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続、アィーアツブス区画は極寒の吹雪が吹き荒れるクリフォート魔族王国最高峰アヴァランチ山という名の過酷な場所だったようだ。

 その後、アヴァランチ山の麓にある町役場でアィーアツブス区画を担当する魔王軍幹部への挑戦の予約を取った無縫達はその足でバチカル区画に戻り、魔王軍幹部巡り総合事務局を訪問して「幹部巡りでの魔王軍幹部側の制限の解除」を希望する旨を伝え、宿屋『鳩の止まり木亭』に戻った。

 そして翌日、無縫、ヴィオレット、シルフィア、フィーネリアの四人は再びアヴァランチ山の麓へと戻ってきた。


 昨日、アィーアツブス区画を訪れた時点でアヴァランチ山が過酷な環境であることを察していたフィーネリアは宿屋『鳩の止まり木亭』を出発する時点でワーブル体へと換装していた。

 フィーネリアのワーブル体の衣装はいかにも悪の女幹部という感じの際どく布面積の少ない、黒い光沢を持つラバー風素材の痴女だと疑われても致し方ないようなデザインのものだ。


 フィーネリア曰く、戦闘に最適化された武装であり、彼女の感性がズレているからか特に羞恥心は感じないようだが、やはり見た目的に寒いということで衣装の上から服や外套を纏い、できる限りの防寒対策をしている。

 一方、ヴィオレットとシルフィアは魔法少女へと変身することで魔法少女が持つ強靭な生命力と精神力、身体能力を活用し、アヴァランチ山の過酷な環境に対抗する気満々のようだ。


 ヴィオレットの魔法少女としての姿は浅黒い肌が深雪を思わせる白い肌へと変わり、魔族の特徴である角が消えて代わりに純白の翼が生えていること以外は目の色、顔貌、体型を含めてほとんど変化がない。

 衣装は魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスと同じ薄水色の丈の短いワンピースドレスに装飾を施し、純白のパニエを履かせたものとも、魔法少女プリンセス・カレントディーヴァのセーラー服をベースに薄水色のシャツと濃紺のプリッツスカートを合わせて装飾を施したセーラー戦士風の衣装とも異なるロリィタに分類されるような白やピンクを基調とした可愛らしいもので、手には天使の白い片翼と堕天使の黒い片翼が交差したような銀色の杖が握られている。


 一方、シルフィアが変身した魔法少女はシルフィアをそのまま巨大化させたような見た目だ。

 普段着の黄色のワンピースを人間サイズまで巨大化させ、そこに魔法少女らしい装飾を施したような衣装で妖精の翅も相変わらず背中から生えている。

 容姿も体型も変身前のシルフィアそのままだが、一つだけ明らかに普段のシルフィアとは違う点があった。彼女の手に握られている中心に藍色に輝く結晶をあしらった白銀色のロッドである。

 ……まあ、シルフィアはその杖を持っていても登山の邪魔にしかならないと判断したのか、剣を帯刀するように慣れた手つきで小さな時空の門穴ウルトラ・ワープゲートから取り出したリボンで腰に吊るしていたが。


 代わりにちゃっかりと町役場で登山用の杖を借りて準備万端という様子で登山口まで走り、ヴィオレットと共に「おーい! 早く!!」と無縫とフィーネリアを急かすように手を振っている。

 ちなみに、魔法少女の姿になって精神力も身体能力も大幅に向上している二人とは異なり、無縫は魔法少女に変身せずにいつもの姿で登山をするつもりのようだ。外套を纏って普段よりも防寒対策をしているようだが、靴もそのままで杖も持っていない。

 「冥斬刀・夜叉黒雨」を帯刀しているが、流石に刀を杖代わりにする気はないだろう。


「……無縫君、今更だけどその格好で大丈夫なの?」


「まあ、覇霊氣力を全身に薄く纏わせることで寒さを軽減しているからな。というか、ヴィオレットもシルフィアの二人は楽し過ぎだと思うけど……」


「我は修行とか暑苦しいのは嫌いだからお断りじゃ!」


「やっぱり楽が一番だよねぇ〜」


「……ヴィオレット、お前って本気で魔王目指していたのか? 俺みたいな根無草の勝負師(ギャンブラー)はともかく魔王みたいな常に実力を示し続けなければならない立場って、あんまり怠惰ですぐに楽な方向に流されるお前には向いていないと思う」


「酷い言い草じゃな! ……まあ、否定できないのは事実だが」


「……個人的には、魔法少女の力をそんな風に使って欲しくないわ。魔法少女って、ほら、もっと神聖なもので、悪と戦う正義の戦士で、女の子の憧れで……」


「えっ、もしかしてフィーネリアさんって魔法少女に幻想抱いているタイプだったの? そんないいものでもないと思うけどね? ぶっちゃけ、私達が生み出す魔法少女ってネガティブノイズっていうフェアリマナにとって邪魔な存在を自分達の手も汚さず、不利益も出さずに滅んでもいい都合のいい駒を使って滅ぼそうっていう悪意の権化みたいなものだし」


