミアンがエスコートしてくれたら、多くの令嬢達が羨ましがる事が想像ついた。それは、レベッカの自尊心を満たすだろう。
しかし、レベッカは首を振る。
「ありがとう、ダミアン王子。気持ちは嬉しいわ。でも、貴方が舞踏会に参加すれば、目立ちすぎるわ。今回の舞踏会の主役は、ロレーナでないといけないの。」
ダミアンの美しすぎる顔に、魔界の王子という話題性、デビュタントであるロレーナが霞んでしまう可能性が高い。
レベッカは、エスコート無しで舞踏会に参加する覚悟を決めた。
「そうですか……貴女と踊ってみたかったです。」
残念そうなダミアンに、レベッカは笑いかけながら言う。
「機会さえあれば、いつでも貴方と踊るわよ。」
レベッカの言葉に、ダミアンは花が咲いたような笑顔を見せる。
「本当ですか!では、今度カポネで開かれる舞踏会に一緒に行っていただけませんか?」
「魔界でも舞踏会があるのね!私で良ければ喜んで。」
舞踏会好きのレベッカは、目を輝かせ喜んだ。魔界の舞踏会では、自分が主役になれるかもしれないと思ったからだ。
レベッカは、舞踏会に参加するためのドレスを選んでいた。
普段のレベッカなら、豪華で目立つドレスを着ただろう。しかし、今回の主役はロレーナでないといけない。
目立たないドレスで、それでも地味すぎない物……レベッカは、深緑色の上品なドレスを選んだ。彼女のエメラルドグリーンの瞳と良く合っていた。
「レベッカ様、絶対に魔界に戻って来てくださいね!」
アデレーへ向けて出発しようとするレベッカを呼び止めたアナベルは、レベッカに抱きつきお願いしてくる。
「妹のデビュタント姿を見てくるだけです。すぐに戻りますよ。」
レベッカは、アナベルを抱きしめ返しながら優しく言う。
アナベルやダミアンに見送られながら、レベッカは黒色のペガサスが引く馬車に乗り込む。
せっかくのドレスが乱れないように、ドラゴンではなく馬車に乗りたいと言えば、ロック宰相は心良く馬車を貸してくれた。
馬車の座席は、程良い沈み心地で快適だった。
馬車の窓から見える魔界の空は、炎のように赤く美しい。馬車だと空を見て楽しむ余裕があるのも良い。
今度から魔界へ行き来するには、ドラゴンではなく馬車にしようと思うレベッカだった。
「アデレー城が見えてきたわ。」
魔界から出て、青空から夕焼け空に変わる頃にアデレー城が見えてきた。
レベッカは、唾をごくりと飲む。自分が緊張している事を感じた。
久しぶりのアデレー国の舞踏会で、レベッカは人々にどのような目を向けられるのか不安だった。