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2-5.婚約破棄の場


 王家を交えた婚約破棄の話はすんなりと終わった。

 第二王子の婚約者を妊娠させたことで、誤魔化しようがなかったこともある。セリア様のヴィグルー家も呼ばれていたので、賠償の話も含め、1回の話し合いで全て片が付いたのは大きい。


 ヴィグルー家と婚約者のコーミッシュ家からの損害賠償は私の持参金になることも決まった。

 話し合いの場では元婚約者から「君は俺が好きなはずだ! 次の子は君と作るから」なんて、世迷い事を貰ったが、反論する前に婚約者は宙を舞った。


「申し訳ない。リオーネ、いや……マルキシオス令嬢。耳汚しをさせたようだ」

「いえ、ありがとうございます。ロイお義兄様……ではなく、もうコーミッシュ侯爵子息様とお呼びするべきですね」

「君が義妹になってくれればと心から願っていたんだが、残念だよ。この馬鹿の体たらく、詫びることしか出来なくてすまない。君を煩わせぬよう、領地から出さぬことを約束しよう」

「ありがとうございます」


 婚約者の兄、ローレライ・コーミッシュ侯爵子息。脳みそまで筋肉な軍閥の家でありながら、数少なく真っ当な人だった。ただ、筋肉一筋でないだけで、筋肉系であることは変わらなかったらしい。元婚約者を宙に舞わせるほどの力はあるのは知らなかった。


 相手の両親は黙ったままで、怒りの表情のまま俯いている。こちらには元々期待はしていない。息子がしたことで、賠償金を搾り取られ、爵位も降格になったことに腹を立てているだけで、何もできない小物でしかない。


 コーミッシュ家とヴィグルー家が退室し、私と父だけが残された。

 今回の婚約破棄において、害を被った家であるからこそ、王家から別で話があるらしい。


「リオーネ・マルキシオス」

「はい、陛下」

「そなたに落ち度がないことは王家が保障しよう」

「ありがとうございます。それでしたら、僭越ながら、お願いがございます」

「言ってみよ」


 いきなり国王陛下に直接願う娘を止めようとした父に「お願いします」と頼んで、任せてもらう。


「陛下。先ほど、保障をいただけるとのお言葉ですが、私の次の婚約に王家が口出しをしないでいただきたいのです」

「ふむ、なぜだね? 此度の件、王家もまた君に詫びるべき立場である。力になりたいと思っているのだが」

「私は父が決めた婚約者の下に嫁ぐつもりですが、此度のこともあり、今すぐに婚約をするつもりはございません」


 私の言葉に国王陛下は神妙な顔で頷き、王妃殿下は驚いた顔をしている。

 ちらっと同席しているグラウィス様に視線を送ると、私の視線に気づいたのかにこりと笑顔が返ってきた。頷いている表情から、この申し出も予想していたのかもしれない。

 結局、この人は私とアリィのことを深く理解している。だから、アリィを預けると決めたこともあるけど。


「ふむ、時間を置きたいという気持ちはわかった。だが、王家が取り持たない場合、この時期では、言っては悪いが少々厳しいであろう?」

「陛下もご承知のように、マルキシオス家は私と双子の姉しか子がおりません。私の婚約者について王家からご紹介いただくと、王家のお墨付きがあるとばかりに次の婚約相手が爵位継承に介入する可能性があります。お家騒動をしないためには、王家には静観をお願いしたいのです」


 ディオン様を紹介される分には、面倒事にならないことはわかっている。ただ、これからを考えるなら、私に婚約者を設けるのは急がない方が都合がいいのよね。

 それで彼が諦めるようなら、それはそれ。私が家を出ていかないと問題が起きるというのであれば、早いうちに婚約をするべきだとは思うけど。


 この後、グラウィス様が動き出すことを考えれば、私もフリーであった方が都合がいい。



「お心遣いありがとうございます。今は娘の希望に沿うつもりです。もし、貰い手がなくとも、我が家でそのまま姉妹仲良く家を盛り立ててくれればよいとも考えております」


 父は頭を下げて、陛下も頷いて、許可を出してくれた。

 そして、謁見の間から出て、父が心配そうに声をかけてきた。


「良かったのか?」

「ええ、もちろんです。あとは、お父様が私にふさわしい人がいれば婚約を結んでください」

「ん? すぐに婚約したくないのだろう?」

「いえ、別に。ただ、王家の干渉を避けようと思っただけです」

「ふむ……私に相手を任せていいのかい?」

「ええ。私の我儘であのおバカと婚約しました。家にとっては何の利益もなかったはずです。次は、利益のある相手……アリィのためになる家を希望します」

「そうか。では、可愛い娘を幸せにしてくれるものを選ぼう」

「お父様? 利益は考えないのですか?」

「不要だ……と、言いたいところだが。アリーシャは十分な能力がある。婿が足を引っ張らなければ問題ないのだが、少々な……お前のこともきちんと考えよう」


 父が渋い顔をしている。まあ、私の婚約者もアレだけど、アリィの婚約者もひどいのよね。お父様がお母様に愚痴を言っていることも知っている。ただ、お母様の方は、お父様ほど気にしていないと思う。

