1話
ちょっと残酷描写あります。
インターホンが家の中に鳴り響く。
おそらく、幼馴染の沙耶だろう。小学校から毎日迎えに来てるし、昨日の夜に迎えに行くと言っていたし。
「それじゃ、母さんいってくるー」
「忘れ物はないわね。まぁ、9時からの入学式には行くからあったら連絡頂戴」
「分かってるよ。多分ない筈」
「心配だわ。まぁいいわ、いってらっしゃい」
表面が少し欠けて、紐を通す穴の開けられた小さな鳥の絵柄のコインを首からかける。
結局名前の聞けなかった恩人の異能者さんからもらったコインだ。お守りみたいなものだ。
革靴を履きながら、扉を開けると門の前に居たのは予想通り、柊沙耶だった。
約10年前に沙耶の異能暴走を抑えていた、柊義人さんの娘だ。
「おばさん、異能で怪我させてごめんなさい」
「もう10年も経つんだ、気にしてないよ。それにしても、毎日毎日謝罪だなんて沙那ちゃんは気に病み過ぎよ」
「それでも」
「でもじゃないの。結果として私ら助かったんだから良いのよ。謝るぐらいなら沙耶ちゃんのお父さんと、名も知らぬ異能者さんにでも感謝しな」
「そうだよ、母さんの言う通り、助かったんだから。それより早く登校しようぜ。 入学式って遅刻したらどうなるか気になるけど、沙耶を遅刻させたら義人さんに俺が怒られそうだ」
そう言いながら家の扉を閉める。
俺、橘凛太郎と沙耶は異能者だ。
異能者のみが行くことが出来る人工島にある学園、異能学園の入学式が今日なのだ。
異能学園とは、未成年異能者が入学を義務付けされている学園であり、異能訓練所みたいな一面もある。
と、入学前パンフレットに書いてあったのだが、最近の大体の異能者は気にしてる人はほとんどいないだろう。
沙耶と他愛もない話をしながら徒歩10分ぐらい。
世界各地と人口島を転移異能によって繋いでいる、ターミナルと呼ばれるところの自動ドアに辿り着く。
ターミナル内部はエレベーターのような扉がかなりの数並んでおり、その扉の少し前にタッチパネルがある。
また、コンビニや喫煙スペースなども存在しており、パッと見は電車の駅のホームのようだ。
「なんど見ても、面白みのないとこだなよな、ここ」
「そらそうでしょ。人口島側のターミナルに繋がってるだけのとかなんだか、テーマパークなんてあるわけないじゃない」
「テーマパークが欲しいなんて言ってねーよ。まぁ、あったらおもろいけど」
無駄話をしている間にどんどんと人がやってくる。
関西には2箇所しかターミナルがない為、人口島に行く人が集まるのだ。
「とりあえず、これ以上人が増える前に行くわよ」
沙耶はポケットからのスマホを取り出し、扉の少し前にあるタッチパネルの少し下に触れさせると扉が開く。
学園から送られてきたスマホには、学生証のようなものが含まれているらしく、ターミナルの使用許可証の役割を担っている。
右隣の扉も同じように人、会社員らしきスーツを着た男性が扉を開け乗り込んでいる。
そして、開いた扉に乗り込もうとする沙耶の腕を取って引き寄せる。
そして、出せる限りの大声を出す。
「全員、乗るな!」
何事かと立ち止まる人が大半で、隣の男性も乗り込むことはなかった。
だが、少し離れたところに居る金髪の男性はイヤホンを付けており、声が聞こえていないようだった。
「沙耶、あいつ、乗せないで!」
男性を指差し、沙耶に声をかける。
沙耶は状況を理解していないだろうが、なにかを察してくれたのか、男性を軽く風で押し体勢を崩させ転ばせる。
だが、扉に近すぎるたせいか右腕だけは扉の中に入ってしまう。
右腕だけが消しとび、その場に赤い血溜まりが出来上がる。
扉の中に全身が入った後、数秒してから転移が始まる。あんな風に入った先から転移が行われるようなことはない。
このターミナルの転移機能に悪意のある干渉があったと考えるのがいいだろう。
甲高い悲鳴が上がる。
おそらく血溜まりか男性を見てしまったのだろう。そして、その悲鳴に呼応するようにパニックになりつつある。
このままでは、男性に回復系異能を使える人を見つけるのが困難になるし、もしこれがテロならもうワンアクション有ってもおかしくない。
転移異能の書き換えもしくは、誤作動を意図的に起こさせたのなら、同じ転移系異能者だと思うのだがもし違っていた場合は
「落ち着いて下さい。回復系の異能持ちの方、男性の手当てをお願いします。事故と異能犯罪の両方で対策を取ります。その場で異能による自己防衛をお願いします」
耳に入ってくる言葉、その声の主は沙耶だった。なんらかして、このパニックの中声を届け他のだろう。
そして、俺も思考の沼に沈みそうなのを引き戻される。
その声に落ち着いたのか、1人の異能者が金髪の男性に駆け寄る。
そしてさっき隣にいた男性が半球状のバリアを張る。大人10人は入れそうだ。
「防衛出来ないやつはこの中に入れ! バリア系異能者は近くのやつを囲え!」
良い反応だ。
このターミナルから出るのは多分駄目な気がする。
島の外でこれだけの人が異能を使えば、数分もすれば異能警察が飛んでくる。
なら、今はその数分で死なないことが絶対条件だ。
「沙耶、助かった、考え込みすぎるとこだった。とりあえず、ここから出ない、死なない、しばらくは気を抜かないでいこう」
「あの男性、もっと吹っ飛ばせば腕も助かったかもしれなかった」
「いや、吹っ飛ばすと他の人とぶつかってた。この人数だ、どう連鎖してたか分からん。最悪の状況にはならかっただけよしとしよう」
「もっと私の異能の練度が高ければ…」
あの異能暴走以来、沙耶は異能の練度や制御といったものの訓練を怠ってない。
さらには、あの義人さんがマンツーマンで教えてたんだ、沙耶の異能制御力はおそらく同世代なら世界レベルだ。
それでもまだ沙耶は足りないと言うのだ。天才と言うのはこういうものなのだろう。