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フィーネリアは不動産以外の投資にも詳しいようだ。現物は持っていないのにメープルリーフ金貨の本日の買取価格をすぐに誦じられるらしい……本当に必要なのだろうか?

「賭けだァ? 面白いことを言うじゃねぇか。そんなの俺がわざわざ応じる必要はねぇだろ? 俺の方が力も強い! 暴力で分からせればそれで解決だ!」


 ディアボロスの反応に、「……まあ、仮に暴力に訴えても無縫君には勝てないだろうけど」と心の中で呟くフィーネリア。彼女の瞳にディアボロスは井の中の蛙として映っている。


「あら? 三大マフィアの一角、ディアボロス様ともあろうお方が……怖いのですか?」


「なっ、なんだと!?」


「だってそうじゃないですか? 性差を利用して力で屈服させる以外の方法を持ち合わせていないのでしょう? 確かに自分の得意の土俵で戦うのは確かに理に適っているとは思いますわ。でも、結局それは弱いもの虐めの延長じゃないかしら? 負けるのが怖いから、自分が勝てる方法に縋る。それって、本当にマフィアの長に相応しい振る舞いかしら? ただのチンピラと大差ないわよね? それとも……チンピラ以下かしら? くすくす」


「なっ、なんだと!?」


「今の時代はビジネスライクが多いみたいですけど、昔のヤクザ者は任侠と呼ぶに相応しい信念を持つ方も多かったそうですわ。組織の長に相応しい深い懐の持ち主……まあ、貴方はただ暴力で従えるしか脳のないお猿さんみたいですけど」


「そっ、そこまで言うならお前の賭けとやらに乗ってやろうじゃないか! 俺は懐が広い男だからな! お前らみたいな弱き者にも対等な勝負をしてやろうじゃねぇか? だが、俺が勝ったらお前らは俺の奴隷だ。分かったか?」


「えぇ、その時は貴方の所有物となることを誓いますわ。ただし、負けたら奴隷を解放して組織のボスの座を降りることを、そして私達に手を出さないことをお約束くださいね」


 「……あらあら、随分と乗せられやすい性格しているわね。こんな安い挑発に乗るなんて。よく、犯罪組織の長をやっていられるわよね。もっと腹芸ができる人が多い印象だったけど」と、あっさりと瑠璃の挑発に乗ったディアボロスにジト目を向けるフィーネリア。


「それで、具体的な賭けの内容はどうするんだ? ポーカーか? バカラか? ルーレットか? それに、どういうルールで勝敗を決める?」


「ルールは単純明快な方が良いでしょう? なので、今回は一発少数のコイントスを提案させて頂きますわ」


「コイントスか……じゃあ、コインは部下に持って来させよう……って、死んでいるんだったか? お前の言葉が本当なら……仕方ねぇ。俺が持ってきて」


「それには及びませんわ。ゲームにはこちらの金貨を使用させて頂きます」


 どこからともなく瑠璃が取り出した金貨を一目見てフィーネリアの目の色が変わった。


「ここに何の変哲もないコインがありますわ」


「何の変哲もないですって!? そんな訳ないでしょう!? それってメイプルリーフ金貨じゃない!? それも、1oz(オンス)!? 買取価格320,625円くらいだったわよね!?」


「いや、知らないけど……詳しいですわね」


 フィーネリアのテンションにドン引きし、一瞬元の口調に戻る無縫……じゃなかった瑠璃。


「今日の越後貴金属店の買取価格で、他のお店だと前後しそうだけど、大体それくらいよね? 私、不動産の他にも投資には手を出しているのよ。ただ、金貨にはまだ手を出していないのよね。近いうちに手を出したいとは思っていたけど」


「アートとか、クラッシックカーとか、腕時計とか人気ですよね。後はオーソドックスなところだとワインとか。ちなみに、私も投資を目的にはしていないですけど、コレクションでトヨタ2000GTを保有していますわ。……勿体無くて乗れてませんけど」


「あの伝説的なクラッシックカーよね。億越えとか平気でする。やっぱり、持っている人は持っているのね」


「……とりあえず話を戻して、このコインでコイントスを行いますわ。ただし、コインを一度投げた後はキャッチしません。床に落ちたコインを目視で判断して表か裏かを判断します。表は楓の葉、裏は肖像側としますわ」