 母の方は、すでにグラウィス様が来ることを想定しているようにも見えるのよね。


「アリーシャ一人の方が上手く回せるのであれば、婿は遠ざければよいのです」

「その分、嫁に行かずに、お前が手伝うか?」

「それもいいですね」


 にこりと笑って、お父様に任せると口にする。お父様は嬉しそうな表情をして頷いている。私を嫁に出さない選択肢も出来たかもしれない。

 ただ、アリーシャの方の片がついたら、私から話をするかもしれない。グラウィス様とアリーシャの仲をずっと見せつけられるのに飽きたら、家を出たい。


「でも、アリーシャ一人であれば問題ないのを見届けたら、家を出ると思うわ」

「やれやれ。困った子だね、こうなることがわかっていたようだね」


 昔、いたずらをしたことを叱るような怒り方をしながら、頭を撫でられる。父もアリーシャの婚約がこれから荒れることには気づいているらしい。


「必ず、お前を幸せにしてくれる人を選ぶよ」

「はい、心配していません。お父様に見る目があるのはわかっていますので」

「子供の自主性に任せたのがいけなかったのか」

「ふふっ、私もアリィもお父様が私達を信じて、任せてくれたのはとても嬉しかったですよ?」

「だが、アリーシャは違うが、お前は婚姻するつもりは最初からなかっただろう」


 流石にバレていたらしいが、笑って誤魔化しておく。

 私自身が婚約者とは義務の範囲でしか付き合っていない。仲が悪いので、婚約破棄するかという話も1年前……アレが浮気を始めた時点から、ここまでひき伸ばしている。問題が起きるまで、待っていた。


「お父様。グラウィス様に最後に一度、ご挨拶をしてきます。アレと婚約破棄したので、もうご一緒することはありませんので」

「そうか。わかった。私は馬車で待っている。ゆっくりと話しておいで」

「ありがとうございます」


 お父様に一言伝えて、グラウィス様の執務室に行くと、グラウィス様だけでなく、ディオン様もいた。


「やあ、来ると思ってたよ」

「ご挨拶に伺いました。グラウィス様、二人でお話できます?」

「おい、俺も話がある」

「別でお時間を作りますので、外していただけますか? 最後のご挨拶ですのよ?」

「そうだね。ディオン、外してくれる?」

「……わかった」


 部屋を出ていくときに、「少しでいい、話がある」と言われたので、馬車に向かうまでならと伝えた。


「王家の干渉は拒否したみたいだけど、僕の紹介はどうする?」

「そうですね。2年後でも、私に婚約者がいないときにはお願いします」

「う~ん、それはあり得なさそうだね」

「私の立場もありますので、早めに動いていただけると助かります」

「なんで、王家の干渉を断ったの? ディオンは嫌だった?」


 グラウィス様の問いに、頬に手を当ててから、にっこりを笑う。


「覚悟が決まったからですよ。ディオン様がキープ出来るなら、王家からの紹介は不要です。時期を見てからで十分でしょう」

「あ、うん。それでこそ、君だよね。ディオンが一方的に好きなんだと思ってたけど、脈ありだったんだ」

「……全くですよ。そもそも、婚約者がいる身で、他の男に対して恋愛とかを考えたりしませんよ」


 はっきりと伝えるとグラウィス様のしょっぱい顔が返ってきた。

 私はディオン様をグラウィス様を支える同志としてしか見ていなかった。あの時まで。


「でも、いきなりキスされて、嫌じゃなかったんですよね」

「え? キス? されたの?」

「ええ、喉元に」

「は!? えっ、なんで?」

「さあ? 理由は確認していないですよ。でも、驚いたけど、なんていうか、ドキドキしちゃったんですよね。あんなことをアレにやられたら嫌だと思ったとき、覚悟を決めました」


 元婚約者は嫌だったけど、ディオン様は嫌じゃない。それだけで十分な気がする。

 私は出来る限り淡々と聞こえるように伝える。ただ、普段は出来る限り人に表情を悟られないようにしているグラウィス様が珍しく、顔を赤くしたり、青くしたりと忙しく顔色を変えている。


「……本当にいいの?」


 しばらく様子を見ていたが、意を決したように、低い声でゆっくりと確認をされた。


「ええ。しばらくはお預けさせますけどね」

「うん、手が早いから。待たせていいよ……羨ましいし」

「婚姻前にアリィに手を出したら、覚悟してくださいね?」

 

