3話
あの事件から5日が経過した。
どうやらあの事件は島側でも影響があったらしく、島側で5日間の警戒体制と厳重な調査があったらしい。
それに伴って入学式も5日後に延期になっていたので、改めて今日が入学式となった。
ターミナルへとやってくれば、前と違って異能警察の制服を着た警官らが6名いた。
入り口に内と外で2人、ターミナルの扉の少し前に等間隔で3人、ターミナル内の巡回が1人。
軽くお辞儀だけし、通り抜ける。
俺の異能に少し意識を割きながら、ターミナル内の扉の方へ行く。
「沙耶、先にいく?」
「凛太郎くんがいる間に先行くわ。なにか違和感があったら止めてね」
「今は大丈夫っぽい。大丈夫な間にどうぞ」
扉の中に入った沙耶が数秒の後、姿を消す。
続いて俺も扉の中に入り数秒待つと、一瞬の浮遊感の後、足が地面に着く。
扉を出ると景色が変わっており、少し先で沙耶が待っていた。
島側のターミナルの周辺には同じ歳ぐらいの制服を着た生徒らがいる。おそらく今日の入学式に参加する人らだろう。
「どんどん人が増えてきてるから、さっさと行きましょ」
「わかったよ。学校の中に入ってしまった方が安全だろうし」
白スーツに俺の顔を見られてる。そして、俺は向こうの顔を覚えていない。24時間警戒しっぱなしってわけでないが、それでも警戒しすぎぐらいの方がいいだろう。
毎年、入学生の数はかなりいるらしく、ターミナルから徒歩10分程のところのホールを入学式の会場にしているらしい。
「ところで凛太郎くん、入学する学校の便覧には目を通した?」
「便覧って、100ページぐらいある電子ファイルのあれ?」
「そう、100ページぐらいある電子ファイルのあれだよ」
「してると思う? ほとんど直接的の関係ないこと書かれてるあれ」
「私的には目次だけ見て、必要そうなとこだけ読んだ。ってのが正解だと思うんだけど、どうかな?」
「大正解だよ。そういう沙耶は全部見てんだろ?」
「正解だよ! 異能使った?」
「使わんでも当たるわ。何年間の付き合いだと思ってんだ」
「10年以上だね」
「だろ。というか、沙耶は知ってるだろ、俺の異能が任意で発動出来ないっていう縛り付きなの」
「そうだけど、私は知ってるよ。凛太郎くんが意図的に使おうと思えば異能使えること」
「さぁね、なんのことやら。思った通りに発動出来ない異能なんて任意で発動出来ないのと変わりないだろ」
俺の異能、直感は重要な選択の時に、その場で最も自分に都合の良い選択を知ることが出来る、という異能だ。
例えばこの間の事件だと、扉の中に行ってはいけないというのが、知ることが出来た都合の良い選択肢だったわけだ。
そして、縛りと言っている任意で発動出来ないというのは、俺の異能は重要な時でしか発動しないということだ。
どういう判断で重要な時となっているのか、明確には分かっていないのだが、それでも抜け穴のような使い方がない訳ではない。
「凛太朗君、あそこじゃないかな、かなりの人が集まってるし」
「多分そうだな。場所的にも合ってるし」
「端末見せるだけで入れるんだよね」
「そうらしいな、入口前の受付で確認だけすれば、あとは適当に座ってるだけみたいだし」
スムーズに進んでいる列に並び、受付で入学証明を見せ、ホール内に入って行く。
ホール内部は一般的なステージがあり、ステージから半円状に椅子が並んでいる。このホールはライブ等でも使われるらしく座面が上がるやつだ。
「それじゃ、凛太朗くん、入学生代表挨拶者は舞台袖待機だから」
「おう、それじゃあな」
「凛太朗くん、寝ちゃ駄目だよ」
「大丈夫、沙耶の挨拶の時は起きとくから」
「私の挨拶以外も起きとくんだよ」
「努力はするよ。それじゃ、さっさと席座ってくる」