「随分と勿体無いわね。……コイントスに使うべきものじゃないでしょう?」


「仕掛けがないことを証明するために、ディアボロス様にはコインをあらためて頂きますわ」


 瑠璃がディアボロスの方へとゆっくり近づき、ディアボロスにメイプルリーフ金貨を手渡す。


「確かに見たことがない金貨だな。……だが、なかなか純度が高そうだ」


「カナダ中央政府直轄の公社であり、また国際的に信頼と評価が高い造幣局であるカナダ王室造幣局から発行された法定貨幣よ。世界一信用できる金貨と言っても過言ではないわ」


「……でも、それってこの世界だと通用しないわよ」


「まあ、仕掛けとかはされていないな。で、コインはどっちが投げるんだ?」


「ディアボロス様が選んで頂いて構いませんわ。ただし、コインを投げる側ではない方が表裏を選択できるというルールにしましょう。その方が公平ですわよね。コインは上に打ち上げること、投げてからは触れないこと、以上は遵守して頂きたいですわ」


「ああ、勿論だ。じゃあ、コインはお前が投げろ。俺は表か裏を選ぶ」


「では、早速――」


「ちょっと待ってもらえるかしら? もし、仮にコインが表でも裏でも無かったらどうするのかしら?」


「表裏どちらも出ないなんてことはねぇだろ? 何言ってんだ?」


「いえ、床の溝に挟まってコインが立ってしまったという場合もありますわね。その場合、仕切り直しということでよろしいかしら?」


「まあ、そんなことは滅多に起こらないと思うぜ。じゃあ、コインを投げろ! 俺は表を選択する! いいか、絶対にイカサマするんじゃねぇぞ!!」


 ディアボロスが投げたメイプルリーフ金貨を……瑠璃は一切躊躇なく指で弾いて打ち上げた。

 メイプルリーフ金貨はキラキラと輝きを放ちながら床へと落ちる。ポンと床で跳ねたメープル金貨は小さく回転し……そのまま落下して絨毯の上で動きを止める。

 その見えている面は――。


「肖像画……つまり裏ですわね。では、お約束通り私達に手を出すことなく組織の解散を」


「そんな訳ねぇだろ! 力で屈服させてやる!! ギャンブルの結果なんて関係ない!!」


「……あらあら、思った以上に小物ね。まあ、何となくこうなるんじゃないかって思っていたけど。でも、その選択は悪手よ。大人しくボスの座を降りて組織を解散していれば命を繋ぐことができたというのに」


 フィーネリアが溜息を吐いた瞬間、瑠璃が冷酷なほど冷たい視線をディアボロスに向ける。


「ギャンブルは神聖にして犯すべからず! ルール違反者は極刑に値しますわ。――罪状は、死罪!」


 後僅かで瑠璃に触れるというところで、ディアボロスの足がもつれる。何をされたか分からないディアボロスだったが、徐々に自分の身に何が起きたのかを理解し、顔から血の気が引く。

 足が言うことを聞かない。まるで神経が壊死したように……いや、感覚がないのだ。足だけではない、腕も……そして、その範囲は少しずつ拡大している。


「【即死】というスキルをご存知かしら? 別にサイコロに頼らずとも人一人スキルで殺せる力はあるのよ。その力をコントロールして、徐々に狙った部位から壊死させるように仕込ませてもらったわ。そして、雲消霧散マテリアル・ディスパージョンという魔法を応用して壊死した部位を元素レベルの分子に順次分散させていっているの……つまり、貴方に足はない。貴方に腕はない……貴方に胴体はなく、貴方に首はなく、貴方に貴方に貴方に……」


「やめろやめろやめろ!! 巫山戯るな俺はこんなところで……たっ、助けてくれ! 誰か誰か!!」


「哀れね……でも、自業自得よね。貴方に痛めつけられ、屈服させられて慰み者にされてしまった彼女達が泣き叫んだ時、貴方は手を止めたかしら? 助けようとしたかしら? その声を掻き消し去って、尊厳を踏み躙った……そんな貴方が、何故助けてもらえると思うのかしら? ……瑠璃さんは確かに理不尽よ。戦ってきた私には分かる。でも、貴方にそれを理不尽だと断じる権利はない。だって、貴方はそれ以上に理不尽なことを沢山してきたのだから。彼女達にとっての理不尽が貴方であったように、貴方は瑠璃さんという形をした理不尽に殺されるだけ。まあ、私は今回何もしていないし、そんなこと言う権利はないかもしれないけど……でも、一人の女として貴方のことは許せない! 死になさい!!」


