『暴言』のプレッシナことプレッシナの泉の妖精chは仲間である筈の妖精に討伐依頼を出されるほど嫌われているらしい。
「ところで無縫さん、本日はどのような御用向きで冒険者ギルドにいらしたのですか? あっ、もしかして依頼を受けてくださるのですか!? 冒険者ギルドでも最上位、金剛ランクの無縫さんに是非依頼をと指名依頼のオファーがいっぱい届いているんですよ!!」
異世界アムズガルドにおける冒険者ギルドは他の世界の冒険者ギルドと違わず冒険者の身分の保証と仕事の斡旋、素材の買い取り、冒険者のランク昇格のための試験開催、冒険者同士の揉め事の仲介等を行っている。
本部は冒険者発祥の地と言われるイシュメーア王国に置かれ、イシュメーア王国の王都に置かれた本部と冒険者条約と呼ばれる条約に加盟した二十の人間の国に設置されている無数の支部が遠隔通信が可能な魔道具でやり取りをしており、どこの冒険者ギルドでも同等のサービスを受けることが可能だ。
ランクは藍、青、紫、緑、黄、橙、赤、白、黒、銅、銀、金、白金、金剛の順で、無縫のランクはその中でも最上位の金剛ランクに位置する。
金ランク以上のランクになると指名依頼と呼ばれる特別な依頼や、王侯貴族などからの護衛依頼などが舞い込むことになる。
勿論、断ることも可能だが、あまり断り続けると心証が悪くなるなど必然的に縛りも多くなる。
安定した職に就くために、その踏み台として冒険者になる者にとっては都合がいいが、自由に冒険をしたい者にとっては足枷だ。そのため、実力がありながらも銀ランクでランクを止める冒険者も少なくはない。
この世界に召喚されたばかりで当然、空間魔法など習得していなかった無縫は手っ取り早く生活費を稼ぐために冒険者になることにした。
しかし、無縫のことを舐めて絡んできた銅ランクの冒険者を半殺しにしてしまうというトラブルを起こしてしまうと無縫の実力が冒険者ギルドに知れ渡ってしまい、チンピラ冒険者の方に全面的に落ち度があったとはいえ過剰防衛ということもあって無縫も冒険者ギルド側の要求に従わざるを得なくなり、半ば強制的に昇格試験を受けさせられることになった。
結果として、無縫は本人が全く望んでいないにも拘らず冒険者になったその日に金剛ランクに到達するという偉業を成し遂げてしまったのである。
なお、無縫の冒険者としての立場はかなり特殊だ。通常では心証が悪くなってその後の仕事に差し障りがあるため余程の理由がない限りは指名依頼は基本的に受けることになるが、無縫の場合は冒険者の地位を剥奪されたところで全く生活に支障はない。
そのため、完全に無縫側の気分で依頼を選り好みすることができる。選ぶ側と選ばれる側が完全に逆転しているが、それでも無縫へのオファーが無くなることはない。
それだけ、無縫の強さが信頼されているということなのだろう。
「いや、今回は冒険者ギルドに出していた依頼の状況確認と物品受け取り、冒険者ギルドに預けておく報酬の支払いが目的だよ。悪魔の賽子と天使の賽子の在庫が少なくなってきてね」
「いつものですね、すぐに準備致します。……本当にありがとうございます。特に悪魔の賽子は外れアイテムと言われて市場でもほとんどお金になりませんから、こうして高額で買い取って頂ける方がいるのはとてもありがたいです。……まあ、それはそれとして指名依頼も受けて頂けると嬉しいのですが」
「……まあ、また今度な。……実は今、異世界ジェッソっていうところにクラスの連中と一緒に召喚されてちょっと面倒なことになっているんだ。この二人、魔王軍幹部のメープルさんと宿の看板娘のスノウさんはあっちの世界で出会ったんだが、これから幹部巡りと『頂点への挑戦』への参加、魔王陛下との交渉と俺達の召喚したルーグラン王国への制裁っと、やることがまだまだ残っているんだ。それが終われば暫く時間はできると思う。流石にすぐにまたトラブルは起こらないと思うし」
「……それはそれは、お疲れ様です。分かりました、その旨、冒険者ギルドで共有しておきますので時間ができましたらお願いしますね。向こうも断られるのを承知の上とはいえ、王族や高位貴族の指名依頼を断り続けると流石に冒険者ギルドの今後にも関わってきそうですから」
「……冒険者ギルドも大変ですね」