入学式開始5分前ぐらいだからか、ホール内ではかなりの人が座っている。
適当な空いてる席に座ろうかと後ろに行こうとすると、入学生は前から5列以内という案内がある。
中学の時に異能者はいたが、特に絡みもなかったのでわざわざ探して隣に座ることもないので、適当な列の端に座っておく。
数分すれば場内アナウンスが流れる。
「第14回、国際第一異能学園入学式を始めます」
その後、学長と呼ばれた50代の男性がありがちな話をし、沙耶が入学生代表としての挨拶をしと式が順調に進んでいく。
最初の校長の話の時点で寝るかと思っていたが寝なかった自分に驚きだ。
1時間経たない内にで入学式は終わりを迎える。
そして全校生徒への緒連絡が行われる。それと同時ぐらいに隣に沙耶が座る。
「まず2名の新任の先生の紹介を行います。まずは山田太郎先生です」
山田太郎、ものすごく偽名くさい。というか、太郎って名前は有名っぽい名前なのに、実際はこれまでで会ったことのない名前だ。
他にも下らないことを考えていると、山田太郎と言われた人物が壇上に上がる。
「はいどうも、紹介された山田太郎です。偽名みたいなんて言われる名前なんですけど、本名なんですよね。と、関係ない話をし過ぎると怒られるので続きはまた今度、ということで。それでは皆さんよろしく」
壇上に上がった人物は俺の知っている人物であった。
恩人とも言える人で、約10年前からあまり変わっていないような気がするその姿。
両親を助けてくれた通りすがりの異能者の男性であった。
「凛太朗くん、あの人って」
沙耶が小声で話しかけてくる。
「あの時名前聞いてないけど、10年前とあんまり姿が変わってないから姿的には一緒に見える」
「だよね。姿ってそんな変わらないものだっけ?」
「昔の段階で19って言ってた気がするから、今29のはず。1年2年程度ならまだしも10年となると」
「それなんだよね。あの人の異能ってそんなこと可能だっけ?」
「分からん。1度だけしか見てないし、情報が少なすぎるからね」
「そうなんだね。まぁ、先生ってことだし、話す機会なんていっぱいあると思うし、そのうち聞けばいいか」
「それもそうか」
山田先生が壇上から舞台袖へと下がり、入れ替わるように女性が壇上へと向かって歩いてくる。
そして、アナウンス響く。
「次の先生を紹介いたします。神山唯香先生です」
20代ぐらいであろうと思われる神山が壇上からこちらを向き、第一声を発する。
「あぁ、悲しきかな悲しきかな。我々人類は平等である。なのに異能者などという異端者が平等を不平等にする。さらには異能者は異能者にしか処理出来ないという、崩壊した社会。そんな崩壊した社会をほんの少し正した我々を、テロリストと洗脳する人の皮を被ったゴミども。この人を兵器にするこの兵器工場。あぁ、人類に不和をもたらす人外生物異能者どもに死の災いを。あぁ、これから異能を使う私よ、異能者を一人でも多く死ね。ここに居るのは人類の癌だけ、一人でも多く殺して死ね私」
神山の発言の途中から沙耶が攻撃を続けているが、楕円形のバリアが展開されている
のか効いてる様子はない。
俺の異能は、隠れろの一択しか候補を出してこない。となると、俺にはどうしようもないってことなんだろう。大規模な乱戦にでもなればまた違うのだが。
神山が瞬きもなく、微動だにせず、早口で言い切ると同時に室内に雨が降り始める。
即座に俺の異能が、雨を何とかするというものに変わる。
俺の異能の悪いところがでた。
俺に出来ない選択肢を平気で知らせてくるし、誰が出来るかも分からん。
だが、俺の異能が、雨を何とか出来れば結果としてオールオッケーになる、って知らせてるならなんとかして結果まで繋ぐ。