「いっ、嫌だ嫌だ……助けてママ……」


 フィーネリアが冷たい視線を向ける中、ディアボロスの頭の先まで壊死し、塵一つ残さず消え去った。



 防衛省直轄、自衛軍病院――防衛省が設置・運営する自衛陸軍、自衛海軍、自衛空軍の共同機関であり、自衛軍中央病院や陸海空幕僚長を通じて指揮監督を受ける自衛軍基地地区病院の総称である。

 防衛医科大学校病院と共に防衛省が管轄する病院の双璧を成すこの自衛軍病院の一つ、自衛軍中央病院で病院長を務める陸将の医官――(もり)凍子(とうこ)は病院長室で電話を取った。


 本来、自衛軍病院の指揮監督は防衛大臣が陸上幕僚長を通じて行う。基本的に例外はない……のだが、今回の電話の相手はその例外に当たる人物であった。

 所属は防衛省ではなく内務省で、しかも非正規雇用(バイト)。しかし、その影響力は無視できないものであり、防衛省側にも()に対して多大な恩があるため、彼からの依頼は例外的に防衛大臣を通さずに受けるように通達が出ている。……まあ、相手は現内閣総理大臣のお気に入りでもある人物だ。頭をいくつか飛び超えているだけで結局は彼の要求が通ることは分かりきっているのだが。


『お疲れ様です、森陸将殿』


「久しぶりね、無縫君。大規模侵攻の時以来かしら? あの時はありがとう、私達のことを救ってくれたことは勿論だけど、他の地域でも軍関係者を救ってくれたと聞いているわ。民間人を含め、貴方のおかげ救われた命は多い。感謝しても仕切れないわね」


『……お礼を言われるような状況ではありませんよ。実際に間に合わずに救えなかった命も沢山ありました。……森陸将殿のお姉様、(もり)舞華(まいか)殿が所属していた101 分隊も到着前に壊滅していましたし』


「あの姉は表には出さないように立ち回っていたけど、性格破綻者だったわ。医師に相応しいからぬ性格をしていたし。故人を悪く言うのは良くないけど、人を殺すことに何よりも愉悦を感じるような人だったわね。……まあ、だから本望だったんじゃないかしら? 文字通り死力を尽くした最高の死闘を繰り広げられて。……それで、今日は一体どうしたのかしら? 私で叶えられる要件ならいいのだけど」

◆ネタ等解説・五十三話

メイプルリーフ金貨

 カナダ中央政府が保証する法定通貨。国際的な信頼と評価が高くカナダの国旗にも描かれているカエデの葉がレリーフされた気品あるデザインが特徴的である。

 メイプルリーフ金貨のデザインが広く知られるのは、その信頼性の高さに由来する。サイズは、1オンス、1/2オンス、1/4オンス、1/10オンスの四種類がある。参考にした田中貴金属工業株式会社のホームページによると、執筆時(2024/02/05)の税込の1オンスの店頭小売価格は354,746 円、店頭買取価格は323,725 円。


トヨタ2000GT

 トヨタ自動車工業(現在のトヨタ自動車)とヤマハ発動機が共同開発したスポーツカー。ヤマハ発動機に生産委託され、一九六七年から一九七〇年までトヨタブランドで販売された。型式は「MF10」と「MF10L」。

 当時の2000GTの価格は238万円で、トヨタ自動車の高級車であるクラウンが二台、大衆車のカローラが六台買える程に高価であった。

 僅か三年間しか行われず、販売台数は三三七台に留まるため希少性は極めて高い。

 サブカルチャーにおいては、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』の敵役ケンの愛車として登場しているのが有名か?