 にっこりと笑うと、両手を上げて、こくこくと頷いている。


「それで、これからだけど……」

「お父様が次の婚約を決める手はずになりました。私の意思で次の婚約を決めれば、アリィも自分の意志で決めます。アリィは自分で選ぶことになったとき、貴方を選ぶことはない。すでに5年前にわかってますよね?」

「うっ……」


 お父様は私達双子を平等に扱ってくれる。だからこそ、同じようにすることが目に見えている。王籍をもつグラウィス様が婿に来るのであれば、次期当主がグラウィス様になってしまう。それは、今まで努力をしていたアリィへの侮辱でしかない。

 たとえ、グラウィス様がフリーになっていても、アリィが婿として望むことはない。それこそ、父が決めた相手だとしない限り、意外と強情なアリィは拒否する。二人が結ばれることはない。


「アリィが婚約破棄するタイミングにもよりますけど、グラウィス様の王籍離脱まで、すぐにはもっていけない。その時間を私が稼ぎます」

「うん。ごめんね、甘えさせてもらうよ……卒業までには決着をつけるから」

「そうですか、それを聞けて安心いたしました。……では、暇乞いを、私の主様。4年間、影の側近として取り立てていただきましたこと、感謝いたします。アレとの婚約が破棄された以上、今後は近くに控えることはできませんので、御前を辞させていただきます」

「君だけが僕の側近だ。いままで、ありがとう。君のおかげでこちらも動くことができた。あとは僕の方でやる」


 協力者、共犯者という立場で手を組んだけれど。すぐに上司と部下という立場になった。それを選ぶくらいには、幼くても彼は王族であり、カリスマ性をもっていた。

 お仕えする日々が充実していて、私自身が成長できた。貴重な日々だった。


「心願成就なされることを願っております」


 アリィとこの方が結ばれることを心から願う。


 元から私もグラウィス様も婚約破棄はする計画。問題は、グラウィス様の婚約破棄が、王籍離脱とセットにならなかったこと。セリア様の有責であることから、仕方ない部分ではあるけど。

 その計画のずれも修正して、やり遂げるのでしょう。近くで見ることは叶わないけれど。


「指示をいただくことは出来ませんが、あのおバカさんを誑すくらいはしておきますよ」

「うん、やめてね。そういうことすると、ディオンが勝手に動いてややこしくなるから」

「でも、さっさとアリィの方も破棄させた方がいいでしょう? 実家に悪影響を与えない程度にするからご心配なく」

「君たちは一度決めると、止まらないよね。近くにいないからフォローは出来ないけど、何かあれば連絡して。何人か、僕の手の者がいるのは知ってるよね」

「ええ、もちろん。それでは……ウィスお義兄様と呼べるようになるのを心よりお待ちしております」


 カーテシーをして、部屋を出る。部屋の外では、ディオン様が壁にもたれかかっていた。


「話は終わったか」

「ええ。側近を辞退してきました。あとはお願いしますね」

「俺が本当の意味で側近ではないことはわかっているだろう」

「ええ、もちろん。あの方の側近は私だけという言葉をいただいたもの」

「……気に入らんな」


 眉間に皺を寄せて、苦虫を嚙みつぶしたような不快な顔をしている。

 意外なことに、こういう彼を知っている人は少ない。親しい人にしか見せない素顔なのだろう。ただ、ここ1年で互いに打ち解けて、色んな表情を見るようになった気がする。


「ふふっ。表向きの側近は譲ってあげるわ。それと、これ以上は私達の計画の邪魔しないでよね」

「お前があいつの唯一という立場であることは気に入らんな。あいつに心を砕くことも」

「今まで、全く見せなかったのに、どういう心境の変化かしらね……」

「好きだ。だから、他の男を気にすることは気に入らん……だが、邪魔をして嫌われては困るからな。計画はきちんとやっておく」

「そう、ありがとう」


 にこりと笑うと、手を取って、手の甲にキスをされた。


「お前の努力を台無しにするようなことはない。だが、さっさと片を付けないと、婚約者になれないようだからな。計画は早めさせてもらう」

「決めるのは父よ。私は父の決定に従う。別にあなたでなくても私は夫を支える。……お父様は私が幸せになる選択をしてくれるもの。だから、私が欲しいなら父を認めさせることね」

「ああ、必ずな。大人しく待っていろ、跳ねっ返り……婚姻までには惚れさせてやる」


 返事とばかりににっこりと笑っておく。すでに惚れているとは口にしない。少し心配していたけど、グラウィス様との会話は聞いていなかったらしい。

 

 彼に見送られ、お父様のいる馬車に乗り込み、家へと帰った。




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