「ほんとーっうに、大変なんですよッ!! 分かってますか!! 無縫さん!! そりゃ、無縫さんは複数の異世界を渡り歩いていますし、国家防衛の要として危険な任務をこなしていることは承知していますが……もうちょーっと、時間を融通してもらいたいものですよ」
無縫とフランチェスカがそんなやり取りをしていると、冒険者ギルドの扉がギイキーッと音を立てて開いた。
しかし、扉の方に人影はない。……否、正しくは人間の姿は無かったというべきか。
大きさはシルフィアとほとんど変わらない掌サイズ。
蝶のような色とりどりの翅を持つ、ワンピース姿の美しき容姿の少女達が魔力で操ったのか触れることなく扉を開けると冒険者ギルドの中へと飛翔して入ってくる。
そんな少女達――妖精達に対する視線は冷たい。
それもその筈、彼女達は人間にとっても魔族にとっても長年の頭痛の種になっている度が過ぎた悪戯好き達の巣窟、妖精の森の住人達なのだ。
「はぁ……また来たのですか? 何度来ても答えは変わりません。安全が保証できない妖精の森に冒険者の派遣はできません」
「全く頭が硬い人達ね! だぁかぁらぁ! 私達は依頼中に絶対に悪戯しないし、迷子にしないし、なんなら森にある貴重な素材も好きなだけ持って行っていいって言っているじゃない! まあ、確かに信じてもらえないかもしれないけど……やってきたことがやってきたことだし。じゃあ、貴方達は私達の生活が脅かされてもいいって言うの!? 毎日毎日暴言暴言暴言暴言! 五月蠅くて夜も熟睡できないし、森の泉のほとりでゆっくり森林浴をしようとしても五月蠅くて気が散って全然休まらないの!! 元々妖精の中でも性格はかなり悪かったけど、ここ最近はどんどん悪くなっているし……正直、あれはもうただの害悪よ! 討伐した方がいいに決まっているわッ!!」
リーダー格の妖精や後ろでは他の妖精達が「そうだ! そうだ!!」と囃し立てている。
確かに妖精達はいずれも絶世の美少女達ばかりだが、その顔はどこか不健康そうで、目には分厚い隈ができている。
妖精の森には貴重な素材が溢れている。その森にしか生息しない貴重な薬草が、強力な魔法薬の材料になったりするのだ。
妖精達にとってもそういった素材は貴重なものであり、妖精達は力を合わせて森に魔法をかけて森を守ってきた。そんな神聖な地に足を踏み入れる許可を出すというのは前代未聞――それほどの決断を下すほど、妖精達は悩まされているということなのだろう。
「あれ? 妖精女王のフィレーニアさんじゃないですか? 人里に降りてくるなんて珍しいですね」
「珍しいですね……じゃないわよ! 多分貴方のせいなんでしょ!? メリンがおかしくなったのは貴方から何かよく分からないものを受け取ってからだったわ!!」
「そんな人をおかしくするような変なものはプレゼントしてないけどなぁ。前に俺が動画を見ていたら気になっていたから、スマホとパソコンとゲーム機と、後はお願いされるままに配信機材をプレゼントしただけなんだけど」
「間違いなくそれよ!!」
「……ちなみに、なんか言っていたか?」
「よく分からないけど、プレッシナの泉の妖精chとかなんとか言っていた気がするわ」
「……うわぁ、なんか聞き覚えがある気がしないでもない名前だな」
「『暴言』のプレッシナじゃな」
「『暴言』のプレッシナよね? 主にアクションレースゲームシリーズのレースを投稿している音声合成ソフトと立ち絵を使った実況解説動画を出している。……あれって、メリンだったんだ。まあ、確かにここ最近人気だよね? まあ、私達のブルーコメットちゃんねるの登録者数は登録者150万人、あっちは14万人くらいだから全然規模が違うけど」
「ちなみに、【スターライト・トゥインクル】の公式チャンネルは260万人ほどじゃったな。……まだまだ先は長いようじゃ」
「いや、お前らさぁ、何と張り合おうとしているんだよ? 相手は今をときめく人気アイドルだぞ? ……まあ、茉莉華の奴はなんであんなに人気か謎だけど。ちなみに、ガラウスの奴のチャンネルを覗き見してみたらDMr.クラウソスのチャンネル登録者数は19万人だった。正直、ガラウスに負けるなんて許し難きことだから勝っていて良かったよ」
