アナベルからの贈り物
レベッカは、衣装選びに困っていた。ダミアンがどのような服装が好みか分からなかったからだ。
セクシー系か、清楚系か……昨日は大人っぽく見えるように落ち着いた色合いにしたけど、今日はどうしようか……
レベッカは結局、紫色の生地に白のレースがついたドレスを着た。アナベルの髪の色が思い浮かんだからだ。
レベッカがダイニングルームへ行くと、すでにダミアンとアナベルが待っていた。
「レベッカ様のドレス、素敵です。」
「レベッカ嬢は今日も美しいですね。」
「ありがとう。」
レベッカは、魔界は恐ろしいところだと聞いていたが全くその様な事はなく、良いところだと思った。
肉料理は、牛や豚など人間界で食べる物ではなく聞いた事ない魔獣の名前だったりするが、美味しいければレベッカは気にしない事にした。
しかし、レベッカは朝食の後、アナベルにより魔族と人間がなかなか分かり合えない一因を知る事となる。
「私、レベッカ様に贈り物があるの。」
朝食を終えた後、アナベルに呼び止められたレベッカは、彼女から丁寧にラッピングされた箱を受け取る。
「まあ、何かしら。」
アナベルに早く開けるように急かされながら、レベッカはリボンを解き箱の中身を見る。
箱の中にには、タランチュラが居だ。タランチュラは、陽気に「やあ!」と八本ある足の一本を挙げて見せた。
しかし、虫が苦手なレベッカは、タランチュラと目が合った瞬間、悲鳴を上げて気絶した。
「レベッカ嬢!」
気絶して倒れ行くレベッカをすんでのところで受け止めたダミアンは、レベッカを抱き上げて、彼女を部屋まで運ぶ。
レベッカの部屋へ着けば、ベッドに寝かせる。
アナベルは、泣きながらダミアンの後を追い、レベッカの部屋へ来て、彼女が目を覚ますのを待った。
「レベッカ様、ごめんなさい。」
レベッカが目覚めた時、目に入ったのはアナベルとダミアンの心配そうな顔だった。
アナベルは、その大きな瞳に涙を溜めて謝ってきた。
「タランチュラは、魔界では人気のペットなの。だから、レベッカ様にプレゼントしようと思ったのだけど、人間は虫が苦手な者が多いって、お兄様から聞いたわ。」
「良いのよ、アナベル姫。貴女は私を喜ばせたかったのよね。それなのに、私が悲鳴を上げて倒れたから驚いたでしょう?」
レベッカは、涙を流すアナベルの頭を優しく撫でる。
「私は虫が苦手だけど、アナベル姫が私のために贈り物を考えてくれた事はとても嬉しいわ。」
「レベッカ嬢、アナベルと一緒に考えて、貴女が気に入ってくれそうな贈り物を考え直そうと思います。やはり、贈り物は相手に喜んでもらえる物が一番ですから。」
「レベッカ様は、猫は好きかしら?」
「猫は大好きよ!」
アナベルの質問にレベッカは即答した。
「良かった!魔界にはケット・シーという妖精がいるの。猫の姿をしているから、レベッカ様も気に入ってくださるはずよ。」
その日の夜、アナベルとダミアンは改めてレベッカへの贈り物をした。
ケット・シーは、黒色の美しい毛並みと金色の瞳をしていて、レベッカは一目で気に入った。
「素敵な贈り物だわ!可愛い贈り物をありがとう。」
「レベッカ様が喜んでくれて良かったわ。」
レベッカの嬉しそうな笑顔を見て、アナベルとダミアンも笑顔になった。
その日の夜中、レベッカはアーノルドから貰った手鏡を持った。鏡に映るのは、レベッカの美しい顔だったのだが、それがゆらゆらと揺れ始めて、次第にアーノルドの顔へと変わっていく。
「うわっ!」
「人の顔を見るなりうわっ!とは何だい。」
「ちょっと驚いただけだから気にしないで。」
レベッカは、今日あった事などをアーノルドに報告した。
「タランチュラの贈り物か。魔界らしいね。レベッカ嬢は悲鳴を上げて倒れたそうだが、それで魔界が嫌になったりはしていないかい?」
「悪意があって、タランチュラを贈られたのなら嫌になったと思うわ。でも、アナベルは私を喜ばせたかっただけだから。それに、すぐに新しい素敵な贈り物を貰ったのよ。」
「そのケット・シーだね。もう君に懐いているね。」
アーノルドはレベッカの膝の上で丸くなっているケット・シーを見て微笑む。
魔族と人間では、好む物の違いによるすれ違いが生じて、仲が拗れたりする事があるのだが、レベッカは上手くそれを乗り越えたようだ。
アーノルドは、今回の事で、レベッカなら魔界で上手くやって行けると確信を持った。