2-9.大団円の先へ
新学期が始まって、すでに10月の中旬。
無事に、グラウィス様が文官試験に合格して、宰相府に入省することが決定した。それに合わせて、王籍離脱も無事に確定したという。
「それで、なんであなたも文官になってるの?」
「もうしばらく、グラウィスに付き合うためだ。意外と側近の体たらくの余波があったからな。俺自身の名誉回復をさせる」
「本音は?」
「文官にならないと王都にずっといる理由がない。お前が卒業するまで王都を離れる気はないからな」
領地が飛び地で二つともなると、そちらに出向く必要があるものね。婚姻するまでは、文官を理由に王都に留まり、そのままディオンの母が領地を見てくれることになったらしい。
「それで、楽な部署に入省するということね」
「宰相府ほど忙しいと会う時間が無くなるからな。グラウィスの方は、最も優秀であることが入り婿の条件だから、宰相府にしたようだが」
「どうかしら? あの方、ブラコンだから。本気で宰相を目指すんじゃない?」
「かもな。4月より前から研修として参加するから、学園の方に顔は出すことが減る。時期も時期だから、お前が生徒会長を継いでほしいとさ」
会いに来ないで、口頭のみで引継ぎするつもりらしい。
王族がいる場合、生徒会は王族が仕切る。グラウィス様がいる間は彼が生徒会長だし、来年の4月に第三王子のエンプラント様が入学するため、半年間、任せるということらしい。
「なんで、私?」
「2年は侯爵家が爵位トップだから、問題はないだろう。引継ぎしなくても仕事はわかっているだろう。人手については、俺も手伝いが厳しいからな。そっちの伝手で集めろ」
「女が会長すると煩そうだけど……まあいいわ。ソファラとイザーク様にお声がけして、半年だけだし、対応しておくわ」
「ああ」
ディオンの方も話が終わったので、帰宅の準備をしている。本当に忙しいらしい。
「すまんな。そのうち埋め合わせをする」
「いいわよ、別に。忙しいのって、グラウィス様の婚約の件でしょ?」
父もすでにグラウィス様が来ることを想定して動いていたので、家の方には問題はない。派閥とか周囲の問題でごたごたしているだけだった。
「ああ……派閥の動きがな。強硬派が瓦解したとはいえ、面倒そうでな……強硬派の動きがおかしい上に、ヴィグルー家が何をしたいかわからん」
「ああ……セリアの身が危険っていう話ね。コーミッシュが逃げ出した嫁の堕胎を狙って動いているから安全な場所に避難させたのが傍目には変な動きに見えるのよね」
強硬派の中でも、動きがめちゃくちゃになっている。神輿であるグラウィス様が王籍離脱する話も加わり、混乱が大きい。爵位が下の方の家は派閥を移っているだけに、上の動きが読めないというところかしらね。
「避難してるのか?」
「ええ。私の仲介でソファラの実家に避難してるわよ。コーミッシュが嫌がらせして、セリアが暴漢に狙われそうになったりしてたから」
「セリア嬢とソファラ嬢は強硬派の中でも仲悪い二家だろう」
「それはそうよ。だって、婚約者候補として、娘二人が争ったわけだし。仲良くなる要素なかったでしょ。でも、どちらも娘を大切にしている家だもの。ヴィグルーが頭を下げて、娘の安全のためにとお願いしたら、あっさり通ったそうよ。同じ娘を持つからこそかしらね。取りまとめたのは父だけど」
私の方で、セリアが手紙を送ってきて、危険を知ったので父に頼んだのだけどね。
父は私の婚約破棄後から、グラウィス様が婿になる可能性を考慮して、派閥の調整については父の方がちゃんと準備していたらしい。派閥違いなのに、敵対していたはずの二家をさっさりと纏める手腕は流石だった。
「報告をしろ、報告を」
「把握してないと思わなかったもの。まあ、ソファラの家と話をつけた方がいいわよ。あそこ、強硬派から実は鞍替えしているから」
「はぁ……そうだな。よく知ってるな」
「まあね」
ディオンに伝手も含めて、一通り知っていることを伝えておく。
中立派が動いて、強硬派は瓦解。穏健派も今は息をひそめているだけに動きが読みにくい。そもそも王家が動くときは静観しておいた方がいいという流れなのだけど……王家側から見ると読めないのね。
「わかった。伝えておく」
「それで、この手はなに?」
「一週間ぶりだからな、補給させてくれ」
「……一度だけなら」
手を握られ、顔を近づけてきたので確認をする。他に人がいない生徒会室なので、頷くと、軽くキスをされた。顔が赤くなるのを感じるが、ディオンはにっこりと部屋を出て行った。本当に忙しいらしい。
