勇者襲来
レベッカは、魔界の大使としての仕事に悩んでいた。今のところ交流があるのは、魔王家族とロック宰相夫婦だけだ。
魔王城の使用人達は、レベッカにも親切だが、立場の違いからなのか、一線を引かれていて親しく話すほどの仲にはなれずにいた。
そうして悩んでいる時に耳に入って来たのが、勇者襲来の話だ。
「サパール国が勇者を送って来ました。勇者一行は、なかなかの実力者揃いで、魔界から追い出すには至らず、兵士達は辟易しています。」
「そしたら、私がヴィヴィアンと様子を見に行こうか。」
ロック宰相は、勇者一行の様子を見に行こうとヴィヴィアンの背に乗る。レベッカは、その後を慌てて追った。
「待って、ロック宰相!私も勇者一行の様子を見てみたいわ。」
レベッカやアーノルドの国であるアデレーは、親魔界派の国のため勇者を派遣するなどあり得ない。
しかし、サパール国は反魔界派の国だ。なぜ、新魔界派と反魔界派の国があるのかというと、魔獣に対する考え方の違いだ。
人間界を襲う魔獣は、魔界から逃げ出したものだから天災のようなものと捉えているのが親魔界派の国々だ。
反魔界派の国々は、魔族が人間界を襲うために魔獣を送り込んでいると考えている。そのため、魔王を倒せば魔獣による被害が無くなると考えている。
そのため、反魔界派の国は勇者を任命し魔界へ送り込むのだ。
「一緒に見に行くのは構いません。しかし、なるべく手加減をするつもりですが、魔界を守るために人間を傷つける可能性もありますが大丈夫ですか?」
「知らない人がどうなろうと気にしないわ。」
真顔でなかなか酷い事を言って退けたレベッカを見て、ロック宰相は、この人は私
よりも魔族らしいのではと思った。
魔族の兵士達と勇者一行は、激しい戦いを繰り広げていた。勇者一行は、魔法に長けているようで火の玉を飛ばしたりしていた。
私もあの魔法、得意なのよねなどとレベッカが呑気に思っていたら、勇者一行がレベッカ達に気づいた。
勇者一行は、レベッカ達に目掛けて火の玉を一斉に飛ばして来た。
その一つが、ヴィヴィアンに当たってしまう。
「ギャオン!」
熱い!と叫んでいるのかヴィヴィアンが大きな声で鳴く。
ロック宰相は、勇者一行を懲らしめるために強めの魔法を一発放とうかと考えた。
しかし、ロック宰相が魔法を放つ前に、後ろからとても速い火の玉が飛んで行く。
その火の玉は威力も強かったらしく、命中した者は数メートル飛ばされていた。
飛ばされた者が着ていた鎧は、黒く焦げていた。鎧を着ていなければ、命は無かったかもしれない。
「レベッカ嬢、素晴らしい魔法の腕ですね!しかし、レベッカ嬢が人間を攻撃してしまって大丈夫ですかね?」
「先に攻撃して来たのは相手の方だから正当防衛よ。」
レベッカの火の玉を受けたのは勇者だったようで、勇者一行は戦意を喪失してしまった。
火の玉を喰らって気絶した勇者を担ぎ、勇者一行は白旗を挙げて撤退して行った。
その様子を見ていた魔族の兵士達は、レベッカを褒め称える。
「素晴らしい魔法でした!」
「レベッカ嬢のような方が魔界に来てくださり嬉しいです。」
レベッカは、まさかこんなに喜んでもらえるとは思わず戸惑う。
「兵士達は、人間ではなく魔族の味方をしてくれた事を嬉しく思っているのですよ。魔界の大使として来た者の多くは、勇者を傷つけるなと言う者がほとんどです。」
「人間だから、人間の味方をしてしまう者が多いのね。でも、私は人間だとか魔族だとか関係なく好きな方の味方をするわ。」
帰宅した兵士達は、仲間や家族にレベッカが勇者一行を撤退させた話をした。レベッカは、魔族達に一目置かれる存在となった。