血塗れ賭博師の綺想葬送曲(2)
「一体なんなんだよ! てめぇはッ!!!! くっ、ボスの命令なんて関係ない! 俺は降りさせてもら――」
仲間が三人立て続けに殺され、怒りよりも恐怖が勝ったのだろう。
比較的後方に居た男が仲間を盾にしつつこの場から逃走を図ろうとする……が。
「――四人目」
次の瞬間、逃走を図ろうとしていた男の言葉が不自然に途切れ、首から膨大な鮮血が噴き出した。
理解し難い速度で盾にされた男達の隙間を縫って走り抜け、逃走を図ろうとしていた男だったであろう死体の目の前に現れた瑠璃が鮮血に濡れた右手を刀についた血を落とすようにぶん、と振るのとほぼ同時に宙を舞っていた首がボトリと落ちる。
――バシャッ。
その首を瑠璃は平然と踏み抜いた。頭部がグシャリとひしゃけ、膨大な血液が路地の一角を塗り潰す。
手刀を作り上げたことで手首から手全体に掛けてビキリと立って脈打っていた筋肉の筋が消え去った。
瑠璃はグゥパァと手を開く閉じるを繰り返すと、先程擦り抜けてきた男の一人の眉間に瞬時に取り出した銃口を突きつけ、容赦なく発砲した。
「……五人目」
「瑠璃さん、ちょっとやり過ぎじゃないかしら? ……戦い方が悪趣味過ぎて……ちょっと気持ち悪いわ。正直、かなり吐きそうなんだけど」
「悪の女幹部がこの程度で吐くようなメンタルしているのはどうかと思うんだけどなぁ……」
「はぁ……うっぷっ。あの、ねぇ、だから、それは、偏見なのよぉ!! 私、こういうグロいの苦手なんだからぁ!!」
「――ッ! おい! お前っ! コイツがどうなってもいいのか!? 手を出されたくなかったら大人しく手を挙げて降伏を――」
半数がやられ、瑠璃をどうにかするのは無理だと判断したのだろう。
男達は吐き気を催して弱っているフィーネリアを狙い、人質に取ろうとするが。
「……フィーネリアさんがその程度の敵に囚われる訳ないじゃないですか。だって、悪の女幹部ですよ?」
「はぁはぁ……メンタルはボロボロなのよ! 主に瑠璃さんのせいで!! ワーブウェポン・旋風斬刀!」
狙われたフィーネリアはワーブル体へと換装――換装と同時に現れた武器の柄となる筒にワーブルを流し込み、無数の白い光の筋を纏う純白の刀身の刀を生成する。
フィーネリアが剣を薙ぎ払った瞬間、純白の筋が一つ消え、遠く離れた男の胸元に真一文字の斬撃が走った。
「……すぐに手当てすれば助かる程度の傷ですわね。……随分と甘い判断ですこと。相手は私達に殺す異常の仕打ちをしようとしている輩、生かす必要性など皆無でしょう?」
瑠璃は斬撃を浴びて重傷を負い、すっかり動けなくなった男に肉薄。
その傷口に手を当て――。
「――覇流衝爆」
フィーネリアの慈悲を無碍にするように膨大な覇霊氣力を傷口から流し込み、肉体を無数の肉片へと爆裂四散させる瑠璃。
その光景に、ワーブル体となったことで精神が強化されたフィーネリアも流石にグラつく。
「――後四人ね。さて、どうしようかしら?」
「たっ、助けてくれッ!! ボスには逆らえないんだぁ!!」
「よーし、決めたわ。まずは、君に決めた」
泣き叫ぶ男は自分が指を指されるのかと怯えたが、瑠璃が指を指したのは別の男だった。
男が安堵の表情を浮かべる一方、指を指された男の顔は急激に蒼白に染まっていく。
「鬼斬我流・火焔纏剣。――十字斬り!」
愛用する刀――「冥斬刀・夜叉黒雨」を小さな時空の門穴から取り出した瑠璃は覇霊氣力を変化させた炎を剣に纏わせると、「瞬閃走」を駆使して擬似的な宿地を発動――至近距離から横薙ぎを放ち、その後、十文字を描くように剣を振り下ろす。
その斬撃もただの斬撃ではない。瞬時に腕の筋肉を伸び縮みさせ、それによって生じた筋伸縮のエネルギーを衝撃波に変換、それを斬撃に乗せて放っており、通常の斬撃よりも遥かに破壊性を増している。つまり、浸透勁の剣技への応用である。
「桃源天剣流・弼星」と呼ばれる技だ。
更に、ここに覇霊氣力を敵の体内に流し込み、内部からダメージを与える内部破壊の一撃、通称「覇流衝爆」の技術が加わればその力は推して知るべし。基本的に桃源天剣流の使い手は「覇流衝爆」と「弼星」を併用して使っており、寧ろこちらの方が一般的である。
男の身体は斬撃を受けた部分を中心に衝撃が走り、傷跡から無数の亀裂が走った後、四つの塊に切り裂かれた。
また一つ凄惨な死体が生成されたが、男達にショックを受けている余裕はない。
「残り三人。……うーん、飽きてきたし銃撃でいいか」
――二つの細い発砲音と同時にほぼ同時に二人の男が頽れる。眉間に銃弾が貫通し、後頭部から赤く細かい飛沫を上げ、二人の男は息絶えた。
「さて……」
瑠璃は最後に生き残っている男にゆっくりと歩み寄っていく。
男は後退りするが、逃げる方向が悪かったのかすぐに壁に背中が当たってしまった。
「君達のボスの潜伏先、アジトの場所を教えてもらえるかしら?」