「ソファラとイザーク様にお願いしないと。アリィは……ちゃんと婚約が発表されてかしらね」
赤くなってしまった顔が戻ってから、私も生徒会の方の仕事をまとめた後、戸締りをして部屋を出る。
その後、父からため息とともに、グラウィス様からの婚約の申し出を受けたことを聞いた。ついでに、2か月後までは派閥調整で正式には発表しないらしい。
「すみません、お父様」
「いや。派閥の件で忙しいんだが、領地についてはアリーシャが十分に回してくれているからな」
どうやら、父が忙しい分はすべてアリィが対応していたらしい。
婚約者が決まらないので、やきもきしてるのかと思ったけど、アリィはアリィで仕事に打ち込んでいたらしい。
「お前たち二人は婚約破棄をしたのに、我が家だけが得をしている状態だからな。恨みを買っている可能性はあるからな。十分に気を付けなさい」
「はい。アリィには?」
「まだ伝えていない。本人からも自分で伝えたいと申し出がある」
まあ、あの方はそうでしょうね。
でも、忙しくて、私も会えていないのだけど発表するまでに話が出来るのかしらね。ディオンも「そこまで面倒見れるか」といってフォローしなそう。
「お前も協力はしなくていい」
「お父様、許可したのでは?」
「ああ」
許可をした割には、私が間に入って取り持つことはするなという。確かに、何かしなくてもあの二人はなんとかなるでしょうね。何年も互いに思い続けていたのだから、ちょっとやそっとで揺らぐことはありえない。
「何かありました?」
「いつか来ることだとわかっていても、可愛い娘が恋をして男に攫われるのは見ていてつらい……お前たちが好きな男に嫁ぎ、迎えられることが喜ばしいが」
「ふふっ、でも、幸せになりますよ。私も、アリィも」
「わかっているよ…………どうせ、両想いなのだから、そのうちまとまる」
「ええ。そうですね。では、私も見守ります」
なんだかんだ、最後はちゃんとまとまりそうだから、見守りましょうか。
ようやく、二人がくっつくのだから……。
「幸せになるんだぞ、二人とも」
「はい。お父様」
私とアリィが争うことはない。
望んだ未来が目の前にある。こんなに嬉しいことはないわね。
「ふふっ……まさか、私を好きになる人も、私が好きな人が出来るとも……私を好きな人がいるとは思ってなかったですけど」
「リオーネ。アリィに全てを譲る必要はなかったのだぞ?」
「お父様。私の望みです……まあ、アリィに全て譲ったんじゃなくて、私も望みを叶えた結果ですよ。ああ、でも……許してくれるなら、私が先に結婚したいです」
きっとアリィは絶対に喜んでくれる。
ちょっとした、意地悪。だって、その分だけ式が遅れて、複雑そうなグラウィス様が見れる。
ディオンも自慢げに喜ぶだろうし、それくらいはいいでしょう? 私の方がずっと傍にいたのに、一度だって、私を女として見てくれなかったのだから。最後のちょっとした意地悪くらいは許されるはず。
「好きだったのか?」
「だって、素敵な方だもの。自分を見てくれなくても、部下でも側にいたいくらいにはね。……昔のことだけど。今はディオンの方が好きです」
「条件に付けくわえよう。嫌なら、断る理由になる」
「まあ、お父様ったら。絶対に、飲むのがわかってるのに」
「……そうだな」
私とお父様の予想通り、あっさりと私とディオン様の結婚式が私の卒業後すぐに行うことが決まった。そして、アリィには建国祭で伝えることになったので、それまでは黙っておくことになった。
「少しいいか?」
「ディオン? どうかしたの?」
「建国祭のドレスとアクセサリーの相談をしたい」
「あら? 婚約者として贈ってくださると思っていたのに?」
珍しく少し困った顔での相談だったので、驚いた。
婚約者になってから初めてのドレスだから期待をしていたのだけど、相談してくるとは思わなかった。
「いや、ドレスについてはすでに手配をしている。元々作っていた店に頼んでいるので、サイズも把握しているそうだ」
「……よく把握してるわね」
「グラウィスが知っていたからな」
「そう。それで、何を相談したいの?」
「……アクセサリーだ。一式用意するつもりだったんだが、グラウィスが用意しているのを見て少々な」
「あの方は何を用意しているの?」
「アメトリンだな」
アメトリンね。アメジストとシトリン、二つの宝石が一緒になっている宝石だったわね。まあ、天然で探すとかなり希少性のある宝石よね。アリーシャが身に着けるのを見るのが楽しみね。
「悪くないわね。アメジストはグラウィス様の瞳よね。誠実、高貴という意味だし、シトリンは私やアリィの瞳で希望や繁栄よね。どちらの意味もあってるし、アメトリンは調和。二人を表すいいチョイスだと思うわ」