【即死】による部分壊死

 藤孝剛志氏のライトノベル『即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。』に登場する高遠夜霧が自身の『即死』能力の手加減を試した序盤の描写が由来。あちらでは成功していなかったが、こちらはきっちり殺す範囲を調整できるらしい。

 『即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。』も本作の著者がかなり影響を受けた作品の一つである。


雲消霧散マテリアル・ディスパージョン

 佐島勤氏のライトノベル『魔法科高校の劣等生』の主人公・司波達也が得意とする分解魔法の一つ『雲散霧消ミスト・ディスパージョン』から着想を得ている魔法。物体を元素へと魔法は自作『文学少年(変態さん)は世界最恐!?』の頃から登場しており、本作の著者がかなり影響を受けた作品の一つであると言える。


自衛軍病院

 現実世界で言うところの自衛隊病院のこと。

 自衛隊病院とは防衛省が設置・運営する陸・海・空自衛隊の共同機関であり、自衛隊中央病院や陸海空幕僚長を通じて指揮監督を受ける自衛隊地区病院の総称。

 自衛隊中央病院の指揮監督は防衛大臣が陸上幕僚長を通じて行うが、統合幕僚監部の所掌事務に係るものにあっては統合幕僚長を通じて行うものとされている。

 本作時空の自衛軍病院もシステムは大体同じ。


防衛医科大学校病院

 埼玉県所沢市にある病院であり、防衛省が設置する防衛医科大学校の附属病院である。本作時空でも現実世界と同様の場所にある。

 病院機能は大学病院と同じであり、一般の医療機関と同じように、誰でも受診できる。また他の大学病院と同じく特定機能病院の指定を受けており、初診時に紹介状がない場合は保険外併用療養費が別途加算される。また、埼玉県の第三次救急医療機関の指定を受けている。


(もり)舞華(まいか)

 初出は『百合好き悪役令嬢の異世界激闘記』。主人公である百合薗圓の敵である瀬島一派に属する女軍医。百合薗圓陣営の執事長・(やなぎ)影時(かげとき)と因縁がある。

 別世界の彼女の活躍は語ると長くなるので、本編を読んで頂きたい。

 本作時空でも代々津和野藩の典医を務め、公武合体と新政権発足が行われた明治以降は元陸軍大臣の山縣有朋によって引き上げられた森林太郎の血を引く名門森家の生まれ。この世界では瀬島奈留美と繋がりはないため実験なども行っておらず、ただ人を救うよりも人を殺すことの方が好きな猟奇的な女軍医である。

 本編時点では既に死亡している。ちなみに、『百合好き悪役令嬢の異世界激闘記』の時空において妹は存在しなかったりする。


101分隊

 初出は『百合好き悪役令嬢の異世界激闘記』で作中本編時点では既に存在しない陸軍の分隊。

 本作時空でもメンバーは同じであり、柳影時が隊長を務め、西野(にしの)雅之(まさゆき)南海(なんかい)武久(たけひさ)北村(きたむら)勇士(ゆうし)東城(とうじょう)八英(はちえい)中浜(なかはま)(つばめ)灘波(なんば)(じん)が所属していた。


◆キャラクタープロフィール

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(もり)凍子(とうこ)

性別、女。

年齢、三十九歳。

誕生日、七月十八日。

血液型、O型Rh-。

出生地、島根県鹿足郡。

一人称、私。

好きなもの、理論、饅頭茶漬け、シュトーレン。

嫌いなもの、鯖の味噌煮、姉。

座右の銘、癒す医療。

尊敬する人、特に無し。

嫌いな人、森舞華。

好きな言葉、ヒポクラテスの誓いの全文。

嫌いな言葉、特に無し。

職業、軍医。

主格因子、無し。


「自衛軍中央病院で病院長を務める陸将の医官。代々津和野藩の典医を務めてきた森家の出身。優秀な姉と比較されて育ってきたが、姉に対して嫉妬心を抱くことはなく、寧ろ異質な精神性を持つ姉に恐怖を覚えて育った。大規模侵攻の際に助けてくれた無縫には恩を感じており、様々な場面で便宜を図ろうとしてくれている」

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(もり)舞華(まいか)(並行世界/大日本皇国)

性別、女。

年齢、四十三歳。

誕生日、七月九日。

血液型、O型Rh-。

出生地、東京都。

一人称、私。

好きなもの、理論、饅頭茶漬け、血の匂い香る戦争。

嫌いなもの、鯖の味噌煮、退屈な平和。

座右の銘、壊す医療。

尊敬する人、特に無し。

嫌いな人、特に無し。

好きな言葉、特に無し。

嫌いな言葉、特に無し。

職業、軍医。

主格因子、無し。


「代々津和野藩の典医を務めてきた森家の出身。大学卒業後に防衛医科大学校に入学、卒業後に101分隊に軍医として配属された。医師として医療行為に従事するよりも戦争と血と鉄を愛する性格破綻者だった。死に際の顔はとても満足げだったらしい」

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