だからこそ、まずは雨の当たらない場所まで沙耶を連れて走り、若干のパニックになっているホール内の人間に聞こえるように叫ぶ。
「全員、雨に当たるな! 隠れろ!」
俺の声に反応出来たやつが2~3割ってところか。
自分の身のみを守る為に異能発動したやつ、異能発動せずに即隠れたやつ、自分の付近の雨に対て異能発動したやつなど行動は多岐に渡る。
沙耶と二人で天井の低いとこまで隠れた瞬間、ホール天井の中心から壇上へ向かってる先生生徒十数人へと雷が落ちる。
雷を避けたり防いだりで被害は控えめだ。
「沙耶、この雨を何とか出来るか?」
「雲でもあれば散らすけど、何もないから無理そう」
「そうか。 まずは天候系の異能なのは確定でいいと思うけど、どうやって対処するか」
とりあえず分かってることを整理するか。
まず、雨に当たるのはまずい。
おそらく雨がなんらかに発展する可能性がある。濡れた場所も例外じゃないかも知れない。
次に、あの女の異能は天候系の異能だ。
雨と雷、義人さんから聞いたことのある天候系の異能の特徴だ。義人さんは無理矢理突破したらしいが、おそらくこの場に出来る人がいる可能性はかなり低い。
そして最も問題なのが、あの女の周りにあるバリアと思われるものだ。
天気の異能の何らかしらの応用でなければ、バリア系の異能持ちがいることになる。
この時点で推定テロリストは2人いる。
「どうなってんだ、まったく効かねぇ」
考えている俺と沙耶の近くに全身ずぶ濡れの男が転がってくる。
そしてその後すぐ5~6㎝程の金属の玉が4つ、男の手元に飛んでくる。
男が俺たちに気づくとほぼ同時のタイミングで、二人の腕を掴みその場から飛び退く。
その瞬間、今まで居た場所に2本の雷が向かってくる。
「っ助かった。今のは危なかった。そっちのあんたは、代表でしゃべってたやつだな。こいつ彼氏か?」
「違うよ、凛太朗君はただの幼馴染だよ。あなたは誰?」
「俺は足立充希。最後に触れたもの5つに磁力を付与する異能者だ。そういうあんたらは」
「俺は橘凛太朗、こっちが柊沙耶。沙耶は挨拶してたの知ってるなら名前分かるだろ。で、恐らくあの女はテロリストの一人って考えてる。1週間ぐらい前に有ったあれの」
再び2本の雷が向かってくるが各自で避け、再び集まる。
「おーけー。というか、橘、落ち着き過ぎじゃないか。戦場帰りだったりする?」
「内心ビビり散らかしてるし、さっさと逃げ出したいよ。けど、俺の異能が逃げられないし何もしなきゃ死ぬって言ってる」
こんな詳しく知らせてきてる訳ではないが、それ以外の結果の求めたなら死ぬ可能性があるってことだ。
義人さんから、命が懸かった時の覚悟決める特訓しといてもらって助かった。こんなこと無い方が絶対いいんだけれども。
「なんて便利な異能だこって。まぁ覚悟ガン決まりならそりゃそうか」
「ガン決まりって程じゃないよ。無慈悲な異能が死なない方法を教えてくれてるから、必死なだけ」
「凛太朗君、おしゃべりしてる間に状況は悪化しているんだよ、分かってる?」
「そうだな、足立、続きは後だ。とりあえず、死なずに状況を打開する方法を探す」
「二人のざっくり異能を教えてくれ」
「端的に俺の異能は直感が良くなる異能で攻撃に不向き。沙耶の異能は風を操る異能で攻守ともによし。足立、実際に攻撃してた状況とか敵の情報をくれ」
「あの女の周りにはカプセル状バリアがある。かなり固い。パニックになって出口に走って行ったやつらは透明な壁に阻まれて出れていない。出口の先というよりホールをグルっと囲うように出来ている。穴はなさそう」
情報交換をしている間にも、時折雷が向かってきているのだが1本だったり2本だったりする。
隙を見て沙耶には遠距離から攻撃してもらっているが効果はなさそうだ。