「わっ分かった! お、教える! 教えるから!! だから助けてくれ!!」
「…………で、場所は?」
「ちゅ、中心街にある最も大きな屋敷だ!! その近くには幹部の――地位の高い構成員達の邸宅もある! おっ、教えた! だから、助け――」
「これで助かる」と安堵の表情を浮かべた男の顔が凍りつく。
「な、なんで……俺は確かに教え――」
「Addio! ――Game is Over.」
瑠璃は天使のような微笑を浮かべながら、銃の引き金を引いた。
――ドン。
◆
「浄化……これで良し」
自分とフィーネリアの返り血を魔法で消し去り、瑠璃は大きく伸びをした。
「こんなに凄惨なことをする必要は無かったでしょう。瑠璃さん、貴女って本当に正義の魔法少女なの?」
「はぁ……フィーネリアさん。陰陽術の奇門遁甲でここには誰も近づけないから、取り繕う必要はないよ。まあ、同時にここからも逃げられないんだけどね。陰陽術の奇門遁甲でこの辺り一帯の方向感覚を歪めているから」
「……どの道ここから彼らが逃げ出す方法は無かったということね」
「そうなるね。……で、フィーネリアさん。話を戻すけど、いい加減さぁ、俺に正義の魔法少女のレッテルを貼って色眼鏡で見るのをやめようか。俺は正義を掲げるような人間じゃない。世間一般で道徳と言われるものが何かも認識はしているけど、それに従うつもりもない。俺は道徳ではなく、勝負師の論理に従って生きている。だから、一度勝負となれば真剣に戦う。どんな手を使ってもね」
「……つまり、この戦い方が無縫君本来の戦い方ということね。私達は手加減されていたと」
「まあ、対話もできる相手だしね。後は、君達ワーブル体を盾にしてすぐ逃げるから倒しにくいっていうこともあるけど」
「……だとしても、流石に最後のアレは一線を超えていたんじゃないかしら? 敵のアジトを教えたんだから普通は生かすべきでしょう?」
「一言も情報を吐いたら助けるなんて言ってないんだよなぁ。……そんなこと言ったかな?」
「言わなくても、普通はそういう風に受け取るでしょう?」と言いたげな視線を向けるフィーネリア。
「……でも、やっぱり無縫君らしくないんじゃない? ギャンブル戦法を使っていなかったし」
「ん? ギャンブルならしていたじゃないか」
「……へぇ?」
全く気づいていない様子のフィーネリアに、瑠璃は魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスの変身を解いて無縫の姿に戻ると、やれやれと肩を竦める。
「彼らはボスの命令に背くか、俺達を捕まえるかというある種の賭けをしていた、とも判断できるんじゃないか? そして、俺達を捕らえにきた。このギャンブルで得られるのは俺達……というか、瑠璃とフィーネリアさんという美少女と美女を好きにしていい権利だ。まあ、瑠璃は中身が俺だからともかく、フィーネリアさんは極上の美女だからね」
「……最低な話よね」
「だが、賭けである以上は天秤の片方にのみ何かが乗せられているのは不公平だと思わないかな? その天秤には当然、反撃される可能性や自分達の命が狙われる可能性が乗る訳だ。まあ、連中は自分達の命の危険なんてある訳がないと踏んでいた訳だが」
「結果として、彼らはギャンブルに負けて対価を……命を支払ったってことね。だから、手加減はしなかったと。言い分はよく分かったわ。一応、筋は通っていると言えなくもないわね。貴方の論理に当て嵌めれば。……倫理的に考えればどうかと思う所業だけど」
「侵略軍の悪の女幹部が倫理を語ってもねえ。……それに、奴らは非合法な連中だ。そんな輩相手に殺さずにって考えでいる方が危険だ。やられる前に殺るくらいの心構えでいるべきだと思うよ。さて、フィーネリアさん、この後どうする? 俺はこいつらの上――ブラックナイトファミリーの本拠地を叩きに行くけど」
「そうね……ホテルに戻ってもマフィア傘下のホテルが守ってくれる訳がないし、他の客にも迷惑が掛かるわ。さっきの戦いで対処はできない相手じゃないことが分かったけど、やっぱり最も安全な無縫君の近くにいるべきだと思うわ」
「うーん、敵の本拠地ど真ん中が安全な筈がないと思うんだけどね」
「でも、無縫君がマフィア如きに遅れを取る訳ないでしょう? それに、流石に自分の身くらいは自分で守れるし」
「そりゃ、ロードガオンのエリート様だからね。寧ろ、戦えない方がびっくりだよ。それじゃあ、ギャンブルに行きましょうか? 賽子たっぷり持っていかないと……」
「今度はギャンブル戦法使うのね」
「今回はこちらからの襲撃だからね。じゃあ、楽しみましょうか?」
「……貴方の気持ちが全く理解できないわ。無縫君」
◆ネタ等解説・五十一話
北斗九星
北斗七星に輔星と弼星を加えたもの。
出典は北宋の時代の道教の書『雲笈七籤』24巻「日月星辰部」。




