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【第五章執筆のため更新停止】天衣無縫の勝負師は異世界と現実世界を駆け抜ける 〜珈琲とギャルブルをこよなく愛する狂人さんはクラス召喚に巻き込まれてしまったようです〜  作者: 逢魔時 夕
第一部第三章「クリフォート魔族王国回遊記」

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クリフォート魔族王国の宰相は黒肌が大多数を占める純魔族にしては珍しい真っ黒な髪と白磁のような白肌とエメラルドのような美しい瞳が印象的な長身美女のようだ。

 読者の皆様、お久しぶりです。執筆者の逢魔時 夕と申します。

 しばらく時間が空いてしまい申し訳ございませんでした。今回から実験的にしばらく書き溜め方式を取らせて頂こうと思っております。


 第三章は本日から三月四日まで大体一日三話ずつ予約投稿の形で投稿致します。第四章はまた書き終わり次第投稿致しますので、それまでお待ち頂けたら幸いです。

 第二章はかなりグロテスクな描写や悪い意味で心に突き刺さる描写がありましたが、第三章は基本的にのんびりとした感じで物語が進みます(魔族って人間の敵という立ち位置の筈なのにフシギタネ)。

 新たな舞台でのいくつもの出会いの物語、是非楽しんでいってくださいね!

 無縫が異世界アルマニオスの自然を蘇らせた日から二週間が経過した。

 その間、無縫達はマールファス連邦を巡り終えて元奴隷達の再出発に立ち会い、多くの者達を送り出した。


 予定通り、元奴隷達の残り人数は二万三千人ほどになっている。

 その奴隷達についても大日本皇国への移住や他の異世界への移住などそれぞれの道を選び、再出発の準備を進めているようだ。


 残るは南半球に存在するクリフォート魔族王国で故郷に帰還するつもりの魔族のみで、こちらもクリフォート魔族王国に到着して交渉が終われば無縫達の元を離れることになる。

 無法都市から出発した、長かった奴隷再出発援助の旅もその終わりが少しずつ見えてきていた。


 無縫達の旅に同行していたエアリスとミゼルカは異世界アルマニオスに残ることにしたようだ。

 といっても、異世界アルマニオスを再出発の地として選んだ訳ではない。


 あの世界の惨状を目の当たりにしたエアリスとミゼルカは環境破壊の恐ろしさを身に染みて理解した。

 あのような世界に異世界ジェッソを、故郷をしてはならないと――そう強く思った。


 しかし、その一方で科学技術や魔法技術の発展によって世界が便利になることも知った。

 異世界ジェッソもいずれは技術革新の時代に突入するだろう。その流れを無理矢理変えて、不便な生活の維持させるのは現実的に考えて不可能だ。当然、反発も起きるだろう。

 それに、エアリスもミゼルカも環境に過剰に配慮して文明を捨てるのが良い行いであるとは思えなかった。


 重要なのは、便利さと環境への配慮を両立することである。

 そして、そのために必要なものは異世界アルマニオスや地球といった異世界ジェッソよりも発展した世界に揃っている。


 歴史とは即ち失敗の積み重ねだ。その過去の文明の発展の歴史――築かれてきた無数の失敗を紐解き、改善点を浚っていくことが大切なのである。

 あの時ああすれば良かった、こうすれば良かったという後悔の数々。当時は分かっていない情報を元に判断を下すことができる。

 その強くてニューゲームを地でいく判断を下すことができるのが後発発展文明ならではの利点であることをエアリスもミゼルカも見抜いていた。


 異世界ジェッソの明るい未来のために、二人はこれから異世界アルマニオスで頑張っていくことになるのだろう。

 異世界アルマニオス側も全力で支援してくれるだろうが、結局のところは二人の頑張り次第である。無縫も、二人が無事に夢を叶えられることを願い、「大日本皇国に二人への協力を必ず取り付ける」と約束して、新たな道を歩み始めた二人をフィーネリアと共に見送った。


 ちなみに、ドルグエス一行はレイゼン大迷宮も八百層まで到達している。今回はエリアボスの間の奈落ショートカットを利用せず、しっかりと迷宮を探索しながら修行を続けているため時間が掛かっているようだが、それでもかなりのハイペースである。近いうちに攻略完了の知らせもあるだろう。