「まあ、事実なんだけどな……フィーネリアさんもかなり魔法少女を神聖視しているみたいだから、そこまでにしてやってくれ。それと、前にフィーネリアさんが魔法少女になりたいって言っていたなぁ。その夢、叶えてやってくれ」


「……いいけど、無縫君的には大丈夫なの? ロードガオンって敵国でしょう? フィーネリアさんは話せば分かる相手だけどやっぱり敵対勢力に塩を贈るのは良くないんじゃないかな?」


「お前らのいない間にフィーネリアさん達との交渉は進んで、少なくともフィーネリアさん達との敵対の線は消えたよ。ロードガオンとの敵対についてはロードガオンの母星からの返答待ちだけど、仮に良い返答が返ってこなくても国を捨てて同盟を結びたいっていう話だし。フィーネリアさんにとってはレーネ家の関係者と部下が無事ならいいってことらしい」


「うむ、妥当な判断じゃな。無縫と敵対するなど愚かな選択……フィーネリア殿も無縫と幾度となく敵対して学んでいるのじゃろう」


「じゃ、無縫君の許可も得たし魔法少女にしてあげるよ♪ っていっても、流石に登山中の今は無理だから今回の幹部戦が終わってからでもいいかな?」


「えぇ、勿論よ! やったわ! 地球に来て魔法少女と出会った瞬間からずっと夢見ていた長年の夢が叶うわ!」


 心の底から喜ぶフィーネリアに、何とも言えない顔になるシルフィアだった。



 アヴァランチ山の標高は二千九百メートル、これはクリフォート魔族王国の中で最高峰の標高を誇る。

 その標高は三千七百メートルの大日本皇国の最高峰・富士山に遠く及ばない。しかし、実際にどちらが過酷な山かと問われれば、アヴァランチ山に軍配が上がる。その理由は、アヴァランチ山を含む山岳地帯を包み込む極寒の魔力にある。


 元々この山の周辺には妖怪……ではなく魔族の一種である雪女などの雪や氷に纏わる魔族や魔物達が暮らしていた。

 彼らが極寒のこの地域を選んで棲みついたのか、或いは彼らが棲みついたことで極寒の地になったのか……どちらが先から不明だが、ただでさえ標高が高く寒い地域だった山岳地帯は極寒の魔力によって更に寒く厳しい環境となっている。


 度々猛吹雪が吹き荒れて更に過酷な環境と化すアヴァランチ山を登る場合は、基本的に登山道に設置されている山小屋で休憩や宿泊をしつつ数日掛けて山を登るのが定石である。

 だが、無縫達は定石を無視して山登りを続けた。かなり薄着な少女二人と、防寒装備をしっかりと整えている女性一人、外套こそ纏っているものの比較的軽装な少年一人というパーティは他の登山者達の目に嘸かし奇妙な光景として映ったのだろう。


 無縫達は四時間という前代未聞のタイムでアヴァランチ山を登頂してみせた。息の一つも切らさずクリフォート魔族王国最高峰を登頂して見せた無縫達にどのような視線が向けられたは言うまでもない。


 アヴァランチ山の山頂にはスキー場があった。いや、実際にはスキージャンプやスノーボードのハーフパイプ、フィギュアスケート、ボブスレー、カーリングなどなど様々なウィンタースポーツを楽しむことができる環境が整っており、まさに雪上競技の楽園というべき場所だった。

 ……まあ、標高が極めて高く酸素濃度も薄いため、あまりウィンタースポーツに適した環境ではないのだが。


 無縫達は客達から向けられる奇異の視線に晒されながら、スキー場の奥を目指す。

 無縫達が登ってきた登山道から見て反対側には複数の建物が建てられていた。更衣室や食堂といった一般的なスキー場にもありそうな施設の他に、明らかに山の山頂には不釣り合いな「領主公館」という看板が掲げられた貴族の邸宅を彷彿とさせる屋敷がある。


 無縫達が目指すのは当然、そのアィーアツブス区画の領主公館だ。


「あの……先日挑戦する旨をお伝えした庚澤無縫です」


 無縫が領主公館の扉を開けて名乗ると純魔族の女性が慌てた様子でエントランスの方へとやってきた。


「おっ、お話は聞いていますが……その、まさか昨日の今日で訪問されるなんて思っていませんでしたので……。アィーアツブス区画の魔王軍幹部を務めている淡空(あわぞら)白雪(しらゆき)様は只今領主公館を留守にしていまして……す、すぐに呼んで参りますので!!」


 慌てた様子でそのまま無縫達の横を擦り抜けて外に向かう純魔族の女性を無縫は冷静な声音で呼び止めた。


「留守ということは、近くにいないのですか? でしたら、また後日伺います」


「い、いえ……恐らく山頂周辺にはいらっしゃると思います。白雪様はウィンタースポーツが得意でして、公務のない時間はよくウィンタースポーツに興じていらっしゃいますから」


「なるほど……では、俺達も一緒についていっていいですか? 俺もどのようにウィンタースポーツに興じていらっしゃるのか見てみてみたいので、よろしければ」


「はっ、はい! 大丈夫です! それでは皆様、逸れないように着いてきてください!」

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