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本物のロリババアに面と向かってロリババアって言うってどんな胆力しているんだよ、幸成さん!

 無法都市を後にした無縫とフィーネリア、そこに元奴隷のエアリスとミゼルカを加えた一行が真っ先に目指したのは中央行商独立都市エリシュガだった。

 異世界ジェッソの北半球の中心にあるこの地は無縫が訪れたことのないマールファス連邦とラーシュガルド帝国とも国境を接している。奴隷達の中にはルーグラン王国以外の国の出身者もいたため、いずれの国にも接している中央行商独立都市エリシュガに時空の門穴ウルトラ・ワープゲートを開けるようにしておきたいという思惑があってのことだった。


 その道中にも元奴隷達の住む集落がいくつもある。

 無縫達は元奴隷達から収集した情報を元に一つ一つの集落を訪ねたが、そのほとんどが壊滅していた。

 魔物によって壊滅した集落、奴隷を手に入れるために非合法な傭兵団が襲撃した集落――壊滅した理由は様々だが、元奴隷達の帰るべき場所が失われたという点では同じである。

 同行しているエアリスとミゼルカも故郷が滅んでしまったという残酷な光景を目撃することになってしまった。


 しかし、全ての元奴隷達の故郷が滅んだ訳ではない。ごく僅かではあるが、暮らしていた集落に戻れる者達もいた。

 集落に戻る決意をした元奴隷には当面の生活費として銀貨を手渡し、集落の代表者にも元奴隷のことをよろしく頼むという意味で銀貨を手渡した。

 ……とはいえ、元奴隷達がかつてのような暮らしに戻れたかは微妙なところである。

 元奴隷だからと色眼鏡で見られることもあった。酷いケースでは、奴隷になる前に婚約をしていた集落の男から純潔を疑われ、婚約が破棄されたといった事例もある。


 集落に戻ることが本当に幸せだったかどうかは分からない。しかし、それが彼らの選んだ道であるならば無縫にもフィーネリアにも横槍を入れる権利も説得をする権利もない。


 一方、集落が滅んだという事実を目撃した者達の中からは、滅んだ集落を整備し直して新たな集落を作る決意をした者達もいた。

 奴隷時代に顔見知りになったというケースや、無縫が提供したホテルで部屋が近くなって意気投合したというケース、状況は様々だが男女数十人からなるグループが複数、新たな集落を作る決意をして無縫達の元を離れていっている。


 無縫は彼らが新たな集落を作って上手くやっていけるように手土産を持っていって領主と話を付け、彼らが新たな集落を築けるように下地を作った。

 領主からも公認され、新たな集落を築いた元奴隷達だが、周辺の集落とはまだ交流がない状態である。

 しっかりとしたコミュニティを築けるかどうかは今後の彼らの頑張り次第だ。



 七万二百五十人ほどいた元奴隷の数が六万人台に入った頃、無縫の携帯電話に連絡が入った。

 電話の主は真由美だった。どうやら、ログニス大迷宮の千層の主であるデモニック・ネメシスに苦戦しつつもなんとか勝利し、ログニス大迷宮を完全攻略したらしい。


 報告を受けた頃には既に中央行商独立都市エリシュガの土を踏み、更にマールファス連邦とラーシュガルド帝国の検問所も超えていた無縫はクランチルス公国の付近へと時空の門穴ウルトラ・ワープゲートを使って移動し、その後フィーネリアにその場を任せて一人事前に取り決めをしていた場所へと向かった。

 以前、百層を攻略した時に真由美が手渡されていた空間魔法のデバイスで時空の門穴ウルトラ・ワープゲートを開いた地点に到着してから連絡を入れると、時空の門穴ウルトラ・ワープゲートが開く。


 無縫が時空の門穴ウルトラ・ワープゲートを潜ると、その先にあったのはルインズ大迷宮の地下深くにあったものと同じ、扇形状の巨大な近未来都市だった。


「お疲れ様です、皆様。無事に全員生存で迷宮攻略できたみたいですね」


「……何度死ぬかと思ったことか。じゃが、妾達は勝った! 勝ったのじゃ!!」


「ドルグエスさんはともかく、他の四人でしっかりと連携して千層のデモニック・ネメシス相手でも戦えたわ。……ドルグエスさんが毎回一人勝手に突撃していくのは、もう少しどうにかしてもらいたかったけど」


 真由美が溜息を吐いて顳顬を抑えていても全く気づいていないのか、「ハッハッハッ!」と高笑いをするドルグエス。……やはり空気が読めない脳筋という評価は間違っていないようだ。


「ところでぇ〜、無縫君達の用事は終わったのかしらぁ〜」


「ああ、無法都市で賭け事(ギャンブル)を楽しんできたよ。ただ、フィーネリアさんの頼みで奴隷解放をすることになってね。今は故郷に送り届けたり再出発の斡旋をしたりで各地を奔走しているよ」


「異世界で奴隷解放、テンプレですね」


「現実とファンタジーの区別がついていないそこの腐れ陰陽師のことは置いておいて……なかなか大変なことをしているわね。上手くいっているのかしら?」


「微妙なところですね。故郷に戻れた者も奴隷だったという偏見に晒されていますし、貞操を疑われて婚約解消というケースもありましたし……。それに、故郷が滅んでいるという残虐な事実を見せつけられたというケースもあります。中には残酷な現実にもめげずに再出発する方もいましたが、新参者に対する目は厳しい。今後も辛い経験をすることになるでしょうが、全て彼らが選んだこと。俺にできるのはできる限りの資金援助をしてただ応援することだけです」