 勇者パーティとブリュンヒルダ達が揃って出遅れている中、無縫達は順調に旅を進め――そして、遂にこの日、南半球の玄関口であるクリフォート魔族王国の辺境の地【漆黒の闇の森テネブラエ・サルトゥス】へと足を踏み入れたのだった。



 フィーネリアと共に魔物を討伐しながら進むこと二日――突如として森に似つかわしくない人工物が姿を見せた。

 石を組み合わせ作った巨大な城壁のようなもので、高さは五階建てに相当。横の広さは不明で果てしなく広がっているようである。


 まるで人間からの侵攻を防ぐように作られたこの城壁の名は【悪魔の橋ディアボルス・ポーンズ】と呼ばれているものだ。

 この城壁は国境の役割も果たしており、これより先は魔族の領域――クリフォート魔族王国ということになる。


「城壁と砦が合体しているようだな。城壁の外側と内側の行き来は砦となっている部分のみで行えるって感じか。攻めてきた場合は、城壁の上から複数人数で攻撃することができる。なかなか理に適っている」


「確かに厄介そうね。こういうの、地球にも似たようなものがあるわよね? 中国の長城と呼ばれるものとか」


「砦が、要衝に置かれた関城の役割を果たしていると考えれば、まあ似ているかもしれない。ただ、関城は遊牧民族と農耕民族の交流の場となっていたが、【悪魔の橋ディアボルス・ポーンズ】は人間領への侵攻のために用意されたいざとなった時に魔族側が自由に封鎖できる道と、人間側からの侵攻を防ぐ砦の役割を果たしているみたいだけどな。……少なくともここ数年は魔族側からの侵攻の記録は無く、人間側からの侵攻を防ぐ砦という使い方しかされていないみたいだけど」


「それで? 到着したのはいいのだけど、これからどうするのかしら?」


「いや、このまま普通に砦に向かうだけだけど……」


「まさかのノープラン!? 元奴隷の魔族の方達に交渉役を引き受けてもらうとか、もっと、こう、あるでしょう!?」


「魔族の奴隷を無理やり従わせているとか、悪い受け取られ方をされる可能性も十分に考えられるからね。まずは普通に交渉をして、ダメだったら考えよう」


「……第一印象ファーストインプレッションって大切だと思うのだけど」


 無縫とフィーネリアは事前の打ち合わせなどもせず、そのまま砦に向かって歩いていく。

 砦を守る魔族達は二人の存在を察知して瞬時に臨戦態勢を取った。

 しかし、いきなり攻撃を仕掛けてくるような血の気の多い行動はなく、まずは目的不明な二人の動向を観察してできる限り情報を得るつもりのようである。


「人間達よ! これより先は魔族の領域である! 我らの平穏を脅かすのが目的か! 或いは、他に目的があるのか! 汝らの要件を述べよ!」


 砦の上から一人の純魔族と思われる男が風魔法で声を拡声し、無縫達の方へと声を掛けてきた。

 無縫も風の魔法で声を拡声し、魔族達に返答する。


「この世界の魔族はてっきり人間を嫌っていると思っていました。いきなり攻撃魔法を浴びせ掛けられると思っていたので、ひとまず交渉ができそうで良かったです」


「貴様は我々を蛮族か何かかと思っているのか!? 寧ろ、貴様達の方が野蛮ではないか! 我々は人間の領土に侵攻をしていない! しかし、貴様ら人間は我々の領土に度々侵攻しては村を焼き、魔族を攫い……非道なことをしてきた! 貴様ら人間の方が遥かに邪悪だ!」


「……まあ、そんなことだろうとは思ったけどね。かつては魔族も人間の領土に侵攻をしていたのだろう。しかし、それは過去の話。今は一方的に人間側が魔族の生活を脅かしているというのが実情なんじゃないかな。魔族側が現在も人間側への侵攻をしているというのは白花神聖教会や東方白花正統教会、女神エーデルワイスを信仰する連中が流したデマだろうね。そして、それを大半の民衆は信じているという訳だ。クリフォート魔族王国は北半球への不干渉政策を取っている……大凡、百年前くらいから? 違うかい?」


「その認識で正しい。……それで、人間様は我々の安寧の地に何の用だ? 返答次第によっては即時攻撃に移らせてもらう」


「要件は……そうだな、大きく分けると二つだ。一つ目は魔族という種族を見極めたい。魔王への謁見もしたいところだけど、それとは別に市井の魔族達のことも見極めたいところだな。君達が邪悪な存在であるか否か、それが分からなければ次のステージに進むことはできない」