バリア系の異能は発動時に大きさや形は変えれても複数出したり後から形を変えたりするのは不可能だ。
あの女を囲ってるバリアとホールの周りのバリア、2人いる可能性があるのか。
情報が増えるだけ敵の数があやふやになってくる。
それに、バリア系の異能は発動時には異能者は内側にいる必要がある。
だから異能者がバリアから出る為には発動時に穴を開けておくか、異能を解除するしかない。
「あの女か、ホールを囲ってるバリア異能者をなんとかしないと被害が出続けるぞこれ、どうする橘」
「周りをバリアで囲われてる、外から異能警察が入れないそれを何とかしたいが、俺の異能は雨優先って知らせてる」
「雨をどうにかって、どうすんだよ。それに一回消したところで、もう一回降らされたら無意味じゃないのか」
「分からんけど、なんとか出来る方法か人物がいるのは確定でいい。どこにいるか、どんな方法なのかは分からん」
「なんとも変な異能だな。死なない方法で信じていいんだなその異能」
「雨を何とかする為の正解の行動が選べれば死なない。俺が死にたくないからな。というか、あって数分なのに俺と俺の異能を信じられるのか?」
「異能自体を偽ってるとか、橘自体が敵側でしたってことさえなければな。それに、さっきから雷を未来でも見えてるのかってタイミングで避けまくってるだろ。異能の証明はそれでいい」
「そうかよ」
こいつ、なにげによく見てるな。
というか、どこか義人さんに近い匂いがする。戦闘センスとかってことじゃなくて、現場を知ってる的な匂いだ。
「それで、橘、どうする」
「不明なことが多すぎる。即死だけは絶対避けること。初見殺しは知らせるから、この状況を打開するヒントを探す。要するに生き残りつつ色々してみるってことだ」
「なるほど分かりやすいこって」
「ねぇ凛太朗君、私の異能と足立君の異能組み合わせで色々出来そうなんだけど」
「そこら辺の判断は各自に任せる。多分、足立は実戦経験ありそうだからな」
「ふーん、よく見てんだな橘」
「雑談は後だ。それこそ戦力になりそうなやつ見つけてくるでもありだな」
人手はあればあるだけ良い。
だがこの状況であれば、自分の身は自分で守れる程度の実力があるのは絶対条件だ。
それでも、異能に目覚めた時期は大体同じでも、全員が全員異能を個人で鍛えているわけではない。
どちらかと言えば、鍛えていたり、使い慣れていたり、自分の異能の理解を深めていたりする、俺や沙耶や足立みたいなのは小数だろう。
この学園でそれらのことを行うのだから、当然と言えば当然だ。
上級生たちはさっきチラッと見た感じだと、被害は入学生たちの被害の1割以下ってとこだった。
どこかで隙を見て接触を図りたい。
「さて、死なないように動きまわるか。柊、俺との異能の組み合わせって何する」
「足立君の能力、自分に付与出来たりするの?」
「出来るぞ。 固定されてなかった場合は動いちまうがな」
「金属の玉と自分の引力斥力を切り替えることで、立体的な挙動を行ってるって感じでいいのかな?」
「あってる」
「了解だよ。金属の玉の方を動かせばもっと自由に動けるってことだよね?」
「なんとなくやりたいことは分かった。ぶっつけ本番になるし、緊急時と何かあったらの時は強制的に動かしてくれ、合わせる」
「分かったよ。それじゃ私は動けない人とかを助けるよ。攻略の手掛かりが見つかったら教えてね。凛太朗君も」
「それじゃ、作戦会議も終わりだ。そろそろ行動開始と行こうぜ、柊は救出メイン、俺が探索メイン、橘が頭脳メインってことで」
3人全員が自分の異能を起動する。
一人は出力を上げる為に全力で、一人は複数の物体に意識を割く為に器用に、一人は縛りの穴をついて。
「さて、とりあえず敵の情報集めといこうか」