「というか、『暴言』のプレッシナはソロで14万人弱、活動時期も二年程度に対して、DMr.クラウソスはクラウソス村というコラボで村長の立ち位置にいて、他の実況者の客も取り込める立場で投稿歴も長い、にも関わらずこの程度の差しかない。……メリンの方が才能があるのではないか?」
「いや、単純にジャンルの違いじゃない? メリンの方はレースゲーム一本みたいだし。……ってか、誰だっけ? 毎回どこかのチャンネルの人と争って、ついでにどこかのチャンネルの人が不憫な目に遭っている気がするけど、なんだか申し訳なくなってくるよな。あんな奴の相手をしてくれてありがとうございます、心の広い方々」
「前者はキラキラ世紀末チャンネルのHIMEさん、後者は『不憫』の二つ名を冠する朧狐の月見chの朧ツキミさんね。……というか、名前くらい覚えてあげなさいよ。一応、どちらも大手実況者なんだし」
「……しかし、『暴言』のプレッシナがメリンさんだとすると他にも異世界出身の動画配信者がいるのかもしれんな」
「いやいや、流石にそんな偶然は……多分ないと思うけどなぁ」
話に花を咲かせる無縫、ヴィオレット、シルフィアの三人。
一方、全く話についていけないフランチェスカ達は全く分からない言葉の応酬に揃って首を傾げていた。
◆ネタ等解説・八十四話
プレッシナ
フランスの伝承に登場する水の精霊メリュジーヌの母親である泉の妖精。
妖精の国に戻されたメリュジーヌと二人の妹、メリオールとプラティナが復讐心を募らせて結託して父親をイングランドのノーサンブリアのある洞窟に幽閉した際、夫を愛するが故に、メリュジーヌと妹達に、週に一日だけ腰から下が蛇の姿となるという呪いをかけた。
なお、メリンはチャンネル名を考える際に適当に泉の妖精の名前を持ってきただけで詳細は知らなかった模様。
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作中の動画投稿者一覧(現時点まで)
・ブルーコメットちゃんねる(登録者150万人)
ウプ主代理:ブルーコメット、ヴィオラ、シルフィード
ジャンル:ゲーム実況、茶番劇
●中の人
ゲーム操作:無縫
動画の編集と素材調達:ヴィオレット
茶番劇の台本作成と入力作業、動画の最終確認とアップロード:シルフィア
・【スターライト・トゥインクル】公式チャンネル(登録者260万人)
ジャンル:アイドル
●メンバー
茉莉華、瑞稀、霞
・DMr.クラウソス(登録者19万人)
ウプ主代理:DMr.クラウソス
ジャンル:ゲーム実況、茶番劇
立場:クラウソス村村長
●中の人
ガラウス
・プレッシナの泉の妖精ch(登録者14万人)
ウプ主代理:プレッシナ
ジャンル:アクションレースゲーム専門のゲーム実況、茶番劇
二つ名:『暴言』
●中の人
メリン
・キラキラ世紀末チャンネル
ウプ主代理:HIME
ジャンル:ゲーム実況、茶番劇
●中の人
???
・朧ツキミ
ウプ主代理:朧ツキミ
ジャンル:ゲーム実況、茶番劇
二つ名:『不憫』
●中の人
???
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◆キャラクタープロフィール
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・フィレーニア・スォンスエフレトプレ
性別、女。
年齢、五百三十一歳。
種族、妖精。
誕生日、五月五日。
血液型、O型Rh+。
出生地、異世界アムズガルド妖精の森。
一人称、私。
好きなもの、妖精の森、静寂。
嫌いなもの、侵略者、平穏を脅かすもの、騒音暴言。
座右の銘、森林保護。
尊敬する人、特に無し。
嫌いな人、特に無し。
好きな言葉、特に無し。
嫌いな言葉、特に無し。
職業、妖精女王。
主格因子、無し。
「妖精の森を守ってきた妖精の女王。他の妖精以上に排他的で、妖精の森を荒らす者には容赦しない。妖精の森の妖精は悪戯好きな性格のものが多いが、フィレーニアは森を守る使命に燃えており、侵入者には殺意マシマシな排除攻撃を仕掛けてくる。最近はメリンの引き起こす騒音公害に悩まされており、遂に森の資源を人間に分け与えることを対価にメリンの排除に動くという彼女らしからぬ禁断の一手に打って出た」
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