勇者襲来後の話
魔王城に帰ったレベッカは、手鏡を取り出し、アーノルドに勇者を倒した事を報告した。正当防衛だと思いつつも、他国の勇者を傷つけてしまったため、国際問題に発展するかと危惧したからだ。
「大丈夫だよ。サパール国の勇者は、君がアデレー国の人間だという事を知らないから、魔族だと思ったはずだよ。」
「魔族と思われたなら問題ないわね。」
「レベッカ嬢は、元々魔族並みに魔力が強かったけど、魔界で過ごすようになってから更に強くなったようだね。」
レベッカは、アーノルドに言われた事を喜んで良いのか分からなくて複雑な顔をする。
アーノルドは、レベッカの反応が良くないので首を傾げる。
「レベッカ嬢、何か引っ掛かる事があったのかい?」
「魔力が強いのは悪い事ではないわ。でも、敬遠する人も多いでしょう。」
アーノルドは、レベッカがそのような事を気にしているのが意外だった。彼女は人にどう思われようが気にしないものだと思っていた。
「魔界が意外と快適で忘れそうになるけど、私はアデレーの人間よ。ずっと魔界に居るわけではないわ。魔界では、魔力量が多い方がモテると聞いたけど、人間界はそうではないから……」
「ちょっと待って、レベッカ嬢。君は、人間界でモテなくなるから魔力が強くなり過ぎる事を気にしているのかい?」
「そうよ。」
それ以外に何があるのよと言いたげなレベッカに、アーノルドは苦笑する。
「レベッカ嬢、酷な事を言うようだが、君は人間界でモテる事は考えなくて良いと思うよ。君の悪い噂は、魔界の大使になっただけでは消えなかったよ。」
レベッカは、魔界での評判が上がったから人間界でも少しは評価されていると思ってしまっていた。
「貴方がもっと私が魔界で頑張っている事を発信してくれたら良いのに。」
「そうは言っても、君はまだアデレー国の利益になる事をしてないじゃないか。」
アーノルドに言われた事は正論で、レベッカは何も言い返せず唇を噛み締める。
他国の勇者を倒したって、魔界の利益にはなるが、アデレー国の利益にはならない。
アデレー国の利益になる事って何なのよ、一体何をすれば良いのよ。
レベッカは、頭を悩ませる。
アーノルドなら、何か良い案を思いついているかもしれないと思った。しかし、レベッカはプライドが邪魔をして聞く事はできなかった。
その日の魔王城での夕食の席は、勇者を倒したレベッカの話で盛り上がった。
魔王もロック宰相や兵士達から話を聞いていたようで、レベッカの活躍を高く評価してくれた。
レベッカは、魔王からの印象が良くなっただけでも大きな進歩よねと自分に言い聞かせた。
夕食の後、レベッカはダミアンに呼び止められた。
「レベッカ嬢、ちょっと良いですか?」
「何かしら?」
ダミアンはレベッカを連れて、バルコニーへ出た。夜空には星々が美しく瞬いており、レベッカはうっとりと夜空を見上げた。
しかし、ダミアンに手を引かれた事ににより、レベッカは夜空からダミアンへ目線を移す。
レベッカとしっかり目が合えば、ダミアンは自分の手でレベッカの手を包み込むようにして握る。
「レベッカ嬢、私とお付き合いしてくれませんか?」
レベッカは、ダミアンからの好意に気づいていたはずなのに、いざ告白されると戸惑った。
今まで多くの人に告白されてきたはずなのに、まるで初めて告白されたような気分だった。