「あいつとしては、混じり合いたいという意味で贈ってそうだがな」
「まぁ……そういう意味もあるわけね。でも、いいんじゃない? 熱に浮かされてシトリンにならないでほしいけど」
「どういう意味だ?」
「アメジストを加熱し続けるとシトリンに変化するのよ。私としては二人にはお互いの持ち味をいかしたままのアメトリンでいてほしいところね。それで、グラウィス様がいい選択をしたのに、あなたは自分で見つけられないってことでいい?」
「俺が贈る宝石が劣るのは我慢ならん」
「そういう変なところで張り合うわよね」
「何か、希望の宝石はあるか? 希少なものでもいい」
つまり、もともと用意していたので作ると、私とアリィでは価値が変わることを気にしているのかしらね。それで、自分の色でなくてもいいから、好きな宝石をプレゼントしようとしているのかしら。
「そうね……何でもいいの?」
「ああ、二言はない」
「じゃあ、ヴァイオレットサファイアにしてくれる?」
「……あまり聞いたことはないが、どこで手に入るんだ?」
「父がもってるわよ。交渉したらいいわ」
以前、父におねだりをして購入した原石がある。まだ加工はしていないはずだから、急いで手配をしないといけないとは思うけどね。彼もグラウィスも伝手があるから間にあうでしょう。
そうでないとこのタイミングで相談するはずもないしね。
「義父上殿が?」
「ええ。私が嫁入り前に作ろうと思ってたのよ」
「あまり、覚えがないんだが……どんな宝石だ?」
「サファイアよ。青ではないから珍しいわよ? 紫よりも少し淡い色……まあ、見てみればわかるわよ」
その宝石の意味は、華麗なる変身。本当は彼が伯爵になり、王弟殿下の息子であることが発表されたとき、彼が身に着けるのに相応しいと思っていたのよね。
それにディオンの瞳の色と同じ宝石だから、私も身につけたいと思って用意していた。
「楽しみにしてるわね」
そう言って笑うと、頷きが返ってきて、すぐに部屋を出て行った。急いで手配するつもりだろう。少し早い気もするけど、わかる人はわかるでしょうしね。
そして、建国祭のために用意されたドレスとアクセサリーに少し驚く。使われている宝石が父のもっているはずのヴァイオレットサファイアではなかった。どうやら、自分で用意したらしい。
迎えに来たディオンと一緒に馬車に乗る。
「よく用意できたわね」
「ああ。義父上殿に産地を聞いて、すぐに手配した」
「見て、どう思った?」
「……俺の瞳の色に近いものが多いな」
「そうよ。あなたの色を身に着けるために調べたんだもの……まあ、グラウィス様みたいに混じり合いたいって考えはなかったわね」
ディオンも買い付けで、自分の瞳の色に近いと気付いたらしい。少し驚いたが、嬉しかったのだろう。宝石を身に着けた私を見て、嬉しそうににやにやしているディオンをじっと見る。
「嬉しそうね?」
「まあな。俺の色を纏うだけでも、嬉しいものだな」
「そう……満足?」
「ああ。お前は俺色に染まってくれるということだろう?」
「そこまで言ってないわよ! でも、アリィのように家を継ぐわけじゃないからね。あなたの色を身に着けるほうがいいと思ったのよ」
ドレスも私達の好みに合わせてくれているし、寄り添ってくれている。ディオンが身に着けている宝石はちゃんと私の瞳の色だしね。
「長かったわね。今夜で終わるわ」
「結婚式まで長いがな」
「私達のが先よ?」
「お前、あいつにはグラウィスの式のが先と言ってたくせにな」
「あら、グラウィス様が先が良かったの?」
「いや。よくやった。あいつにも自慢してやった」
どうやら、すでにマウントを取った後らしい。まあ、そもそもこちらのが先に婚約が決まっているし、私が嫁ぐ側だからね。早い方がいいのよね。アリィは家を継ぐため、しっかりとした式でないといけないから、準備にも時間かかるというのもある。
始まる前に一波乱が起きたけど、しっかりとグラウィス様がアリィを守っていた。ダンスが始まって、一通り終わった後にアリィ達は外へと出て行った。
私はディオンからドリンクを受け取り、一呼吸をおく。
「無事に終わったな」
「ええ……お疲れ様」
ダンスをしながら様子を窺っていたけど、ちゃんとうまくいったらしい。
「よかったな……これで、少しは俺のことを考えてくれ」
「わかってるわ…………ねぇ、これからもよろしくね?」
「ああ、よろしくな」
私もアリィも新しい婚約者と新たな一歩を踏み出した。みんなが幸せになるために、これからも頑張らないとね。