「それでも誰にでもできることではないと思うわ。……それにしても酷い話よね。好きで奴隷になった訳ではないのに。辛い経験をしてきたのに、解放されても辛いことが待っているなんて。といっても、私にできそうなこともないのよね。鬼斬という血生臭い世界に巻き込むわけにはいかないわ」


「そういえば、昔奴隷解放をしたことがあったそうじゃな? その時はどうしたんじゃ?」


「今回とほとんど同じだよ。故郷に戻れるなら帰ってもらって、独立を願うのであれば必要な準備を整える。後は仕事などの斡旋。異世界で探すこともあったけど、希望する人には地球に来てもらうこともあったな。リリスさんの直属の部下には元奴隷が何人かいる。同じ苦痛を味わった者同士、他の世界から来た者同士で助け合える部分もあるからね。リリスさんには今回の件を連絡してあって、元奴隷の方々にもそういう選択肢があるってことだけ伝えてあるよ」


「流石は無縫じゃな。……うむ、妾も手伝いたいが、できることはほとんどないからのぉ」


「だったらぁ〜、うちの神社で働いてもらうのはどうかしらぁ〜? 楪さんをお支えする巫女はもっといっぱい必要だってぇ、常々思っていたのぉ〜」


「……うん、まあ、提案だけはしておくよ。じゃあ、そろそろ案内してもらってもいいかな? ここにもいたんだよね? 自律式統括者(ギア・マスター)


「えぇ、そうね。中枢管理棟アドミニストレータ・タワーで待っているわ」


「うむ、我は先に行って『伝説の聖鎧セレスティアル・メイル』をもらってきた! どうだ!? 素晴らしい鎧だろう!?」


「うん、そうですね……じゃあ、中枢管理棟アドミニストレータ・タワーに行きましょうか?」


 都市の中で最も高い中枢管理棟アドミニストレータ・タワーを目指し、無縫達は古代都市アヴァロニアの中を歩いていく。


 中枢管理棟アドミニストレータ・タワーの目の前には一人の女性の姿があった。

 水色の髪が僅かに混ざった桃色の髪をツインテールにし、橙色と桃色のオッドアイを持つ漆黒のプリンセスラインドレスを身に纏ったその女性は、纏う服の素材こそリエスフィアのものとにているが、リエスフィアよりもかなり幼い印象を受ける。

 リエスフィアの纏うドレスのような扇状的な要素は少なく、少女っぽさを全面に押し出したような可愛らしいドレスだ。


 リエスフィアと同じく背中に浮かぶ翼を持ち、この翼にもドレスと同様に無数の光り輝く青い筋が入っている。


「はじめまして、お兄ちゃん。私はシエール、この迷宮の自律式統括者(ギア・マスター)だよ!」


「はじめまして、庚澤無縫と申します。事情は真由美さん達から聞いていますか?」


「うん、話は聞いているよ! ロードガオン? っていう世界の住民を受け入れるために都市の拡張が必要なんだよね? 昔はちゃんと他の都市と接続できたんだけど、今は接続できないんだ。もうクリアしている迷宮と接続するなら、その迷宮の自律式統括者(ギア・マスター)と私が二つの迷宮で認証する必要があるよ!」


「では、早速お願いします。今、ルインズ大迷宮の古代都市アヴァロニアと繋ぎますね」


 無縫は時空の門穴ウルトラ・ワープゲートでルインズ大迷宮の古代都市アヴァロニアの中枢管理棟アドミニストレータ・タワーとログニス大迷宮の古代都市アヴァロニアの中枢管理棟アドミニストレータ・タワーとを接続、時空の門穴ウルトラ・ワープゲートを潜ってリエスフィアがやってきた。


「久しぶりだね、リエスフィアお姉ちゃん」


「お久しぶりですわ、シエールさん。……そのお姉ちゃんって呼び方やめませんか? 私よりもシェールさんの方が製造年が早いので、寧ろ私の方が妹に当たるのではないでしょうか?」


「つまり、シエールさんはロリババア……あぐぐっ」


「駄目だよ、お兄ちゃん。女の子にそんなこと言っちゃメッだよ!」


 余計なことを言った幸成の頭の上に小さな手を置き、万力の如き力で痛め付けるシエール。

 異常な光景だが、無縫達は「自業自得」や「お関わりたくない」という理由から華麗にスルー。

 しばらくして解放された幸成は涙目になりながら無縫達に視線を向けたが、こちらも華麗にスルーされた。


 その後、リエスフィアとシエールの手によって西地区と東地区のロックが解除された。

 かつて二つの都市を繋いでいたゲートが機能を取り戻し、遠い空間同士を繋ぐゲートが静かに起動する。


「後二つだね、お兄ちゃん達!」


「残るはクラック峡谷にあるレイゼン大迷宮と、ロズワード大火山にあるスコールド大迷宮ですわね」


「うむ、流石に妾は疲れた。次回以降の迷宮探索は別の者にお願いしたいのじゃ」


「私もぉ、そろそろ戻りたいわぁ〜。帰ってゆっくりお風呂に入りたいわねぇ〜。勿論、楪さんと一緒にぃ〜」


「絶対にッ! お断りじゃ!!」


「そうねぇ……私も一度戻ろうかしら? 他の鬼斬達にも異世界を経験させたいのよね。人選はさせてもらってもいいかしら?」


「そうですね、私も一度戻って陰陽師達に声を掛けて来ましょう」


「内務省の方も追加人員希望するかもしれませんし、科学戦隊ライズ=サンレンジャーにも希望者を募るつもりですし、人選は情報が出揃ってからにしましょうか?」

◆ネタ等解説・六十一話

ロリババア

 見た目は少女のようであるが、実年齢がずっと上であるキャラクターのこと。または老女のような振る舞いをする少女キャラクター。

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