魔王城での夕食
レベッカは、魔王城の自室で一休みした後、魔王達と夕食を共にするためダイニングルームへ向かった。
魔王城のダイニングルームは、どれだけ広いのかと思ったが、コルトレーン公爵邸と同じぐらいの広さだった。
「意外とダイニングルームはこぢんまりしているなと思ったでしょう?」
ロック宰相に聞かれ、レベッカは素直に頷く。
「魔王様は大勢で食事を取るのをあまり好まないのです。晩餐会を行う用の広いダイニングルームもありますが、ほとんど使っていないですね。」
「もしかして、魔王様は大人数を好まないのかしら?」
レベッカは、魔王城はとても広いのに使用人の数はそれほど多くない事を疑問に思っていた。
「そうですね。魔界は弱肉強食の世界です。魔王様を倒し、自分が天下を取ろうと考える者も居ます。晩餐会を開いた際に、毒を盛られた事もありました。大人数だと、不埒な事を企む者を見つけにくくなりますからね。」
「魔王様が、私と夕飯を共にしようと思ったのは私を信用してくれているから……ではないわよね。」
レベッカは、初対面だがダミアンとアナベルには好感を持たれていると確信が持てた。しかし、魔王はどうも自分の事を警戒しているように思えた。
アデレー国を代表して来た者として、無碍に扱う事ができないから夕飯に招いたという事だろうか。
「ダミアン様とアナベル様が、レベッカ嬢も夕飯に誘おうと魔王様に提案なさったのです。」
「なるほど……魔王様も子どもには甘いのね。」
実は魔王も、レベッカの父、コルトレーン公爵のように子煩悩だったりしてと思えば、少し親近感が湧く。
レベッカは、自分が魔界を去る時には、コルトレーン公爵と同じように魔王が好意的に話す人間の一人になりたいと思った。
「レベッカ嬢、お口に合いますか?」
「レベッカ様、このデザートはとても美味しいのでお薦めですよ。」
夕飯の席で、レベッカに積極的に話しかけてくるのはダミアンとアナベルだった。
その様子をロック宰相とその妻であるカリーナは、微笑ましそうに見守っていた。
魔王は黙々と食事をしていて、何を考えているのか分からない。しかし、レベッカは何となく、彼もダミアンとアナベルの様子を微笑ましく思っているような気がした。
「今日はとても楽しかったわ!レベッカ様にロック宰相とカリーナ様も居たから嬉しかったわ。」
「いつもは、魔王様とダミアン王子、アナベル姫の三人で食事をしているのかしら?」
「そうなの。でも、今日からレベッカ様が一緒だから嬉しいわ!」
「私も一緒に食事をして良いと魔王様が言ったのかしら?」
「私がお父様に頼むから大丈夫よ!」
自信満々に言うアナベルを見て、レベッカは自分と同様、父親に頼み事をして断れる事はほぼ無いと確信している事を感じた。魔王も娘を溺愛しているようだ。
レベッカもアナベル同様、初めての魔王城での夕食は楽しいものだった。
ロック宰相の妻、カリーナはセクシーな三つ目の美女だった。彼女の方がロック宰相に惚れて、アタックしまくったという話はなかなか興味深かった。
カリーナと出会えたのも、今日の夕食が楽しかった大きな理由の一つだった。
レベッカにとって、ロック宰相はかっこいいとは言えない見た目だが、知的なところや見た目に反してとても優しい性格なのは好感が持てた。
カリーナは、ロック宰相のそんなところを好きになったのかしら……レベッカは、ベッドに横になり考えていたら、いつの間にか眠りについていた。