「――ッ! 魔王陛下への謁見だと!! 貴様、下手に出ていればいい気になりやがって!! 貴様ら人間をここから先に通す訳が無かろう! 傲慢な発言、不遜な態度、万死に値する!! 我らが平穏は我らが守る! ――攻撃準備ッ!!」


「――待ちなさい」


 無縫の提案に怒りを露わにした司令官と思われる純魔族が攻撃を仕掛けようとしたが、その命令を遮るように鈴を転がしたような透明な声が響いた。


「対人間族魔国防衛部隊司令オズワルド=トーファス、攻撃命令を停止しなさい」


「しっ、しかし、恐れながら!!」


「一度で聞けませんか? それとも、私程度の存在の言葉、聞くに値しませんか?」


「めっ、滅相もございません!! シトラス=ライムツリー宰相閣下!!」


 司令官オズワルドが平伏したのは、黒肌が大多数を占める純魔族にしては珍しく真っ黒な髪と白磁のような白肌とエメラルドのような美しい瞳を持つ長身の女性だった。

 紺色の軍服を彷彿とさせる上着に、同色のスカートを組み合わせた服装のシトラスと呼ばれた女性は自分がスカートを履いていることに欠片も頓着せず、一切躊躇なく砦から飛び降りて無縫とフィーネリアの目の前に降り立つ。


 どうやら、「スカートの中が見えて恥ずかしい」などといった羞恥の感情はないらしい。

 華麗な着地を決めてから、無縫とフィーネリアにそれぞれ一瞥を与えた。


「初めまして、魔国宰相のシトラス=ライムツリーと申します。早速ですが、お二人がクリフォート魔族王国を訪問した理由をしっかりとお聞かせ頂きたいので砦の中に来て頂けないでしょうか? 勿論、手荒な真似は致しませんし、騙し討ちもしません。ここで立ち話をするよりも、座ってお話をした方が建設的だと思いますが」


「では、お言葉に甘えて……フィーネリアさん、行きましょうか?」


「えっ!? ちょっと待って!? 展開早過ぎないかしら!? というか、こんなにあっさり入れてもらえるものなの!?」


「オズワルド司令、申し訳ないですが客人をもてなす準備をお願いします」


「しょ、承知致しました! しかし、閣下は高貴なお方! 人間などという信用に足らない存在と三人きりにはできません! 我々も護衛として同席致しますので!!」


「はぁ……どうぞ気が済むようになさってください」

◆ネタ等解説・七十二話

クリフォート

 ユダヤの神秘主義カバラにおける悪の勢力もしくは不均衡な諸力を表す概念。

 ヘブライ語で「皮」「殻」を意味するクリファ(qlipha,/קליפה)の複数形。

 クリフォトを図式化したモデルの一つに邪悪の樹があり、サタンのバチカル(1i)、ベルゼブブのエーイーリー(2i)、ルキフグスのシェリダー(3i)、アスタロトのアディシェス(4i)、アスモデウスのアクゼリュス(5i)、ベルフェゴールのカイツール(6i)、バールのツァーカブ(7i)、アドラメレクのケムダー(8i)、リリスのアィーアツブス(9i)、ナヘマーのキムラヌート(10i)で構成される。


漆黒の闇の森テネブラエ・サルトゥス

 闇を意味するラテン語tenebraeと森を意味するラテン語saltusから。

 『ポケモン不思議のダンジョン 空の探検隊』の未来世界のダンジョン「黒い森」や佐崎一路氏のライトノベル『リビティウム皇国のブタクサ姫』に登場する闇の森(テネブラエ・ネムス)、ドイツ南西部のバーデン地方に属し、北はバーデン=バーデン、東はシュトゥットガルト、南はフライブルク、西はライン川の流れを挟んでフランス中東部のアルザス=ロレーヌ地方との国境にある黒い森(シュヴァルツヴァルト)などは多分関係ない。


悪魔の橋ディアボルス・ポーンズ

 ラテン語で悪魔を意味するDiabolusとラテン語で橋を意味するponsから。長城を橋に見立てたネーミング。


長城

 外敵の侵入に備えるため、国境線に沿って建造された土塁・城壁のこと。特に有名なものは万里の長城か。

 主要部分は敵の侵入を防御するための高大な城壁であり、要所要所に関所、敵台、狼煙台が配置されている。

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